林檎に牙を:全5種類

illustration by ういちろさん

ハロウィンはお化けの日。
黒猫の耳と尻尾の生えた毬栗が現れた。

ガラスケースの中を動き回っては揺れる尻尾。
布製のジャックランタンハウスに籠ると、オレンジに黒がよく映える。
茹でたカボチャの欠片を齧りながら優雅に過ごす。

「耳が四つになったんね。」
「そこはツッコミ要らない。」

梅丸が思わず一言漏らすと、横から嵐山が鋭く返した。
黒猫姿のとげまるは心成しか困った顔。
ハリネズミは意外と表情豊か。
獣に化ける必要なんて無いのに、とでも言いたげ。


ペットを仮装させるのはよくある事。
飼い主達は激写に熱を注いだり、可愛さを誇ったり。

針で覆われているハリネズミに衣装を着せるのは難しい。
しかし巧くやれば華道で使う剣山の要領。
三角耳と尻尾はしっかり刺さって、身動ぎ程度では落ちたりしない。

耳と尻尾は手先が器用な嵐山のお手製。
色々と手間を掛けているのだ、確かに可愛がっている証拠だろう。


それにしても、ジャックランタンの方は実に凝っている。
ハリネズミが入れるのでそこそこ大きさがあって、ふわふわの生地。
とげまるも居心地良さそうにしていて出て来ない。

もう受験勉強の時期。
あまり趣味にばかり時間を割けないだろうに、よく作れたものだ。

「ああ……、それは去年の作品。前の子の代から使ってるから。」

梅丸が素直に誉めたら、そう返された。

「ん、前も飼ってたん?」
「ハリネズミは寿命短いからな、とげまるで三代目。」

飽くまで素っ気なく返すが、嵐山の横顔は僅かに憂い。
心に開いた穴は失ったペットの形。
同じ動物でしか埋められず、再び飼う事になる。

ハロウィンは死霊が帰ってくるお盆。
その中に、先代達も含まれているのかもしれない。


「それから、お前もコレ着ろよ。」

湿っぽい空気は此処までで終わり。
ふと嵐山から黒いパーカーを渡され、梅丸は首を傾げた。

そんな事、わざわざ命令されなくても袖を通すのに。
パーカー自体は元から梅丸の物だ。
この間、嵐山のベッドに放ったまま忘れて行った。

両親が多忙で留守がちな嵐山家。
夏休みに泊まってから、すっかり梅丸は入り浸るようになっていた。
別に遊んでいるばかりではない。
勉強だって欠かさずしているし、寧ろその為。


まじまじ眺めて、やっと嵐山が指図した意味を知った。
フードの部分から新たに生えていた三角耳と、裾からは尻尾まで。

シンプルなパーカーが猫に早変わり。
生地も糸も黒いので見え難いが、やはり手縫いか。
ミシンよりも丈夫なので多少引っ張った程度では取れやしない。
別に嫌ではないし、引き千切るつもりも無いけれど。


「で、ユウは着ないん?」
「僕の部屋にある、けど……、急かすなよ。」

嘘は吐かないので真っ直ぐ問われたら棘が弱くなると知っている。
とげまると梅丸だけお揃い、なんて可能性が低い事も。
どちらに対しても嫉妬するのだ。
思った通り、嵐山の分も準備されていた。


大抵の事なら受け入れる梅丸は従順に。
こうして大きな黒猫になった。
前から着慣れている物なので、獣になっても肌馴染みが良い。

「仮装してるから、悪戯して良いんだべ?」

イベントなら児戯も愛嬌。
猫がじゃれつくように、嵐山に絡んで抱き付いてみた。

ハリネズミは寒さにも弱い。
ガラスケースが置かれた部屋は常に温度調節されて、夏は涼しく冬は暖か。
肌寒い季節向けなのでパーカーは厚手で柔らかめの生地。
抱き締める方も心地良く、このまま眠くなるくらい。


けれど、凶暴な嵐山がそうさせない。
そこも梅丸は知っている。

照れるにしても怒るにしても、噛み付かれて逃げられる。
そう予想していたのだが今日は抵抗しない。
かと云って委ねたりもせず、嵐山は上目で不敵に笑ってみせた。

「すれば?カボチャのプリン用意してたけど、お前は要らないって事なら。」
「……そりゃプリンには勝てねぇべ。」

甘党の梅丸は止むなく降参。
両手を挙げて、嵐山に拘引されるまま階段を下りる事にした。
猫を連れるのにリードは要らない。


こうした余裕や軽口が叩ける辺り、嵐山も変わってきた。
爪や牙を立てられても可愛いけれど。

夜になれば悪戯される方。
今日ベッドに押し倒される時は黒猫のままだろうか。
二匹で絡まるのは可愛らしいものではない。
密かな溜息、梅丸は大人しく寝かせてくれない事を覚悟した。



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2015.10.31