林檎に牙を:全5種類
休み明けの月曜日は皆揃って気怠げ。
授業が終われば、割り増しの疲れが身体に圧し掛かってくる。

今日も放課後を告げる鐘が校舎に響く。
そうして教室を出ても、そのまま帰宅していく背中は一部。
大多数の生徒は部活動が残っているのだ。


「忠臣、部活行かないの?」
「……もう少し。」

青葉はバスケ部、忠臣は柔道部。
体育館と道場は近いので一緒に行こうと思ったのに。

スポーツバッグを提げて青葉が声を掛けても、忠臣の対応は適当。
机で本を開き、すっかりのめり込んでしまっていた。
せめて一瞥するくらいしたら如何だろうか。
面倒そうに手で追い払う仕草まで。


粗雑に扱われるのは慣れっこ。
読書家が熱中したら尚更、とは解かっているのだが。

程々にして本を閉じねば遅刻してしまう。
ただでさえ柔道は礼儀を重んじるので、雷を落とされるのでは。
せっかちも加わって、いつも10分前行動が基本の忠臣だ。
真面目な性分の彼らしくない。

青葉が何となく違和感を嗅ぎ取ったのは、気のせいでなかった。
それを裏付けた、肩越しの呼び声が一つ。


「芹沢、お前もしかして試合の事まだ引き摺ってんのきゃ?」

本の世界に意識を飛ばしていた忠臣が表情を崩した。
隠し事が出来ないのだ、あからさまな苦味。
どうやら図星で間違いなし。

的確に見抜いたのは第三者。
一重の吊り目を至って平静に向ける梅丸だった。


「梅、何でお前はそう触れられたくない所をベタベタと……」
「確信持ってた訳じゃないがね、だから訊いたんべ。」
「えっ、何、どうしたの?」

恨みがましく睨む忠臣に、首を傾げる梅丸。
青葉一人だけが置いてけぼり。

「試合」とは柔道部での事だろう。
そう云えば、先週の土曜日に来る他校と対戦するとか聞いた気がする。
遊びに行く予定を立てようとしたら断られたのだ。
ならば日曜日、と思ったら「疲れた」なんて素っ気なかった。

忠臣が武道に打ち込んでいる様は、大変そうでも今まで他人事。
遊べなくても青葉はあまり気にしておらず。

一方、バスケ部は同好会のようなもので割りと呑気。
体育館もあまり大きくないので、他の部活と譲り合いになる。
ボールを追い掛ける日も楽しくやれなければ意味が無い。
熱くなる生徒は物足りないかもしれないが、青葉には居心地が良かった。


「あぁ、負けたんだね……、忠臣。」
「青葉!何デスか、その目!同情ならやめてくれマス?」

「試合を引き摺る」と言われたら、それしかあるまい。
勘の良い青葉でなくても簡単に察しが付いてしまう。

梅丸が何故知っているか、と云うのは愚問。
床くらいしか仕切りの無い道場、隣で剣道も部活中だったのだ。
試合中の柔道と違って、此方はいつも通りの練習だけで終了。
畳の方でバタバタやっていたら思わず見てしまう。

「でもさ、勝負なんて時の運じゃない?」
「女子だったんさ、対戦相手。」

飽くまでも軽く言う青葉に、梅丸が耳打ちする。
なるほど、それを聞いて納得。
忠臣の負けず嫌いなら知っていた。
そこに男としてのプライドも足せば、傷は鈍く重いか。

柔道は体重別の競技である。
正式な試合なら滅多に異性同士で組まないし、体格も似たような者同士。

しかし、ほんの二校での対戦なら単なる練習試合。
女子の方が柔道人口は圧倒的に限られるのだ。
確か王林中学でも少なかった筈。
人数が合わずに男子の忠臣と組まされた、そんなところだろう。


「女子に負けるのって結構ヘコみマスよ……」
「だったらさ、尚更もっと練習しなきゃ。」
「そうだべ、ほら立った立った。」

青葉が本を取り上げれば、梅丸が忠臣を無理やり立たせる。
体格差があるので敵わずにされるがまま。

筋肉質の腕に持ち上げられて椅子から浮かぶ腰。
忠臣の方も本気で部活を休む気など無かったのだろう。
半ば拗ねた雰囲気でも仕方なく起立。
横を梅丸と青葉に固められながら、やっと教室を出た。


階段を下りて、渡り廊下まで出てくると体育館が見えてきた。
もうすぐ青葉だけお別れ。
隣が空いてしまうのは、何だか名残惜しくなる。

「安心しな、俺が責任持って道場まで連れてくがね。」
「今更逃げたりしマセンよ。」

少し笑って、梅丸に後を任せる事にした。
それは一抹の切なさが混じる。


忠臣は土曜日から抱えていたのに、青葉は淡い憂鬱に気付けなかった。
部活に関しては梅丸の方がずっと近い。
“疎外感”なんて言い表せば大袈裟になるだろうか。

もしも、青葉も柔道か剣道を選んでいたら。

ふと考えた事もあるが、どうしても想像は出来なかった。
青葉は自分が何をしたいか解かっているつもり。
どちらも向いていない、故にやりたいとは思わないのだ。

それなのに、揃って道場へ行けない事が今は寂しい。
忠臣と梅丸の背中を見送るしか出来ずに。



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2015.05.13