林檎に牙を:全5種類
やっと最後です、お待たせしまして…
一つ一つが短い割にやたら時間掛かってしまいました。
此のカップリングは書きやすいので、10月中には完結せねばと。
相手が長風呂なのは重々に承知の上。
女湯の脱衣所で桃をご馳走になったのは深砂にとって好都合。
甘い果実に歯を立てて、そのまま時間を潰していた。

折角磨かれたばかりの素肌。
下着で締め付けてしまう事も惜しくて。

そんな訳で、待ち合わせの休憩所に顔を出したのは遅め。
濡れて幾分小さく見える金茶の頭。
長身と角が目立つ見慣れた後姿は、既に其処に居た。


「あ、深砂ちゃん……お帰り。」

此方も浴後に甘い物を愉しんでいたようだ。
振り返れば一瞬驚いた眼に、木の匙を咥えた口許。
空になったアイスのカップ。
如何やら、今日は此方が待たせてしまったらしい。

そうは思っても謝罪するつもりは深砂に無し。
行こう、と眼だけで促して手を引く。



夜を迎えた山は澄み切った闇に包まれる。
湯屋の通りを外れると、車も少なく静寂そのもの。
ぽつりぽつりとした灯りしかない帰り道。
恋人同士で歩くには、手を繋いでも人目を気にせず。

「あのさ……えっと、如何かした……?」

喋りながらならば大した事ないのだが、家までは遠く。
料金を払った後も、湯屋を出ても、深砂が口を噤んでいる所為。
和磨が尋ねてみても無反応。

実のところ、別に機嫌が悪い訳でも何でもない。

脱衣所で味わった桃は雫までも蕩ける甘さ。
名残惜しく種を齧ると口一杯。
吐き出すタイミングを逃して、今に至る。


そうとも知らず、和磨の声は何とも不安げ。

手を引く深砂が前を歩いており、それに加えて此の暗さ。
当然ながら表情など見えないが解かる。
落ち着き無く握り返される指先。
確かに繋がっているのに、腕二本分の距離は大きく。

「ねぇ……僕、何か怒らせる事しちゃった……?」

背後の高い位置、そろそろ泣きそうな声が聞こえる。
此れではまるで幼い迷子。
こんなにも近くに居るというのに。

だからこそ可愛いと感じる、苛めたくなる程。


振り向き様、腕を掴んで引き寄せた力は渾身。
相手が男でも不意打ちならば簡単。
躓くようにして深砂に近付いた、其の顔。

「……ッん……!」

眼が合ったのはほんの一瞬。
唇を塞がれて、熱の灯った和磨が小さく呻いた。
絡まる舌に桃の種。
其の口付けは、射精にもよく似た快楽。

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2011.10.21