林檎に牙を:全5種類
「あー、明日のクリスマス中止になんないかな。」
「そーゆー事言ってると馬鹿に見えマスよ?」

真っ白なツリーに見下ろされる中、青葉の溜息は喧騒に溶けた。
ただでさえクリスマスソングが延々と流れて耳が麻痺しているのに。
何か影響があったとすれば、隣の忠臣が冷めた目をしただけ。


祝日のショッピングモールは満員御礼だった。
プレゼントやケーキを求め、明日の準備に目を輝かせる。
サンタの赤、ツリーの緑、雪の白や星の金色。
世界中が彩られて幸せで満ちる祭典。

にも関わらず、青葉は淡く憂鬱。
別にクリスマスが嫌いになった訳ではないのだが。


それと云うのも明日は部活で他校と試合。
勝っても負けてもその後はパーティー、丸一日が潰れてしまう。

バスケ部を選んだのは青葉自身の意志。
運動神経も良い方なので、一年生の中でもそれなりに活躍している。
けれど、どっぷり浸かるほど好きな訳でもないのが本音。
試合なんて面倒なだけだった。

それに中学生になってから上下関係は厳しい。
先輩方に気を使うパーティーは果たして楽しいのかどうか。
部活内で親しくなった子だって勿論居るが。

世渡り上手で人に流されない。
そんな青葉も、たまには疲れてしまう事だってある。


「せめて忠臣が居れば気楽なんだけどな、僕。」
「柔道部に助け求めるんじゃありマセンよ。」

部活が分かれた事を後悔する訳ではないが、つい弱音が零れた。
忠臣は我が強いので青葉と違って他人とぶつかりやすい。
生真面目なので筋が通らなければ頑固。
目付きの悪さに加え、皮肉も吐くので尚更に。

一見すると厄介な奴だが、青葉にとっては最も楽に呼吸できる相手。
遠慮が要らず衝突する前に受け流すのはお手の物。
幼い頃から積み上げて、築いてきた空気。


去年までは小学生なので、町内別でクリスマス会があった。
会場の公民館は古い日本家屋。
煌びやかなツリーは畳張りにアンバランスで笑ってしまう。

青葉は決して居心地が悪くなかったし、忠臣も気に入っていた。
大きな本棚にある昔の漫画や絵本が目当て。
割りと自由に過ごして良かったので、二人で読んだものである。
忠臣ほど読書家ではないので半ば付き合いでも。

もう足を踏み入れる事なんて無い場所。
あの匂いも、もう懐かしい。


「そんで、何にするんデスか?」
「見ながら考えるけどね、まぁ無難に決めるよ。」

今日はモールへ遊びに来たのではない。
部活のパーティーでプレゼント交換をするので買い物の為。
忠臣も連れて来たのは、一人では怠いから。

決められた予算は1,000円前後。
プレゼントを贈るにも貰うにも、こんなに気乗りしない事は初めて。
中学生なんて悪ふざけ盛り。
受け狙いで可笑しな物も当たるだろうし、あまり期待はしていない。


そんな事を考えながら歩く中、カジュアル衣料の店先で足を止めた。
クリスマスセールでお求めやすい価格が並ぶ。

服は流石に予算オーバーでも小物なら。
防寒具は冬に重宝するし、幾つあってもきっと大丈夫だろう。
そうして青葉がネックウォーマーを選んでいると。


「あ、良いなソレ……、オレも一つ欲しい。」

ふと忠臣も横からネックウォーマーに手を伸ばしてきた。
やはり、とも思えば今更、とも思う。
忠臣が愛用している黒いコートは胸元が開き気味。
詰襟の学ランの上に羽織るなら良いが、私服では少し冷える。

フードを好む青葉からすれば、首元が無防備なんて落ち着かない。
見ているだけで寒そうとは前々から。

なのでネックウォーマー自体には賛成、しかし。


「上下真っ黒なんだからさ、せめて小物は他の色にしなよ。」

服に無頓着な忠臣はただでさえ黒ばかり。
またもや暗い色を選ぼうとするので、青葉が白を巻き付けた。
ボタンを留めれば首から口許までふわふわで埋まる。

暖かそうで心成しか忠臣も安心した表情。
黒が引き締まる色なので、ボリュームのある白は何だか可愛らしい。


「そうだな、オレはコレにするか。で、青葉はドレ贈るんデス?」
「んー、やっぱ靴下にでもしようかな。」
「ネックウォーマーどこ行った?」
「でも三足セットだし、こっちの方がお得だよ?」

異議も無く青葉に勧められるままの忠臣は怪訝に。
気紛れを起こしたものだから、首を傾げた。

青葉の事情は、彼自身にもよく分からない。
まだ見知らぬ誰かと忠臣がペアの物を持っているのが、どうかと思って。
嫌だと言い切るには渋く、飽くまで何となく。


もうすぐクリスマスがやって来る。
今年は呼吸するだけで疲れてしまって、薄らぼんやりした色の。



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2015.12.23