林檎に牙を:全5種類
劇中の小田切渉君はりんごあめからお借りしてます。


illustration by ういちろさん


昔々、90年代の王林中学校での話。
ある時に生徒達から「学園祭の開催を!」と署名運動が起こった。
しかし、定番とされる秋には合唱コンクールがある。
そもそも何をやりたいのか?
そうアンケートを取ってみれば「体育館のステージでバンド」の支持が圧倒。

アニメや漫画ではよくあるが、実行となれば難しい。
生徒会長は鼻で笑って一言。

「バンドなんて誰が出来るって?」


聞き捨てならなかったのは生徒達と、音楽を始めとする若い教師達。
何しろ当時はJポップ全盛期。
寝ても覚めてもヒットチャートが流れていた時代である。
バンドブームで楽器への関心も高かった。

学校を説き伏せ、音楽室で練習を重ね、騒動から暫く後。
とある放課後の体育館、何組ものバンドが見事にステージを盛り上げた。
若さは時として莫大なパワーを発揮する。


とは云え、毎年のように演奏まで出来る者が居る訳でなく。

以来、春の或る日には体育館でカラオケ大会が設けられた。
全校生徒が参加してしまうと収拾がつかない。
ステージで歌えるのは三年生の希望者だけ、下級生達は観客。

勿論、演奏者が居ればギターやベース、音楽室からドラムも貸し出す。
振り付きで歌うも良し、衣装も持ち込み可能。
参加に当たって面倒なルールや手続きは幾つか踏まえるものの。
割りと自由が利く行事だけに毎年皆が楽しみにしていた。


伝統は続いて季節も巡る。
そして、また今年もカラオケ大会の日が近付いてきた。


開催の告知と、三年生には出場のプリントも各クラスで配られた。
曲名、名前、グループ参加の場合はその旨も。
あまり希望者が殺到してしまうと抽選になる年もあるのだ。
人数に合わせてスケジュールを組まねばならない為、提出期限は短い。

一年生の頃から参加を待ち望んでいたり、勇気を出そうと心変わりしたり。
観るだけでも充分に楽しめるので三年生は色めき立っていた。


「それじゃ決を採るよ、曲はコレで良いんだよね?」

教室の一角に男子数人が集まり、ミーティングの真っ最中。
議長を務める青葉が問い掛ける。
「異議なし」と頷いたのは忠臣、一ノ助、遼二、渉。

いつも連んでいる相手だって他者と交流くらいある。
友達の友達繋がりながら、こうして一組のグループが作られた。

選んだ曲は「救命戦隊サイレンジャー」。
彼らが小学校に上がった年に人気を博した、同名の特撮ヒーロー番組の主題歌。
そうでもなければ出場などしない。
人前で歌う事を渋る者も居たが「それならやる」と集まった面々である。

上手い下手は二の次。
優劣を競う訳でもないので、楽しんだ者勝ち。


ただ、折角ならもう少しインパクトが欲しいところ。
悪ふざけをしたい盛り。
若さの勢いに任せて、どうせなら派手な事をしてみたい。

「オレ、ドラムなら叩けンだけどよ。何か楽器出来るヤツ居ねェか?」

ありきたりながら、此処で一ノ助が生演奏の提案。
そこで「ピアノなら」と挙手した渉と遼二が顔を見合わせた。
弾き手が居るのは心強いが、二人も要らない。

どうぞどうぞとお互い譲り合いになっても埒が明かず。
結局、その案も却下になった。

「俺は昔習ってたから。」
「ああ、小田切君もですか……、僕もです。」
「まァなァ、合唱コンクールだとクラスに一人は弾けるヤツ居るし。」


そうなれば、また新たな案が浮上する。

「……コスプレでもしてみる?」

様子を窺いつつ提案したのは青葉だった。
さて、皆の反応は少しばかり驚いたり、照れ臭そうだったり。
それでも決して悪くない。
即座に断られる可能性も高かったので、意外な事に。

戦隊物はメンバーで色違いのジャケットを着ている事が多い。
救命戦隊サイレンジャーも例外でなく。
モチーフであるレスキュー隊の活動服がオレンジなので、番組でも同じく。
メンバーの各カラーと組み合わせて、並んでみると派手だった。

次に、衣装の調達はわざわざ手作りしなくても問題なさそうだ。
ジャケットは登山や釣りで着るタイプとも似ている。
スポーツ用品店に行けば、同じような形の物が見つかるだろう。


考えてみれば、ちょうど合わせて五人。
単に着るだけでなくメンバーに扮してみたらどうだろうか。
思いつくままに話し合っていたらそこに行き着いた。
面白そうだと何だか胸が躍りつつも、此処で問題が一つ。

五人のうち、イエローとピンクは女性なのだ。
誰か二人は女装する事になる。

まず、大柄の一ノ助と長身の渉は無理だろう。
最も小柄なのは忠臣だが、三白眼の顔も柔道で鍛えた体型も完全に男。
とても女物が似合うとは思えない。


「やっぱさァ、りょんともっちで決まりじゃねェの?」

苗字が望月なので、昔から青葉は「もっち」が渾名だった。
名前で呼ぶのは忠臣くらいかもしれない、そう云えば。

そうして消去法ながら一ノ助が挙げたのは、遼二と青葉。
どちらかと云えば女顔で線も細い。
可愛い色もスカートも違和感が少ないだろう、確かに。

「そうですね……、あのイエローって天パに眼鏡だったし、僕なら何とか……」

こうなっては諦め半分の声で了承する、癖毛に眼鏡の遼二。
他に人材が無いと理解したようだ。
イエローの枠が埋まって、残るはピンク。
視線は一斉に青葉へ注がれる。


「もっち顔綺麗だしなァ、脚細ェしスカートでも大丈夫だろ。」
「え……望月、本当にこのまま決まって良いのか……?」

青葉しか居ないと推す一ノ助に、渉が訝しむ。
そんなに気遣わなくても良いのに。

戦隊物でイエローは男女どちらでも居るが、ピンクは完全に女性の色。
女装も可愛い色を着る事も、正直やぶさかでない。
「コスプレ」と案を出したのは他ならぬ青葉なのだし、責任は持つ。
皆が楽しんでくれるならこれくらい平気だ。

異論も無く青葉が頷こうとした、その時。


「けど青葉……お前さ、実を言えばブルーやりたいんじゃないデスか?」

不意の一言、忠臣だけが流れを止めた。
向ける視線に猜疑心を込めて。

皆が首を傾げる中、理解したのも青葉だけ。

救命戦隊サイレンジャーは、二人にとって特に感慨深い作品だった。
変身アイテムの玩具を手にしては駆けて行った公園。
幼馴染の彼らはなりきり遊びをしたものだった。
その時の配役はいつも決まっていて、忠臣がレッドで青葉がブルー。


ああ、まったく。
忠臣ときたら成長していないのだから。

好きな物は今でも好き。
それでも、全てがあの頃のままじゃないのに。
この程度の融通くらい利くのに。

けれど、忠臣は当時の事をよく覚えていてくれた訳か。

「……そう、僕がブルーで忠臣がレッドなのは譲らないからね。」

伏し目がちの青葉が口許だけで笑えば不敵な表情。
嬉しかったから、空気を読むよりも忠臣の気持ちを汲む事にした。
一度纏まりかけた話を振り出しに戻してでも。


「おい、そんじゃ誰がピンクやるんだよ?」

此の問題には頭を抱える事になってしまった。
無理やりでも一ノ助か渉が演じるか。
やはりメンバーになりきる案は取りやめにするか。

さて、どうする?




「出場の許可下りたよ、カラオケで練習しなきゃね。」

あれから数日後の教室。
堂々と判子が押された参加書を翳して、青葉が皆に声を掛けた。
結果が出るまで内心気掛かりだったのだ。
無事に決まり、それぞれ改めてやる気や安堵の表情を見せる。

練習は勿論、その前に衣装を調達せねば。
カツラやボトムスの用意も必要なのだ、準備も忙しい。
此れで漸く安心して放課後の予定を話し合える。


困ってしまった時にも抜け道はある。
戦隊物のお決まりで、六人目の戦士が途中参加する事に気付いたのだ。
お陰で最初の話し合いは解決した。
もう一人、ピンク役を新たに迎えれば良いのだと。

レッド、ブルー、イエローはあのまま決まった。
「あまり目立つのは嫌だ」と渉がグリーン。
反対に「ド派手で格好良いから」と一ノ助がシルバーを選んだ。

さて、問題だったピンクはと云うと。


「宜しく、頑張れよピンク。」

順番に肩を叩かれて、ピンク役は無表情に頷いた。
嫌々引き受けたからではない。
感情表現が少なくて何を考えているか分からない奴なのだ、元々。

細身の筋肉質に、一重の吊り目が冷たさを保った面差し。
涼やかな風貌をした男子の名は、梅丸と云った。

「まぁ、俺は暇だったし……、別に良いがね。」

地元の訛りがきつい、淡々とした口調。
不参加者の友人に声を掛けてみて、了承してくれたのは彼ぐらいだった。
少し身長が高すぎるが顔立ちは整っている。
何とかなるだろう、とあまり深く考えずに納得させて梅丸は加わった。

斯くして、今此処に六人の戦士が集う。


「梅さんは犠牲になったのだ。」
「てゆか、普通に女子を入れる発想は駄目だったんデスかね……?」

そう締め括る青葉に、ひっそりと忠臣が呟いた。
そんなのつまらないじゃないか。
全校生徒の前で友人がスカートを穿く事になっても、青葉には他人事。


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2015.05.26