林檎に牙を:全5種類
買い物籠には朝飯用のおにぎりを二人分。
夜更かしするなら、明日は好きなだけ寝坊したいところ。
台所に立つ手間は省きたい。

それより、ガラスを開けたアイスケースの前で立ち止まった。
冷気を浴びて梅丸の横顔が引き締まる。

鮮やかな果実を絞ったシャーベット、空色のソーダ。
バニラなら乳脂肪の少ない方が夏向き。
色彩豊かなパッケージで埋め尽くされて、まるで宝石箱。
どの季節でも真夜中のアイスは何とも魅惑的である。


「どれでも良いだろ、アイスなんていつでも食べられるし。」
「選ぶのも楽しみの一つだがね。」

食べ物にそれほど頓着が無い嵐山は適当に。
横から覗き込んでほんの3秒、練乳のカキ氷を掴み取る。
透明なカップは昔から変わらないデザイン。
夜でも明るいコンビニより、駄菓子屋の方が似合いそうな雰囲気。

一方、梅丸も今夜のお供を決めた。
真っ白なアイスキャンディに、果実や小豆の粒々が顔を覗かせる。
同じくカキ氷の類でも一段豪華なシロクマ。

甘党だけに悩む時はつい真剣になってしまう。
つい小豆バーとぎりぎりまで迷って。
カップ型もあったが、帰りに食べ歩くならアイスキャンディの方が良い。
行儀が悪くても、きっとそれが一番美味いだろう。


早くしろ、と軽く睨んで急かす嵐山は自分の会計を終えた後。
梅丸も籠を持ってレジの列に並んだ。

その前に、もう一つ追加で買う物にも手を伸ばす。



明るい店の外は薄闇に包まれている。
待たされて不機嫌になる嵐山の姿を浮かび上がらせて。
浴衣姿といい、恨めし気な表情といい。
一見すると幽霊にでも間違えそうになってしまう。

しかしそこは声に出さず、梅丸は別の質問を。

「そんな急かしたりして何なんさ、ユウ眠いん?」
「眠くない、子供じゃあるまいし。待たされたら誰だってイラつくだろ。」
「なら良かった……、もうちっと夜更かしすんべぇ。」
「何かするような事あるか?」

情欲が落ち着いた後では、ベッドで再び絡まるのも今更だろう。
そもそも朝まで続けるような体力は嵐山に無い。


夜更かしして何をするか、は梅丸だって考えがあっての発言。
さて、此れを見せたら嵐山はどんな顔をするやら。
片手に提げたコンビニ袋から、先程買い足した物を取り出す。

赤に青、派手な色をした長いスティックの詰め合わせ。
浴衣にアイスと続いて夏の風物詩、花火セット。

こんな真夜中では流石に近所迷惑、打ち上げ花火は無し。
二人きりで少し遊ぶ分には充分な量。
リビングにアロマキャンドルがあったので、近くにライターも備えてある筈。

「僕が断ったらどうする気だったんだよ?」
「日を改めるだけだがね、他の奴誘ってでも出来んべ。」

無理強いはしないと云う意味だったが、嵐山はそう受け取らなかったらしい。
「誰とでも良い」と言われているようで苦い顔。
梅丸も言葉の選択を間違えた自覚はある。
此の会話を続けると、嫉妬深い相手には面白くない方向になりそうだ。


多分もう黙るとの意思表示のつもり。
やけ食いめいた乱雑さで、嵐山がカキ氷の蓋を剥がした。

小さな木べらで、カップの中に固められたみぞれを崩す。
雪の中を突き進む足音に似ている。
一番遠い季節が何だか懐かしくなってきそうな。

灯りがあっても夜は夜。
目では相手の存在が不確かになれば、耳の方が優秀なのだ。
微かな冬の行進が妙に心地良い。
消えてしまうのが勿体なくて、梅丸もしばらく無言。


同時に、自分もアイスキャンディが食べたくなってきた。
此方はカップと違うのですぐ溶けてしまう。
忘れていた訳ではないが、手早く包装紙を破って齧り付いた。

舌に優しい練乳の味。
奥歯で砕く果実と小豆は一際冷えて、口腔が引き締まる。

食べるには片手で事足りるので、もう片手をどうするか。
伸ばした指先は嵐山の袖を軽く摘まんだ。
振り払われるかとも思いきや、一瞥された後は特に何も反応無し。
ありがたいような、単なる放置なら寂しいような。

氷を噛みしだきながら、のらりくらりと歩く夜。
染み渡る甘さは儚い。
家に着くまでには消え去ってしまうから、よく味わって。




コンクリートの上、アロマキャンドルに小さな火が躍る。
冷えた夜気にベリー系の甘酸っぱい香り。

花火に近付ける前の一瞬は、心音が騒ぐ。
先端の薄紙を焦がすだけで良い。
小さく爆発するように音を立てて、鮮やかな光が噴き出した。

「説明書読めよ、先に付いてる紙は千切って良いんだよ。」
「そうなん?」

見惚れてしまいそうな、闇に描き出される光のシャワー。
そんな時でも嵐山は水を差してくる。
無感情な訳ではない、ただ梅丸を構いたかっただけ。
途切れてしまった言葉を繋げたくて。


illustration by ういちろさん

「あのさ……シロクマ、次は一口欲しい。」
「ん、次な。」

それは"また今度"の約束。
改めて口にしなくたって、二人とも分かっていた。


夏空の青に映える積み木のような白い家。
黒っぽいハリネズミの針山、ピンクに近い柔らかな腹。
アップリケ付きの黄色い布団。
橙色のベッドサイドランプと、肌に散った赤い花弁。

去年の夏まで梅丸が知らなかった色彩。

今もまた交差する光が二つ、駆ける勢いで夜を染めても刹那。
水を溜めたバケツに放っておしまい。
そうして、また別の色を燃やして繰り返し。


*end


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2015.10.23