林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)

初恋のエピソードは誰しも胸の中で密かに抱えている。
大事な甘酸っぱい味から、忘れたいくらい苦い味まで人それぞれ。

クールと評されている梅丸だって例外でなく。
その手の話題になるたび思い出す。
小学生になる頃、とても可愛い子に懐かれていた事があった。


大きな目に引き結んだ唇で、少しも笑わず凛と。
明るい色の滑らかな髪と華奢な手足と相まって、まるで人形のような。
返事は首を縦か横、口を開くなんて稀。
どう云う訳だが梅丸にだけ引っ付いて離れなかった。

普段は大人しいが、梅丸が他の友達と遊んだ時は豹変したものだった。
泣きながら怒って丸っきり駄々っ子。
自分だけを構って欲しいと、嫉妬を剥き出しにする。


「そんなんでよく恋なんか芽生えマシタね。」
「んー、まぁ、僕は分からなくもないけど。」

そんな昔話に、聞き手の反応は大抵二通りに分かれたものだ。
忠臣のように怪訝な目をするか。
それとも、青葉のように曖昧に首を傾げるか。

「可愛い子のおこんじょってのは悪くない気がするモンだがね。」
「おこんじょ、って……わぁ、久々に聞いたな。」
「今時そんな言葉使ってんの、梅とうちの婆ちゃんくらいデスよ。」

方言で喋る梅丸は、訛りや単語がクラスメイト達と違って古めかしい。
生まれ育った地元のものなので青葉や忠臣にも通じるが。
「おこんじょ」とは、意地悪の事を指す。


友達とのだらだらした雑談で浮かび上がった存在だった。

今は昼休み、教室のあちこちで彼らのような固まりが見られた。
午後の授業を受ける前の貴重な休息である。
時間は足を緩めて、天気も上々で穏やかそのもの。
特別な事など何も無い日。


「うるさい。」

梅丸達の方へ棘が刺さったのは、不意の事。
ただ流れていた平穏に傷を付ける。

机は規則正しく出席番号順。
梅丸の前、冷たく苦情を投げた男子の名は嵐山と云った。
開いていた本から顔を上げて、苛立った表情。


全体的に色素が薄い嵐山は甘い風貌をした少年である。
染めている訳でもないのに髪は褐色。
着席していても、梅丸より頭一つ分小さくて線も細かった。
同い年でも発育の違いとは面白い。

幼さの残る整った容姿をしているが、儚げな印象ではなかった。
切れ長の目は冷ややかで決して熱を持たず。
威圧感があるので、睨まれれば時には大人でも気圧される。


「ん、悪ぃな。」

梅丸が素直に謝罪すると、青葉と忠臣も頭を下げた。
別に怯んだ訳ではないけれど。

休み時間の教室が騒がしい事なんて当然なのに。
静かに本読みたければ図書室へ行けば良い。
そうは思っても口には出さなかった。
きっと何倍にもなって返ってくるだろう、面倒は避けるに限る。

気丈で偉そうな言動が目立つ嵐山は、周りから浮いていた。
友人も少ないようで大抵は独り。
休み時間だってこうして読書か、机で眠っている事が多い。

此方の会話に加わっても構わないのに。


「えーと、それで何だっけ?その子の名前。」
「……ユウちゃん。」

そうして、気を取り直して雑談に戻る。
水を差されてしまったがまだ終わっていないのだ。
声のボリュームを下げて青葉が訊けば、梅丸は可愛かった子の名を答えた。

三人は小学校の頃から一緒なので、ただでさえそれ以前は知らない事だらけ。
冷徹そうな梅丸に”初恋”なんて話題だ。
友人からすれば好奇心が湧くのも無理はないだろう。
物珍しさで根掘り葉掘りにもなる。

それだってチャイムに咎められて、途中で強制終了。
予鈴のうちに皆それぞれ自分の机へ帰って行く。
梅丸の中に懐かしさを残したまま、もうすぐ気怠い午後は始まる。




最後のチャイムが鳴り響いて、教室は慌ただしく放課後を迎える。
帰宅する者に、部活でもう一頑張りする者。

体育館へ急ぐ青葉の背中を横目に、剣道部の梅丸も鞄を抱えた。
袴に着替えて竹刀を振るう時間。
柔道部の忠臣とも道場が同じなので、連れ立って行こうかと思っていると。

軽くて硬質で音が一つ。
梅丸の耳に飛び込んで、引き寄せられる。

音の正体は机を叩いた爪の先。
犯人は前の席、嵐山の指だと見なくても知っていた。
それは何を意味する合図かも。


「芹沢、今日は俺遅れるから黒巣先生に伝えといてくんねぇ?」
「は?何、またデスか。」

急に声を掛けられても、一瞥しただけで忠臣は大して気に留めず。
事情も尋ねず所詮は他人事。

無言のまま教室を立ち去る嵐山を見送って、梅丸は少し待った。
今すぐ後ろを追うのには人目がありすぎる。
行き先なら分かっているのだ、どうせ。



「遅い。」
「あぁ、悪ぃ。」

再び顔を合わせたのは狭い個室。
嵐山の声に突き刺さされても、梅丸は軽く謝って受け流す。


沢山の人間を抱えている学校にも、何処かに無人の場所がある。
ほとんど使われないトイレなんて更に閑散として、ある意味衛生的。
水気がないので汚れようがないのだ。

そもそも旧校舎の最上階は倉庫や空き教室ばかり。
何処に行っても埃っぽい雰囲気。
生徒が寄り付かず、今日だって階段を上って来たのは彼らくらいだ。
そんな空間で何をするかは決まっている。

秘密、或いは悪い事。


突き飛ばすような手に肩を押され、大人しく洋式の上に腰が落ちる。
そうなって始めて嵐山を見上げる形。
身長差が大きくて、こうでもしなければ届かない。

ただでさえ薄暗い中で、近付く影が重なる。
全ては唇に噛み付かれる為。
キスなんて呼べるほど甘い物ではないのだ。
粗雑な音を立てて一つになる唾液が溢れ、梅丸の口許を汚した。


貪られていた唇が剥がれて、ふと視線が交差する。
至近距離で嵐山の眼は強い力を増す。
今だけは爛々と熱を持っても、それは憎しみに似た色。

次に狙われたのは脈打つ首筋。
喰い千切られそうで、一瞬だけ梅丸の鼓動を跳ねさせる。
命に関わらない痛みに過ぎずとも。
ボタンを開けておいた胸にも、細い指先が爪痕を引く。

自分よりずっと小さな相手と云えども男の力。
嵐山の唇も手も荒々しく、快楽より痛みが肌に走る。

それでも筋肉で引き締まった腕は投げ出され、無抵抗。
さりとて平気なんて訳がない。
執拗に弄り回されて、ゆっくりと梅丸の吐息が乱れ始めた。



「うぁ……ぐ、うぅ……ッ!」

壁に手を着く頃、不規則な呼吸には呻き声が混じる。
白い壁紙の傷に爪を立てて縋る音も。

布を剥ぎ取られた腰を掴まれて、背後から嵐山に犯される格好。
それは小型の肉食獣が捕食している様を思わせた。
情欲で肥大化した牙。
刺し貫かれる梅丸は奥歯を噛んで耐えるばかり。

涼やかな梅丸が苦悶し、子供のような嵐山が雄を匂い立たせる。
普段とは別人のような表情。
彼らのクラスメイト達が知っても、きっと信じやしない。


「……もっと可愛い声で強請れば、優しくしてあげても良いけど?」
「も、いい……イぐ……ッ……」

行為の際、尚も嵐山は加虐的な言葉で嬲る。
そんな必要は無いのに。
絞り出す声で限界を告げて、下腹部で白濁が弾けた。



「今、何時なん……?」

まだ少し苦しげな声で問い掛けて、梅丸は衣服を直し始める。
汗ばんだ肌では張り付いて手間どいつつも。

時間を気にする意味が分からない。
そんな目を向ける嵐山に、補足の為に再び口を開く。
既に平常へ戻ろうとしている表情で。

「もう用済んだんなら、今からでも俺は部活行くから。」


梅丸の言葉は、神経を逆撫でするに充分だった。
棘どころか刃物のような視線を突き付ける。

それだけでは終わらない。
捻り上げるように腕を掴んで、立ち去る事を許さず。
そして汗ばんだ衣服を捲り上げる。
欲望を吐き出して冷めた筈の胸に、火を点けた。

理性は目を閉じて、また暫くは覚めそうもない。


「おこんじょは変わんねぇな、ユウ。」
「名前で呼ぶなって言ってるだろ。」

唇を食まれる寸前、梅丸は可愛い子の名を呼んだ。

嵐山悠輝は今でも女子に間違われる事のある少年だった。
幼かった頃なんて、それはそれは人形のように。
ただし梅丸に関しては別。
彼が自分の方だけを向いていなければ、たちまち嫉妬で荒れ出す。



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2015.06.17