林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)


illustration by ういちろさん


子供の時から「何を考えているのか分からない」とよく言われていた。
頭の中を読まれたって却って困るけれど。


「いや、何も考えてないだけデスよね。」
「あんまり動じないしポーカーフェイスだからね、梅さん。」

此れは小学校時代から続く友人達の談。
ある程度親しくなると、梅丸は決まってこんな事を言われてしまう。

他人から「何となく苦手」とされても、そうそう悪意の的にはならず。
梅丸を前にしてそんな度胸がある者など居ない。
青葉や忠臣とは確かに親しいが、彼ら程じゃれ合う関係でもなし。
適度な距離感の方が居心地良いだけで。


相手を動物に例えたら、と云う雑談になった時も。
皆が犬や猫などの中、梅丸が当て嵌められたのは「トカゲ」である。
集まっていたメンバー達には妙に納得されたものだ。

細く締まった腕や脚は長く、手を握られても体温が低い。
表情が乏しい上に、吊り目で薄い唇。
もし舌が割れていても似合いそうな雰囲気が確かにあった。
一人だけ爬虫類だなんて、梅丸としてはどう反応して良いのやら。


要するに、梅丸の評価は誰に聞いても「クール」だった。

一見すると冷淡そうで近寄り難い。
そして慣れると、ただ単に無表情で肝が据わっていると思われる。
それは誉め言葉でもあれば、嫌味でもあり。
梅丸本人にとっては、投げ掛けられるたびに何となく複雑な気分。

何処かで余裕を持って、物事を客観的に見られる事は長所。
しかし、内面が冷めている事も自覚している。
感情を露わにする事がないと云うより、起伏そのものがあまり無いのだ。


母の腹に置いてきてしまったのかもしれない、と半ば本気で思う。
実際、共に生を受けた妹は対照的に快活で感受性豊か。
親としてはそうした子供の方が可愛いのだろう。
思い返してみれば、妹よりは構われずに育ってきたものだった。

目の前で起きている事は、まるで本を読んでいるようにすら感じる。

何だか一歩引いた場所から眺めている感覚。
いつまで経っても頭の中でページを捲る癖が抜けずにいた。
忠臣ほど読書家でもあるまいし。
その本には大した感動もあらず、ただ流されるまま続く。

梅丸が意志を示せば変わるかもしれない。
けれど何かしたい事や、好きな事も特に無いのだ。

剣道だって、父が昔やっていたからと勧められて始めただけ。
それなりに愛着ならあるが、部活を引退したらすっぱり辞めるつもりだった。
向いていたらしく上達は早かったが。
熱意があっても実力が追い付かない部員なんて幾らでも居るのに。


そうして淡々と生きていた梅丸が、初めて興味を持ったのが「ユウ」と云う存在。

大人しいかと思えば、刺々しいまでに感情を吐き出す。
それも梅丸の事に関してのみ。
どうして執着されているのかはよく分からない。
だからこそ気になって、会えなくなった後も思い出は初恋として残った。

やがて中学校で再会した時、少女だと思っていた相手は少年だったと知る。
それなら友人になれば良いと考えた。
今度は梅丸が追い掛ける番、と云う訳でもないけれど。




「僕はお前と友達じゃないし、拒むくらいならもう構うな。」

無人の教室、床に引き倒される背中の痛み。
嵐山に見下ろされながら冷たく突き付けられた。

胸元のボタンを千切る手を見て「力が強くなったものだ」と感心した。
手首を拘束する古いガムテープは粘着面が溶けかけ。
剥がした後も糸を引きそうな予感。

梅丸がこんな事を考えていたなんて、嵐山は知らないだろう。
自分の身に緊急事態が起きているのに。


反面、驚いたのも本当だった。

今まで経験した事もない、身体の奥に侵入される苦痛。
悲鳴こそ上げずとも梅丸の表情が歪む。
生々しさはページを摘まむ指どころか、呼吸すら忘れさせた。

執着の果てに叩き付けられた激情。
"友達"は嫌だと。

ああ、こう云う事?



暴力的な情欲の後は疲労感。
浅い眠りから覚めても軋む身体を動かさずにいた。

薄目を開けてみれば、そこに映った光景は何とも妙な物だった。
梅丸のシャツを握った嵐山の背中。
静かに泣きながら、飛ばしたボタンをご丁寧に直していた。
今更、そうやって傷付いた表情をするなんて。

泣きたいのは梅丸の方だろう、普通なら。
だけど普通ではないならば。

「馬鹿だな」と思う以上に、やっぱり可愛い。


こんな感情が生まれるなど、梅丸は考えてもみなかった。
どろどろに煮詰めた砂糖を思い起こさせる。
むせ返りそうな匂いと熱。
涙が滴れば、音を立ててたちまち爆ぜる。

こうして後に宿るのは、苦み走った甘味。
飴の棘は容赦なく舌を刺す。

ずっと梅丸が待っていた物。



呼ばれるまま、今日も旧校舎の最上階に通う。
あれから何度目かの身体を重ねる為。
別に、脅されたりしている訳でもないのに。


「梅丸って、そうやって男相手でも簡単に足開くんだな……」
「そんな物好きなんかユウぐらいだがね?」

自分の言葉で嵐山は苛立った表情。
本当は否定して欲しかったのだろう、きっと。

梅丸の事で傷付いてくれるのが嬉しくて、密かに心を震わす。

早く、その棘で滅多刺しにして欲しい。
必要とされる実感。
梅丸に生きている事を証明してくれる。



*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ


スポンサーサイト

2015.06.27