林檎に牙を:全5種類
暑いくらいに眩しい晴天、球技大会は当日を迎えた。
今日ばかりは教科書を閉じた戦場。
校庭に散らばる白と紺藍、体操服の生徒達がボールを熱心に追う。
コートでは空高く、フィールドでは砂埃を巻き上げながら。

女子のバレーも男子のサッカーも準決勝開始。
試合は勿論の事、応援にも熱が増してお祭り騒ぎになっていく。


「そりゃ怪我人も出る訳っスね……」

白熱する試合から少し離れた日除けテントの下、歩の呟きが落ちる。
此処、影が作られた出張保健室だけは涼しい。

遠くを凝視する為、「糸目」とすら呼ばれる目をますます細めた。
華奢な手足に体操服、丸みのあるショートヘア。
セーラー服と違って今の歩は中性的な男子にも見える。

生徒全員が選手として出場する訳ではない。
大会では委員の仕事もあり、必然的に各クラスから数人が抜ける。
保健委員の歩もその一人。
今日は白衣ならぬ体操服の天使として治療に当たる最中。


注意一秒怪我一生。
ボールばかりに気を取られて、周りが見えていないと事故の元。
他の選手と衝突、若しくは勢い余って強く打ち付ける等。

何よりも此の晴天と暑さだ、熱中症にもなる。
テントの下は負傷者がちらほらと逃げ込んできていた。

「やっぱ色素薄いと太陽に弱いもんスかね、巽君。」
「そうだねぇ……、目チカチカするし頭クラクラしちゃって。」

冷たい濡れたタオルを当てたまま目を瞑った顔。
金髪で碧眼、生白い肌の和磨が頷いた。
太陽に耐性が無く人一倍苦労するのだ、こうした際にはもはや常連。

歩とは同じクラスなのでたまに話す仲だった。
雰囲気や感性が女子寄りの為、和磨は女子の方が友達も多い。
容姿の良い男子は周囲から妬まれがち。
ただでさえ色素の薄さは"異端"として悪目立ちしやすいのに。

そんな中、和磨と仲が良い男子はクラスで一人だけ居たか。


そのうち、周囲より頭一つ大きい男子が此方に向かって来る。
うとうとしかけている和磨は気付いていない。
そうして浅い眠りに落ちる間際、件の男子からタオルを奪われた。
ぺちりと軽く叩かれたおまけ付きで。

「和磨お前な、寝んなよ!」
「ああ、回収に来たんスね……昕守君。」

タオルを握り、和磨の前に立ちはだかったのは進之介。
一方の寝坊助はまだ呆けており、痛みも苦情も訴えやしない。
寧ろ、不思議そうな表情が更に苛立ちを誘う。


「うちのクラス、男子Bチームが準決勝してんだぞ。せめて応援くらいしろよ。」
「えー、興味無いよ。球技やるの嫌いだし、僕。」
「まぁ……、確かにうちのチームも、お前居なくたって全っ然支障なかったけど。」
「それはそれで複雑な気持ちになるねぇ……まぁ、良いや……」

進之介に腕を引っ張られるまま、和磨は太陽の下へ帰って行く。
心配せずとも水分補給や休息はもう充分の頃。
後は相棒に任せても大丈夫だろう。

タオルだけ持たせ、「お大事に」と軽く手を振って見送った。
一人くらい減ったところで、歩は暇ではないのだし。


「アユー、オニイチャン暑くて倒れそうだから介抱してー。」
「軽口叩けるだけ元気そうデスけどね。」

ああ、次から次へと。

聞き慣れた声で振り向けば、やはり兄の青葉と忠臣。
一つしか違わなくても普段は接点無し。
そう大きくない学校でも、こうして顔を合わせるのは珍しい。

見たところ青葉も熱中症らしい。
忠臣はただの付き添いかと思いきや、片足を引き摺っている。
サッカーに捻挫は付き物。
こうして、二人纏めて面倒を看る事になった。


靴下を脱がせ、足首に湿布を一枚。
忠臣なら後は暫く安静にしていれば大丈夫だろう。

さて、青葉の方はと云えば、昔から暑さには弱かったか。
純日本人でも髪や瞳の色は多少なりとも違ってくる。
和磨ほどではないにしろ、平均よりも薄めなのが兄妹の共通点。

歩も同じなので青葉が弱っているのは解かる。
妙なところで似てしまったものだ。


「日焼け対策はしてたんだけどねぇ、ほらコレなんかUVカットなんだよ。」
「そんな長袖なんか着てるから暑いんじゃないデスか?」

夏物なので色も素材もサラッとした物。
新しい水色のパーカーを見せる青葉は心成しか自慢げ。
こんな時だと云うのにも関わらず。
弱っている割りにこうした言動が多いので、本音が掴めない。

ただ、日焼けにも服にも無頓着な忠臣が相手ではあまり意味が無し。
見ているだけで暑苦しいとばかりの表情をする。
青葉の首に触れたと思えば、胸元のジッパーを鳴らして下ろす。

「ちょっ、やだな忠臣、勝手に脱がさないでよ。」
「喧しい、病人は大人しくしてなサイ。」

衣服を脱がせて熱を逃がすのは基本。
細身に張り付くパーカーを引き剥がすと、汗の匂い。

その後は身体を冷やすのが大切。
水を飲み始めた青葉の首筋に、忠臣が冷却ジェルを当てた。
血管の太い部分は特に効果的。

「冷たッ!水吹いちゃうとこだったじゃないか、もう。」
「文句ばっか言ってないで自分でやってくれマス?オレも手が濡れるし。」
「あー、そうだね……、冷たくて気持ち良い。」
「だから、オレの手じゃなくて!」


結局、歩は処置に必要な物を渡しただけ。
忠臣に仕事を取られてしまった。

無自覚で引っ付いているから余計に怪しい。
進之介と和磨だって。
全く、誰も彼も浮かれて騒がしいものだ。
校庭もテントの下も。

「カップルがイチャつく為のものになりやすいスからね、イベント事って。」

これまた独り言。
そう結論付けて、歩はただ口を閉ざした。



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2015.05.22