林檎に牙を:全5種類
劇中の小田切渉君はりんごあめからお借りしてます。


illustration by ういちろさん


週末、駅前のカラオケは稼ぎ時だけに大半の部屋が埋まっていた。
若い世代を中心に押しかけて、飲めや歌えの宴。
防音が効いているとは云えども壁一枚。
廊下を歩けば歌声が多少響き、楽しげな室内がガラスの扉越しに窺える。

大会に向けて特訓の為、渉達のグループも一室に集まっていた。
その筈だったのだが。

大画面に映し出される一曲目は早速「救命戦隊サイレンジャー」。
カラオケでも番組の映像が使われて歌詞が流れている。
しかし、盛り上がっているのは音楽ばかり。
先程までの合唱は途切れ、メンバーの大半が口許を押さえた状態。

一体どうしたのかと問われれば、ご覧の有様。


「コレやべェよ、今聴いても名曲すぎて……魂震える……」
「最終回の映像流すとか、そんなん、泣くに決まってんじゃねぇか……!」
「そうそう、この場面……、絶対隊長死んだと思ってハラハラしたなぁ。」

錆びていたと思っていた記憶すら音楽は鮮明に呼び覚ますもの。
何しろ特撮の主題歌は真っ直ぐで熱く心に訴えるのだ。
懐かしさと感動が喉を詰まらせる。
しゃっくりに似た声の後、涙が滲んで歌えなくなってしまった。


勿論、何も全員の話ではない。
どんなに流行ったとしても思い入れの深さは人それぞれ。
気持ちは解かっても呆気に取られてしまっている者も、中には一人か二人。

「とりあえず、皆で順番に十八番歌っとくか?」

収集を付ける為に手を叩き、そう提案したのは梅丸。
画面に目を離さなくとも無表情は崩れず。
後から参加しただけに他のメンバーよりも人一倍冷静である。
ピンク役に言われてしまうと、何だか少々情けないが。

こうして練習前の準備運動。
嗚咽すら混じっていた面々に深呼吸を促し、一人ずつマイクを握った。




「僕ドリンクバー行って来るけど、おかわり欲しい人居る?」

マイクの順番が三週目に入った時、青葉がグラスを掲げた。
大きな声で歌うと気持ち良い。
音楽で部屋も賑わって、此処も宴になってきた。
そうなると、もう手持ちの飲み物が減ってきた頃でもある。

「あー……じゃ俺も一緒に行くよ、手伝う。」

グラスが3つも4つも集まれば、青葉だけでは持ち切れない。
出入り口に近い席の渉も思わず腰を上げた。
宴を擦り抜けて、揃って廊下へ。


「わぁ、小田切……目がウサギになってる。」
「望月にだけは言われたくねぇなぁ、その言葉。」

半ば芝居がかった青葉の口調に、渉は苦笑してしまった。
薄暗くしてミラーボールが目まぐるしかった室内を出れば、世界は元の色。
まだ涙目だなんてお互い様である。
主題歌で泣いた後では格好がつかない、今更。

ウサギ耳の生えたパーカーなんて着ている青葉は目を引く。
学校では薄手のグレー、今日はブルーのプリントが入った白地。
それに加えて赤い目ではまるでアルビノだった。

長身で大人びている渉まで同じ目なのだから可笑しい。
流石に恰好は違うけれど。

「小田切はそのシャツ良いね。色付きの方が似合ってる。」
「……どうも。」

パーカーについてそう指摘してみたら、青葉からはこんな返事。
学ランの制服は地味になりがちなモノクロ。
好きな色を身に付ける私服姿は印象も変わってくる。

つい担当の色を選んだ渉のシャツは淡いグリーン。
浮かれを見透かされたようで、誉められても別の意味で気恥ずかしい。


さて、団体で詰めかけた渉達は大部屋なので一番奥。
受付の隣にあるドリンクバーが遠くて仕方ない。
青葉が居なければ道に迷いそうだ。
初めてのカラオケ、ただでさえ恐る恐るの事ばかりなのに。

「よし、それじゃカラオケでのドリンクバー基礎知識とかを教えよう。」

青葉の申し出に、渉は素直に頷く事にした。
ドリンクバー自体はファミレスにもあるので使い方は知っている。
けれど、場所が違えば適した飲み物も変わってくるのだ。

炭酸は歌っている最中にげっぷが出やすい。
トイレが近くなるのでカフェインはなるべく避ける、など。

そして、それから。


「グラス任された人には、相手のドリンクを混ぜて良い特権が与えられるんだよ。」
「……そうなのか?」

不意に、雲行きが怪しくなってきた。
渉が首を傾げても青葉はさも当然のように頷く。
抑揚の無い声はいつも堂々としていて、妙な説得力を持つ。

「僕らでカラオケ行くと恒例だよ、みんな知ってて任せたんだから合意だよ。」
「へぇ……、当たり外れあって面白そうだな。」
「小田切は烏龍茶にしたんだよね。ミルク入れると美味しいよ、実験済み。」
「待て、ソレ誰で試したのか微妙に気になる。」

再びグラスを手にした時、渉も青葉も悪戯っ子。
組み合わせは割合によっても変わる。
こうして得体のしれない色がそれぞれ作られていった。

あの薄暗い部屋で色の判断は出来まい。
味なんて知った事ではないのだ、二人にとっては。



液体の注がれたグラスは不安定なので歩調も緩やかになる。
部屋へ戻る道すがら、考えるのは次の曲だった。

とりあえず、渉は好きなロボットアニメの主題歌から。
初めてマイクで歌ったので怖々しつつも。
此方も映像付きなので、なかなかテンションが高まった。

ちなみに、桁外れで最も高い歌唱力を誇ったのは一ノ助。

十八番も他の特撮、声量やノリの良さが抜群なのだ。
カラオケとなるとシャウト部分では音程を外したり照れてしまいがち。
なのが、一ノ助の場合はそうした隙や迷いが無い。
まるでステージに立つように、生き生きした目で歌に熱を込める。

「すげーな、大河……あいつ串田アキラかよ……」
「ね、外見ジャイアンなのにね。」
「外見とか言うのなら、お前も大概だけどな。」
「あは、よく言われる。」


そんな青葉の選曲は「夜桜お七」に「津軽海峡冬景色」だ。
演歌が突然流れ出した時は驚いた。
何も知らずにいた渉は烏龍茶で噎せそうになったくらい。

そうして歌が始まると青葉の一人舞台。
物憂げな伏し目に、ビブラートする合間の甘い息。
ふとした時にやたら色気を匂わせた。
それでも恰好が白ウサギなので、渉は笑って良いのか堪えるべきだったのか。

もっと中学生らしいなど幾らでも歌あるだろうに。

「うーん、それじゃ次は無難なところできよしにしとくよ。」
「演歌からは離れないんだな、結局。」
「その次は「おんな港町」にするけど。」
「ソレ知らねぇな、どんなん?」


渉が訊いてみると、わざわざ青葉は深呼吸。
廊下で一節歌ってみせた。
今までの選曲からして少なからず予想はしていた。
そこに含まれる「さよなら」の歌詞、立て続けに失恋の歌ばかり。

Jポップなら哀しい恋でも大衆的なのに。
演歌の重厚感は聞き手に妙な後味を残していく。

きっと恋は甘くて幸せなものだろうに。


「望月、フラれたら膝抱えて演歌流しながら過ごしたりすんの?」
「それはある意味正しい聴き方かもねぇ、そーゆーの経験ないけどさ。」

意地悪な味で満ちたグラスを携えて、皆が待つ部屋に帰る。
まだ酸いも甘いも知らない。
想像したって分からない、その唇で触れるまでは。


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2015.06.01