林檎に牙を:全5種類
7月前半は薄曇りで蒸し暑さが続く。
広い襟の所為で、セーラー服は肩が重たく感じる。
ただでさえ下着が透けないようにキャミソールも重ねているのに。
もう夏服も着慣れた頃だと云うのに、いまいち身軽になれず。

「鈴華ちゃん、ハピバ!」

そんな朝の通学路、都来の明るい声が湿った空気を裂いた。
小さな紙袋を鈴華に差し出して。


学校指定鞄の他、手に提げているのは今日の体育で必需品のプールバッグ。
都来がいつもにも増して元気な理由はそこだった。
魚の生まれ変わりを自称する彼女が生き生きする時間。
曇天ではあれども、強い陽光が漏れ出して雨の気配はないだろう。

いつでも無敵の笑みは光を投げる。
淡い憂鬱を洗われて、鈴華は感謝を込めて紙袋を受け取った。


「あたしはブレスとかしないんだけどさ、鈴華ちゃんに似合うと思って。」

歩きながらラッピングを解けば、広げた掌に収まる程の輪。
華奢な銀色の鎖には小さな真珠が幾つも。
何処か波間を思わせて、確かに夏向きのデザインだった。

お洒落した時こそきっと映える一品。
しかし、考えてみれば制服姿でも悪くないかもしれない。

「気に入ったー?」
「ええ、ありがとう……早速つけるわね。」
「ねーぇ、でも流石に学校じゃ怒られるんじゃないかな。」
「んー……、大丈夫よ。」

そう口にしつつ、鈴華は鎖を眺めるばかりで身に着けようとせず。
一致しない言動に都来が首を傾げる。
深くは考えないようで、すぐに他の話題へ移っても。

別に嘘など吐いてない、調子良く合わせたつもりもない。
足を動かしながらでは着けられないのだ。

と云うのも。




眠たい午前中は過ぎて、やはり雨の一粒も落ちないまま午後を迎える。
太陽が姿を現さなくても気温は上がりっぱなし。

その頃には制服が汗で纏わり着いてきて気持ち悪い。
早く脱ぎ捨てたくて、昼休みの終りは移動で慌ただしくなりがち。
薄ぼんやりした灰色も終わり。
教室を出たら、透き通った青に飛び込む時間。

「待ってましたぁー!」

今日は此の為に学校へ来たようなもの。
飛び跳ねる都来に合わせ、プールバッグも一緒に躍る。
あまりにも楽しげで鈴華もつられて口元が緩んだ。


プールのすぐ外、小さな更衣室での事だった。
水に身を委ねる前には準備が必要。

そこまで古い建物でもなく広さなら充分。
ただ、湿気が高くて何となく息詰まるような錯覚を呼び起こす。
前の授業で使った生徒達が持ち込んだ塩素の匂い。
着替えていると、換気扇の音が耳へ沁み込む。

制服の下に水着を用意していた都来は脱ぐだけなので早い。
促されて、鈴華も急いで紺色に足を通した。

裸の肩に紐を整えても完了ではない。
そう云えば、今や水着に靴下だけなんて間抜けな格好だった。
見下ろしてみて小さく苦笑。
爪先から引っ張れば、白い素足が剥き出しになる。

鈴華の足首、真珠の粒と銀色の鎖も。


「ありょ?鈴華ちゃん、それあたしがあげたヤツ??」
「そうよ、本当はブレスじゃなくてアンクレットだもの。」

爪先を上げて、真珠を揺らした鈴華が頷いた。
何処となく不敵に。
鎖の用途なら長さを見れば判った。
調節出来ても、手首ではすぐに落ちてしまう大きさ。

都来は単純にデザイン性だけで贈ったようだが、良かったのかもしれない。
素足に銀色を絡ませると妙に艶めく。
しっとりした雰囲気の鈴華には似合っていた。


「ああー、そっか!何かちょっと大きいなとは思ってたんだよねぃ。」
「だから言ったでしょう?「早速つける」って。」
「足なら靴下履いちゃえばバレないもんねぇ。」
「でも、流石にもう外さないとね……先生に没収されちゃうもの。」

人差し指を唇に当てて、顔を見合わせる。
そこから先は無言。


それはまるで、都来が鈴華を捕獲した証のような。

その後日も、靴下で隠した鈴華は学校に鎖を巻いてきていた。
見えないお洒落は少女の秘密。
知りたければ、その制服と云う鎧を剥ぎ取らねば。


けれど今は、水の中で遊ぶ時間。
人魚になる足に鎖は要らない。



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2015.07.10