林檎に牙を:全5種類
桜の頃が終われば、春は球技大会で何処のクラスも沸き立つ。
運動会が無い王林中学では体育会系が活躍出来る唯一のイベントである。
男子はサッカー、女子はバレー。
種目こそ違えどもそれぞれ全力で挑むのみ。

グラウンドに体操服の紺藍色が散らばる季節の到来。
連日、時間さえあれば練習の為にボールを追う姿が目を引いた。


「やるからには、目指すは優勝だかんね!」

身体を動かす事と祭りが好きな都来も張り切る一人。
始業時間前の澄んだ空、既にエンジンの掛かった声が響いた。
眠そうなクラスメイトも居る中で今日も朝から元気。

今から大会に備えて朝練するクラスも珍しくなかった。
此の時間に登校する生徒は体操服姿。
サッカー部とバレー部が筆頭になるものだが、2-4組は都来が居る。
やる気を燃やして一際熱くなっていた。


「ほら、鈴華ちゃんも立った立った!」
「ごめんなさいね、私はまず眠気に勝てないわ……」

都来と対照的に、欠伸混じりの声。
朝の空気をクールダウンさせたのは鈴華だった。

早起きも体育も苦手、そんな鈴華にバレーの朝練は酷な話。
合唱部だって準備運動が欠かせないので体力ならそれなりにあるものの。
都来が迎えに来ているから成り立っているものだ。

ただし、学校に到着しても寝起きとあまり変わらないまま。
日陰に座り込んで目を瞑り、もう動かなくなりそうだ。


「鈴華ちゃんも参加してくんなきゃ、あたし寂しいじゃんよー。」
「惜しいわね……、その台詞、優さんなら効くでしょうけど。」

優相手だったら効果抜群の潤んだ瞳。
体操服の裾を引こうとも、女の武器は女に効かず。
都来が大事なのは鈴華も同じ。
ただそれは彼の場合と少し違う意味、そこが分かれ目。

「都来さんも数学で眠くなるでしょう?私も同じ状態なのよ……」
「あああ、そっかぁー!それは仕方ないよね……!」

そうなると、口が達者な鈴華の方が有利だった。
都来が納得してしまえば此方のもの。
説得している筈が、逆に丸め込まれそうになる。


「お前ェら、いつになったら朝練始めンだよ……」

溜息混じりの低い声が二人の肩を叩く。
振り返れば、担任教師の黒巣が彼女達を見下ろしていた。

都来と鈴華がマイペースなのはいつもの事。
そのうち加わるから放置。
二人に構わず、他のクラスメイト達は早々と準備中。
同じ教室で過ごす日々ですっかり慣れ切ってしまった証拠だ。

しかし、纏め役の黒巣はそうもいかない。
何かと忙しい朝の時間は30分でも惜しいのだ。
付き合いで早起きさせられたのに、此れでは無意味になってしまう。


「あら……クロ、本当に朝が似合わないわね……」
「あっはっは、クロさんてば朝陽眩しすぎて眉間の皺凄い事になってるもんねぃ。」

不機嫌な表情にも見えるが、通常通りなので慣れれば怖くないのだ。
しみじみと言う鈴華に、飽くまで屈託なく笑う都来。
教師の威厳なんてあったものでは無し。

そもそも彼女達とは、教師と生徒の関係になる前からの古い付き合い。
優が此処に居ても同じ事になっただろう。
四人に纏わる事情は、また別の話になる訳なのだが。
今更、黒巣が上の立場として接してきても従っちゃくれない。


それでも、バレーに励む義務は変わらず。
鈴華が愚図ったところで所詮は無駄な抵抗だった。
解かっているから、いい加減に伸びをして眠気を払う仕草。

「スポーツって勝敗あるから無駄に熱くなるのよね、楽しくやるだけじゃ駄目だもの。」

最初から優勝に興味が無い様子。
恐らく大会の日になっても鈴華の気持ちは動かないのだろう。

単なるボール遊びだとしたら少しは楽しむ姿勢。
けれど、白黒付けるとなれば余計なものまで巻き起こる。
負ければ涙に落胆、勝っても傲り。
そこには激しくエネルギーがぶつかり合う。

身体ばかり育っても、まだまだ中学生は精神面で云えば幼いのだ。
大会はそんな感情も含めて貴重な体験ではあるものの。


「何かご褒美でも欲しいところだわ。」
「そーだクロさん、大会終わったらクラスに何か奢ってよ!担任の務めっしょ?」

視線だけで強請る鈴華に、都来までも同調して目を輝かせる。
恐れ知らずは簡単に言ってくれる。
クラス全員分となれば持ってくるだけで少し大変。
それだけ大量なら、業務用スーパーで購入した方が安上がりか。

「ソーダアイスなら……、何とかならんでもねェけど……」

向かうところ敵なしの彼女達を前に断る事は出来ず。
無理な話ではないので、結局黒巣が折れた。


「よっしゃー!鈴華ちゃん、踊ろう!」
「まだ大会は先よ?まぁ、良いわ……」

万歳した後、都来の手は鈴華に差し伸べられる。
こうして指先が絡めば無敵。
あれほど重かった腰をいとも容易く持ち上げてみせた。
居心地の良い日陰から、輝く朝陽の下へ連れて行く。

はしゃぎたい盛りの年頃。
バレーでもアイスでも、理由なんて何でも良いのだ。

立ち上がったからには、練習中のクラスメイトからお呼びが掛かる頃。
いつまでも二人だけ甘やかしてはくれない。
分かっていても、もう少しだけ。
朝陽を浴びながら彼女達はでたらめなワルツに身を任す。



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2015.05.17