林檎に牙を:全5種類

illustration by
ういちろさん

衣装の改造は、家庭科よりも工作の要領でなかなか楽しめた。
胸元と腕には赤や青など各々のカラーテープ。
マークの原寸大コピーを厚紙に貼って、後ろに安全ピンを付ければバッジ。
ジャケットに手を加えるたび、ヒーローごっこに熱が入る。

しかし、ただ上に着るだけでは不完全。
本物に似たボトムスや靴も持ち寄り、髪にもワックス。
どうせ遊ぶなら徹底的に。

さて、そう難しい作業でもないので所要時間も長引かず。
それぞれヒーローの色が揃った。


「はぁ……」

いざ袖を通す段階になって、溜息を吐いた者達も居るが。
決して重くはない。
それは渋々と云うよりも、諦念に似た覚悟。

手にしたジャケットには、ピンクとイエローのカラーテープ。
女装を披露する羽目になってしまった梅丸と遼二である。

本物の役者に合わせて、ロングのウィッグに膝上スカート。
それらを身に着けている自分が上手く思い描けない。
数日後には全校生徒が見守る中、その姿でステージに立って歌うのだ。
何とかなるだろうと承諾したが徐々に現実味を帯びてきた。


「何となく気が引けてきました……」
「今更だんべ、そんなん。」

最後の抵抗を遼二が呟いても、梅丸は冷たい。
相槌を打ってくれたって良いのに。

梅丸の評は、誰に訊いても判を押したように「クール」と変わらない。
行動を共にする事になったのは今回の件があって初めて。
それ以前にも会話程度なら交流くらいあったけれど。


流石に"変身中"は間抜けなので、二人だけ皆とは別室へ。

遼二が渋る間にも、手早く着替えに取り掛かっていた。
シャツを脱ぐと筋肉質で引き締まった腕や胸。
武道で鍛えているのは忠臣も同じでも、梅丸の方は身体つきが既に大人だった。
好みのタイプではないにしろ、つい見てしまう。

ただ、気になる点も。

「……何なん?」
「いえ、梅丸君お家で猫でも飼ってるのかな……と。」

視線に気付いた梅丸が首を傾げると、遼二は何気なく取り繕った。
実際、惹かれていただけでない。
布に隠れていた肌には、所々に引っ掻き傷や噛み痕。

打ち身や捻挫なら運動部だからと納得いく。
剣道でどういった怪我が多いのかは知らないものの。
けれど、此の傷は妙。
上半身裸のまま猫と遊んだりしたのだろうか。


「まぁ、そんなとこかいねぇ……ユウ、懐いてくんねぇけど。」
「そうですか、手を焼いてるみたいですね。」
「そこが可愛いってもんだべ?」
「いやぁ、僕は犬の方が好きなんで分からないです……」

尊大で澄まし顔をしているより、感受性豊かで尻尾を振る方が好ましい。
幾ら愛らしかったとしても、遼二にとっては。
そこは人であっても同じく。

何となく、梅丸とは会話が続かないようだ。
彼はそもそも犬や猫よりも爬虫類に通じる雰囲気があって。
遼二自身も他人から「クール」と言われる事あれど、所詮は似非。
何処となく底知れぬ物を感じさせる本物には苦手意識。


黙々とシャツを替えて、オレンジのジャケットを羽織る。
此処までは良いのだ。

問題は、膝上丈のスカート。

穿くのも最初で最後の一回きり。
よれよれの安物で充分だと、リサイクルショップのワゴンセール品。
色や形さえ似ていれば構わない。

「脚が剥き出しになるって心許ないですね……」
「しょうがねぇな、じゃあ此れ貸してやっから。」

何かと思えば、梅丸が差し出したのはストッキング。
用意が良い事だ。
上に一枚、と云う意味なら確かに。
却ってハードルが上がってしまったけれど。

「脚剃るのとどっちが良いんさ?」
「……お借りします。」

葛藤は数秒、複雑な表情でも遼二は素直に受け取った。
親指の爪が引っ掛かって苦労しながら足を通す。
吸い付く感覚が若干気持ち悪くても。


そして、サイレンジャーのヒロインは二人ともロングヘア。
最後にウィッグを装着して変身完了。

「…………」

髪型が違うと印象が丸っきり変わってしまう。
緩やかな波を打つ長い黒髪。
鏡の向こうに居る少女をまともに見れず、遼二は俯いた。

自分だと云う実感が無くて、気恥ずかしい。

恰好だけなら、幼い頃に活躍していた彼女と近くなっただろう。
顔が自分なのが可笑しかった。
向き合えない理由なら、実のところもう一つ。
面差しが母親に似ている事を再確認してしまって居た堪れない。



illustration by ういちろさん

「出来たん?」

赤味の強いポニーテールを揺らして、梅丸が遼二の様子を窺う。
白いスカートにストッキングの脚を屈めて。

まだ成長途中、背丈も身体つきも中性的な遼二は良い。
男性的で大人びた梅丸がピンク役は如何なものか。
そんな考えはどうやら杞憂だったらしい。

大きめのジャケットは身体のラインを覆い隠してしまう。
凛とした顔立ちに結い上げた髪がよく似合った。
女性らしさを前面に出した本物のピンクとは確かに違う雰囲気。
それでも格闘ゲームのキャラクターを彷彿とさせて、別の美しさを持った。

"変身"は文字だけでなかったか。
悪くないとすら思っても、遼二は口に出さず。


「ん、可愛い。」

一方、梅丸は褒め言葉を難なく与えてくる。
遼二の頭を撫でてサービス抜群で。
女子じゃあるまいし、「可愛い」に対して喜べないのに。

大切に扱っても、引っ掻いて噛んでと肌に生傷を残してくる。
そんな荒々しい猫を表わすのと同じ言葉だ。

「……梅丸君の「可愛い」は信用ならないですね。」
「え、どういう意味なん?」

そこから先は濁して、レッド達の居る部屋へ。
此の姿を見たら何と言われるやら。
少しだけうんざりして、苦笑して、イエローは足を進めた。


← BACK   NEXT →


*クリックで応援お願いします

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村


小説(BL) ブログランキングへ


*おまけ

サイレンピンク

サイレンイエロー

make by ちびメーカー

サイレンピンク&サイレンイエロー。
「ピンクとイエローに女装した二人」でなく「本家のヒロイン二人」のコンセプトで作成。
携帯は変身アイテムです。
スポンサーサイト

2015.07.15