林檎に牙を:全5種類
劇中の小田切渉君はりんごあめからお借りしてます。
スポーツ用品店は全体的に蛍光色が多い。
入口に一歩、眩しくて思わず目を細めてしまうほど。

「凄ェ顔になってンぞ、芹沢。」

三白眼の忠臣が眉間に皺を寄せると、ますます人相が悪い。
肩を叩く一ノ助に笑い飛ばされた。
力加減されている筈でも、不意の一撃に転びそうになったのは仕方ない。
そうして、今度は彼に恨めし気な視線を移す。


カラオケの後、皆揃って店に来た理由は他でもない。
ステージ衣装の調達である。
サイレンジャー達の画像と睨めっこしながら探し物。
あんな派手なオレンジ色のジャケット、その辺の服屋では売ってない。

駅前は大抵の物が手に入る、大きな店まで足を運んだ甲斐があった。
目的の品は釣り具コーナーに。
素材の質感などに目を瞑れば、似た形の物を見つけられたのは幸運。


「本物は胸元と腕にレッドとかブルーのライン入ってましたっけ?」
「そうだなァ、サイレンジャーのマークも入れねェと。」
「マークの拡大コピー取って、切り抜き貼ろうよ。ラインはカラーテープかな。」
「観客は遠目だし誤魔化せるだろ。近くで見たらガッカリ感凄いデスけど。」

手を加える事を最初に提案したのは遼二だった。
大雑把な一ノ助まで細部に口を出すのは珍しい、余程思い入れがあるのか。
そこで青葉が打開策を出すと、賛同しつつも忠臣は一言多い。

「おいおい文句言うなよ、裁縫できるような奴なんか居ねぇだろ。」
「裁縫か、当てがねぇ訳じゃ……、いや、やっぱ何でもねぇ。」

一歩遅れた渉が宥めたところで話は纏まった。
梅丸も何か言いかけたが、途中で口を噤んでしまって謎のまま。


人数分で6着となると店頭の品だけでは足りない。
在庫まで下ろしてもらう手間を経て、やっと行き渡った。
こうして各々の手にはオレンジ色。

目的を果たしても、すぐに出てしまうのは何となく惜しい。
渉と遼二以外は運動部なのだ。
他に欲しい物も幾つかあり、折角だからと店内で自由行動。

此処は山や海の匂いを感じる場所、レジャー用品も多い。
アウトドアでは何が起こるか分からないのだ。
自然は時として脅威。
備える物を眺めているだけで冒険気分になる。


「芹沢ソレ買うンか?」
「そうだな、これから暑くなるし。」

ふと一ノ助に声を掛けられて、忠臣が頷いた。
見ていたのは瞬間冷却スプレー。
真夏にスポーツなんてすぐ汗だく、クールダウンせねばやってられない。

「あァ、パンツ越しにシューってやると気持ち良いヤツな。」
「ちょ、やめなサイ。」
「流石に直だと地獄見たわァ、凄ェ痛かった。」
「大河、ココ店の中デスよ……!」

猥談くらい乗っても良いが、生真面目な忠臣は流石に諌める。
行動自体は男子中学生の好奇心だと理解しつつ。

こんなスプレーがあったら玩具になると決まっている。
柔道部は柔道部で馬鹿な遊びをしていた。
顧問が壁に貼った、創始者である嘉納治五郎の切り抜きが主な的。
スプレーを吹き付けて凍らせて氷の肖像にする悪戯。
箸が転がっても可笑しい年代なので、毎回のように笑いが起きた。


「スプレー使うたび思い出したらどうしてくれるんデス?」
「そのうち笑い話になンだろ。」

嫌味を口にしたところで通じる相手ではない。
知っている。

一ノ助とは決して付き合いが浅くなく、小学生の頃から。
仲良くなった切っ掛けは当時通っていたスイミングスクール。
自販機のアイスを食べながらよく喋っていたものだった。

中学にも水泳部があったら良かったのに。
それぞれ違う部活で忙しくなってから、スイミングからも足が遠退いた。
それにしても大河がバレー部と意外。
体格の良さからすれば、忠臣よりも柔道部向きなのに。

「もしかして芹沢、俺が柔道部だと思ったから入ったとか?」
「自意識過剰って言葉知ってマス?」

真顔で訊き返されるのが腹立たしい。
睨んだって、これまた無効。


そう云えば、店内の一角には水着も増えてきた頃だった。
ビキニにワンピースなど華やかなレディース。
圧されつつも、メンズも種類が多い。
暑い季節は水が恋しい、夏が近付いてきている事を実感する。

「なァ、夏ンなったら皆で海行こうぜ海。折角だし。」
「授業で泳ぐだろ、学校のプールで我慢しなサイ。」
「だって学校のプールじゃビキニの姉ちゃんとか居ねェじゃん。」
「海水浴って何しに行くか、大河は分かってマス?」

電車や旅行は好きでも、アウトドアとなるとまた話は違ってくる。
一ノ助の誘いに忠臣は少しばかり渋った。

それにしても動機は不純。
一ノ助が水遊びで高揚するのは知っていたが、いつからか目的は変わっていた。
真面目に泳いだりするだけでは物足りなくなってしまう。
小学生の頃と同じではいられない、そう云う事か。


「……まぁ、気が向いたらデスけどね。」

承諾とも辞退ともつかない、曖昧な返事。
つい忠臣は濁してしまった。

中学三年生の夏はただ楽しいだけではない。
受験の準備が迫っているのだ。
待ち遠しいような、来て欲しくないような。
「まだ早い」と一ノ助には笑い飛ばされる気がしても。


「そろそろ店出ないと。」

他の面々がレジに並んでいるのを見て、忠臣が促す。
ジャケットを抱える手にスプレーも。
あんな話の後なのでやめてこうかとも思ったが、もう良い。

「ほら、あとヅラも買わないといけマセンから……、早未と梅丸に。」
「あァ、イエローとピンクな。」

こうして馬鹿をやっていられる時期も、緩やかにカウントダウン。
カラオケ大会での悪乗りはそうした事情もあった。
一番の犠牲、思い切って女装までする役目は友人に任せるとして。

すまないと思いつつも代わってやるつもりなど無し。
所詮はヒーローごっこの戦士、悪戯な笑みを交わした。


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2015.06.09