林檎に牙を:全5種類
最後2つはカップル同士に視点戻して、入浴後の話を。
此の二人に関しては甘々傾向。
でも、私が男女のラブラブ書くのちょっと苦手なので作品少ない原因です…
影薄くなってしまって申し訳ない。
男湯と女湯の分かれ目、広い造りの休憩所。
裸足に滑る木目の床が気持ち良い。

入浴の後は喉も渇くし、肩まで充分に浸かったので暑い。
そんな時、アイスの販売機は何とも魅惑的に映る。
誰も居ないうちにと前を陣取り、本丸が小銭入れを開いた。

「石鹸貸して貰ったから礼な、和磨どれが良い?」
「別に良いけどね……ん、じゃあチョコミント。」

ガラス戸を開いて淡い緑と水色のカップを手に取る。
支払いに時間が掛かるのは、小銭を一枚一枚数える癖の所為。
和磨の隣、本丸もクリームソーダの蓋を剥がす。
木の匙で固い平地を起こせば、舌先に溶ける鮮明な冷気。
アイスの甘さに和むのは両者共に。

もしかしたら、仲良くなれるかもしれないと思う。
今まであまり話す機会が無かったが。


日照雨神社での和磨の評判はすこぶる悪い。
小馬鹿にしたような薄笑いに、たとえ筋が通っていても厭味な言動。
問題の多い性格なので、付き合いがあるのは遠雷くらいか。

しかし、本丸はそれほど悪い印象を持っていない。
嫌な思いをさせられた覚えも特に無く。
入浴中も取り留めの無い会話を幾つか交わしたし、楽しいとすら感じた。
最中、和磨だって笑みを見せてくれたし。
神社の面々に向けるような類でなく、極自然な綻び。

食べる方ばかり夢中になってしまう口が忙しい。
また何か話そうとしたが、名残惜しくも時間切れか。
女湯の暖簾を潜って現われる、黒髪と狐の耳。

「渡!じゃ、またな、和磨っ!」
「あぁ、うん……」

遭遇した時と同じように手を振った後、渡の方へ駆け出す。
和磨の返事は乾いた物ではなかった。
照れ隠しに似た、曖昧さ。



「そう……、楽しかったなら何よりだよ。」

夕飯も終えて、寝る前までの穏やかな時間。
本丸が温泉での出来事を話す中、桃を剥きながら渡が頷く。
女湯で一つ貰ったのだと云う。

熟れた果実の表皮は爪だけで身を現す。
引っ掻いてぺろり捲れば、紅の差す滑らかな真白。

刃物を立てるにも、柔らかな桃は刻まれる傍から崩れそうになる。
待ち切れないまま溢れ出す果汁。
容赦なく雫を滴らせ、堪らない甘やかな香り。
獣の鼻には毒な程に唾液を湧かせる。

「ちょっと!」

皿に並べるまで我慢が出来なかった。
刃物が置かれたのを見計らって食い付いた、渡の手の中にある桃。
一喝されたが、本気で怒っている訳でもない。
叱る割りには何処か甘い響きがあった事を、本丸は知っている。

「だって、食べさせて欲しかったんだもん。」

一切れだけ平らげ、細い指先を舐め上げる。
桃に満たされて何より甘い、此の時間。

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2011.10.02