林檎に牙を:全5種類
手芸屋には妖精が棲んでいるものである。

森の動物達や花畑、布の数だけ世界は様々。
飴玉に似たビーズやボタン。
温かみのある"可愛い"で溢れて、まるで童話の欠片。

ただ、此処で手に入るのは飽くまでも素材。
切り取って、繋ぎ合わせて、どんな物を生み出すかは腕次第。


しかし手作りが安上がりなんてとんでもない。
材料の質と出来栄えは比例するので、良い物を使えば出費がかさむ。
そこに製作の時間や面倒が加わるのだ。
単に商品が欲しいだけなら買った方が得だろう。

その面倒事を好き好んでやっているのだ。
手芸とは難儀な趣味である。


「嵐山先輩、ハリネズミ柄好きですよねぇ。」
「……うるさいな、僕の勝手だろ。」

鬱陶しいとばかりに嵐山が隣を上目で睨む。
その手に広げている布には、大行進している愛らしいハリネズミ達。
格好がつく筈もなく、そもそも視線など効かない相手。
笑いを堪えた和磨は飄々としたまま。

今週末は手芸屋の会員限定セール。
メンバーズカードを片手に、朝から主婦達が店に集まっていた。

そこに男子が混じれば当然ながら目立つ。
ただでさえ色素が薄くて茶髪と金髪、整った容姿なので尚更。
来るだろうとは互いに予想していた。
学校以外でも二人が顔を合わせる場所は、此処くらいなものだ。


小柄で細身、甘い顔立ちの嵐山は女子に間違われがち。
長年のコンプレックスで捻くれて、誰にでも尖った態度を向ける。
外見も変われないが、好きなものにも嘘が吐けない。
我ながら悔しい事に針仕事が趣味だった。

そして、嵐山の棘が刺さらない相手は稀に居る。

愛あればこそと全てを受け止める者が梅丸。
此方の和磨はまた違う。
余裕と柔軟さで、どんなに睨んでも気に留めないのだ。
ある意味とても腹立たしい事に。


女顔で物腰が柔らかくても、長身なのでどう見ても和磨は男。
その上、少女趣味を隠そうともせず堂々と。
其処も含めて、嵐山からすれば何となく意識が向く相手だった。

男の記号を持った梅丸にも、羨望や嫉妬が入り混じっているのだ。
和磨に対しても少し似た感情。
彼の場合は決して恋にならないと解かっていても。
強いて云うならば、それは何か。


「そもそも巽、布コーナーに何の用だよ?」
「いや、用ならあるし……そんな犬払うみたいな手やめなさいって、先輩てば。」

動物扱いにも苦笑するばかりで、和磨は怒る様子無し。
けれど嵐山が怪訝な表情をするのも理由がある。

手芸と云っても、二人とも製作ジャンルは違うのだ。
縫い物の得意な嵐山はポーチなどの小物、服なら浴衣や甚平。
一方、天然石が好きな和磨はアクセサリー。
此方のテリトリーに何の用だか。


どうやら目当ての物は見つかったらしい。
嵐山から一歩、二歩と先へ進んだ後に和磨は足を止めた。
留め金から装飾、大きさや色まで様々なボタンのコーナーで。

「……どうしようかなぁ。」

その中からガラス瓶を手に取ると一人で小さく悩む。
ジャムの容器によく似ているが、まさか食べ物である筈がなく。
小洒落た包装をされた、ボタンの詰め合わせ。

ガラス越しに落ち着いた水色や紺藍。
青系らしくクールながらも、デザインはどれも可愛らしい。


「欲しいけど、こんなに要らないんですよねぇ……値引きされても高いし。」
「なら、諦めれば良いだろ?」

相談じみた和磨の言葉をばっさりと切る。
冷たいと思われても結構。
実のところ嵐山も欲しくなったのだが、残りは一瓶なのだ。
買わないなら早く決めてくれないだろうか。

良心が痛まないでもない。
だが一つしかないなら、片方は断念するしかないじゃないか。


「それとも先輩、ボタン分けっこするから半々で買わない?」

ところが不意の事、和磨は折衷案を投げ掛けた。
嵐山の思惑を知ってか知らずか。

「かなり図々しい事言ってる自覚あるか、お前?」
「だってほら、布小物の方がボタン使うし。」
「……まぁ、良いけど。」
「良かった、可愛いもんねぇコレ。」

仕方ないとばかりの態度で承諾したら、和磨は素直に喜んだ。
そうして「可愛い」に賛同を求める。
やはり見透かされてやしないだろうか、考え過ぎか。


「此処じゃ商品広げらんないし、何処か座れるお店でも寄ります?」
「……そうだな、学校で渡されても困るし。」

尤もらしく理由を付けて、手芸屋を出た後の予定も埋まる。
まだ、もう少しだけ一緒に。
表立って友達と呼べない距離のままで。



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2015.07.26