林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)


illustration by ういちろさん


子供の時から「可愛い」と言われるのは大嫌いだった。
男である事を否定されているようで。


嵐山のプライドにこんな擦り傷を与えていたのは主に母親。
ユニセックスな服ばかり宛がわれ、よく着せ替え人形にされたものだった。
流石にピンクやフリルこそ着せられなかったものの。

純日本人でも髪や目が黒とは限らない。
特に子供のうちは安定せず、生まれつき色素の薄い嵐山は苦労した。
さらさら流れる茶髪に、すぐ日焼けする白い肌。
整った顔立ちも却って仇。

周囲からからかわれる材料になり、跳ね除ける為には刺々しい態度。
口は悪く、切れ長の眼も鋭さを増す。
こうして孤立していったが、そもそも仲良くしたいとも思わなかった。

あの頃、嵐山はコンプレックスの塊。

だからこそ、とも言えようか。
自分とはまた違っても、明るい髪色の子供を目にした時は興味を引かれた。

無造作な赤毛をした同い年の少年。
からかわれたって、マイペースで表情も変えず動じやしない。
こんな何処か風変わりな彼の名は、梅丸灯也と云った。


嵐山と梅丸が出逢ったのは幼稚園でも公園でもない。
母親が手芸教室に通う間、預けられていたカルチャースクールの託児所。
いつも独りなので留守番なんて平気だったのに。
環境を変えて同年代の子供と遊んで来いと、送り出された結果。

実際、"友達"なら出来たと言えなくもない。

どうやって作れば良いか分からなかったので、不器用な方法ではあったが。
梅丸に纏わり付き、他の子と遊んだら泣き喚き、時には意地悪も。
そして、いつからか二人ぼっち。

今から思えば嫌がられなかったのが不思議。
何を考えているか読めない無表情でも、一緒に過ごすようになった。


それだって未就学児の昔話。
母親がカルチャースクールを辞めたらしく、赤毛の少年は姿を消した。

幼稚園にも小学校にも居らず、近所の子でもない。
知っているのは名前だけ。
再び独りになった時、喪失感の大きさに嵐山は涙を零した。




「懐かしいとか変わってないとか、そう云う言葉なら僕は要らないから。」
「いや、別に昔を思い出してるだけって訳じゃなかんべ。」

再会するまでに随分と時間が掛かってしまった。

それなりに大きな王林中学校は、近隣の小学校三つ分から生徒が集まる。
再会を果たしたのは、同じ校章の付いた学ラン姿。


あれだけ焦がれた相手。
もう何年も呼んでなかった名前を見つけた時は、鼓動が跳ねたものだ。
入学した頃から嵐山は梅丸の存在を認識していた。
三年間で一度も顔を合わせない同級生だって居るような中で。

しかし一つ目の問題、今更どんな顔で声を掛ければ良いのやら。
もし忘れられていたらと思うと躊躇ってしまう。

それに、面影を残しつつも梅丸の成長は早かった。
相変わらず小柄な嵐山を置いて、背が伸びて細身の筋肉質。
色素が安定した赤褐色の髪にもワックスなんて付けるようになっていた。
髪型は雰囲気を大きく変える。
何だかめっきり大人びて、見掛けるたび嵐山の勘に障った。


二年生と三年生は同じクラスになった。
そうなると流石に、否応なしに毎日顔を合わせる。
梅丸も嵐山の事を覚えていた。

正式な再会を果たした二人だが、めでたしとは行かなかった。


「あぁ……ユウ、男だったんか。」

彼に心を開けない理由は、二つ目の問題。
今まで梅丸は嵐山の事を少女だと思っていたらしい。

薄い反応の第一声で驚きつつも、特に落胆した様子は無し。
もう一度改めて友達になれば良いと。
それ以来、昔のよしみで何かと嵐山の方を構ってくるようになった。

一方、勘違いの事実は嵐山に深く突き刺さった。

「可愛い」は年数を経てますます根深くなっていた地雷。
どれだけ傷付いたかなんて、どうせ梅丸には解からないだろう。
手を伸ばされても素っ気なく接するしか出来なくなる。
思い出にしがみつかれているだけなら、嫌だ。


そんな付かず離れず中途半端な距離を保って一年以上。
やはり友達にはなれやしなかった。

ワックスでセットされた髪も、高い身長も気に入らない。
少女だと勘違いしていた事も気に入らない。
しかし一番気に入らないのは、梅丸に他の友達が居る事だった。
此方に声を掛けるのに彼らと離れるつもりもない。

嵐山の方がずっと昔から梅丸の事を知っているのに。

独占欲、嫉妬、粘着質な感情。
変わっていない事を梅丸は解かっていると思っていたのに。
自分だけの手元に収まってくれない苛々は募る。


それなら、嵐山は梅丸に何を望んでいるのか?

自問すれば、煮詰まっていた欲望がこう答えた。
あの涼しい表情を崩してみたい。
他の誰も知らない姿が見たい。

滅多な事ではその望みは叶わないだろう。
選び取った方法なんて、一つに決まっていた。



「僕はお前と友達じゃないし、拒むくらいならもう構うな。」

嵐山にシャツのボタンを引き千切られた時、確かに梅丸は狼狽した。
見開かれたまま固まった一重瞼の吊り目。
冗談ではない事は理解したようだった、どうやら。


旧校舎の最上階、これほど犯行に丁度良い場所は他にない。
放課後なんて怪談の舞台になりそうな無人。
梅丸を押し倒した時、空き教室には薄い埃が舞い上がった。
差し込んだ夕陽で浮かび上がって、細かな輝き。

剥き出しになった胸も腹も筋肉で生硬く、大人に近い身体。
それでも嵐山が噛み付けば強張りが走る。

身長どころか体格にも大きな差。
暴れられたら敵わず、ガムテープを巻き付けて手錠と足枷。
半ば倉庫だった教室に転がっていた。
拘束は加虐心を煽って、もっと酷い事をしてみたくなる。


「あ……ッ、……ッ……ぐ!」

膝を割って掴んだ脚は肩に載せた。
狭い入口に刀身を捻じ込むと、流石に梅丸の喉が仰け反る。

抜き差しの快楽を知らないので甘く喘いだりしない。
目を細めながら呻くばかり。
古びた木の床が微かに軋む音と混じり合って。

穿たれる苦痛で歪んだ表情。

梅丸が隠していた色に情欲は熱を増した。
もっと、もっと見たい。
息を切らせた唇で艶やかに笑い、嵐山は深く抉る。



出逢った頃は少女だと思っていたから、初恋だったと言われた事がある。
なんて酷い告白なのだろうか。

梅丸が好意を抱いていたのは存在しない少女だ。
嵐山を通して、ただ彼女の面影を追っているだけだと。
そう思ったら哀しくて堪らなかった。

どうか男としての自分も見て欲しい。
目に焼き付け、身体に刻み込む。

どうせ嵐山の方が泣く事になると解かっているのに。



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2015.06.22