林檎に牙を:全5種類
カボチャの死骸が街を染める10月がやって来た。
脳を抜かれてランタン、頭ごと砕かれてパイやプディング。
何処もかしこも恐ろしい顔で笑う生首だらけ。
ただでさえ黒猫やお化けのモチーフが溢れて不吉になっているのに。

オレンジ色には少々うんざりしてきたところだった。
今年も大量虐殺の祭りは華々しく。


「そーゆーホラーな発想になるのってまた何か読んだの?」
「感化されやすいみたいに言うのやめてくれマセン?」

当たっているのが実に腹立たしい。

忠臣が青葉を軽く睨んだのは、鞄を提げた学校帰りの事。
揃いの黒い制服はさしずめ喪服か。

街路樹は木枯らしに揺らされて、既に裸の枝も多い。
歩道に絨毯を敷く紅葉までもがカボチャ色。
踏み締める音が忠臣の耳には悲鳴にも聞こえてくる。


それもこれも夢中で読んだ小説の所為。
定期購読している文芸誌でも今月号はハロウィンがテーマだった。
日本で化け物の季節は夏だが、外国では秋。
お菓子に因んだ甘い話もあればホラー系もちらほらと。

忠臣が好きな作家も読み切りを掲載していた。
殺されたカボチャ達がハロウィンに蘇って復讐する物語。
独特の表現力と臨場感に浸らせて、上質の苦い後味。

死霊が訊ねて来る日だとすればカボチャだって該当する。
おびただしい数が殺戮の犠牲となったのだから、それはそれは恨みも深い。


忠臣が口で説明したって、青葉には話半分で聞き流されるばかり。
元から大した反応など期待しちゃいない。
本当の面白さは自分で読んでみなければ解らないのだし。

相手の方から拝借を要求されない限り、他人に本を布教したりしない。
共に楽しめるなら確かに良い関係だろう。
しかし二人とも趣味が違うので、正反対の感想だって有り得る。
忠臣にとって傑作でも青葉には駄作、なんて事も。

異なる意見として受け入れば視野も広がるだろうけれど。
怒りっぽい性分の自覚はあるので、無駄に苛立ってしまうのは避ける。


日除けの為に羽織っていた青葉のパーカーは秋になって防寒用に。
カボチャの群れに加えてもう一つ、忠臣に季節の移ろいを感じさせるもの。
フードから生えたウサギの耳は相変わらずでも。

そんな時、ふと両手で持ち上げて青葉が羽ばたかせる。
ウサギをアピールして何のつもりかと思いきや。

「僕も仮装してるし、お菓子ちょうだい。」
「ハロウィンにウサギ関係ありマス?」
「ほら、パイにされたウサギの怨霊とか。」
「せめてペットとか言えよ、ウサギパイなんか食った事ないデスよ。」

絵本のピーターラビットを思い出した。
畑に入ったピーターの父親は哀れ、百姓の奥方にパイとして焼かれた。

それならマクレガー夫妻を呪えば良いのに。
ウサギを真似ながら、青葉は忠臣の後を付いてくる。
何だか背後霊めいていて少しだけ変な気分。
帰る方向が同じなので、止めない限りは延々と続く。


「……コンビニ寄りマスか?」

ああ、もう降参。
振り向いて目を合わせれば、ウサギは嬉しげに跳ねた。

「うん、僕はお団子が良いな。」
「カボチャ何処行った?」
「10月はお月見もあるでしょ、お団子食べるのも年間行事だよ。」
「あぁそう、やっぱりハロウィン関係ないんデスね。」

青葉が団子に齧り付くなんて年がら年中じゃないか。
それこそウサギのパーカーと同じで。


斯くして、葬列は進路変更。
ハロウィンフェアでオレンジに飾り立てられたコンビニへ。
根負けした忠臣はカボチャに笑われている気すら。

もうすぐ悪霊の騒がしい夜がやって来る。
知った事かとマイペースに過ごすなら、忠臣も好きなお菓子で迎え撃とう。



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2015.10.29