林檎に牙を:全5種類
年が明けて間もない朝、寒さは清浄と表わされるに相応しい。
祝賀の輝かしさが混じった空気。
それならば、今朝はなんと澄み切った日だろうか。
「おはよう」は凍るように白く色付いた。

青葉の羽織っているコートも愛用のパーカーと同じブランド。
フードを被ると、垂れ下がったウサギ耳が揺れる。
重力に負けてと云うよりも、今は寒さで伏せてしまっているような。

そんな青葉は忠臣の方がつい心配になる。
いつもの黒いコートは着ていても、帽子どころか無防備な頭。

「何だよ、伸びたから床屋行っただけデスけど?」
「忠臣の「伸びた」って基準、僕とはだいぶ違うよねぇ。」

新年だから気を引き締める為か、また少し短くなったベリーショート。
そして、この寒さですっかり赤い頬。
何だか忠臣の横顔はサルを思わせて、青葉は笑みを零した。
馬鹿にするつもりはない。
それでも飽くまで気付かれない密やかさで。


冬休みなのでこんな早くに出掛ける必要も本当はないのに。
行き先は近所の神社、初詣へ。
勝負の時が刻々と迫っているのだ、気休めでも神頼みせねば。

二人とも来週の日曜は、本命である高校の推薦入試。

成績は上の方、生活態度も特に問題ないと判を貰えた結果。
制服に年中パーカーを合わせる青葉は教師に目をつけられそうなものだが。
何しろ、王林中学校は緩い校風なので助かった。


それに、苦手科目の無い青葉の成績は申し分ない。
文武両道に加えて要領が良い為、適度に手を抜きつつずっと保ってきた。

対して、その少し上の順位を忠臣は日頃の努力で勝ち取る。
ライバル意識を持たれているのは昔から。
曰く、何でも器用にこなしてしまう青葉が腹立たしいらしい。

なので「高校も一緒に」とは申し合せるまでもなかった。
幼馴染の惰性や、ただ仲が良いだけではない。
張り合う相手が居るからこそ忠臣は本気が発揮出来る奴なのだ。
青葉と離れる事は考えもせず、勝負続行。


正月の神社は着物や厚着の人々で溢れかえっているもの。
波に揉まれるのは勘弁と、早めの時間を選んだ。
夜よりも朝に弱い青葉は欠伸ばかりだが、致し方あるまい。

「同じところばっかりやってて、何かもう頭痛してきマシタよ……」

根を詰めて勉強している忠臣も、たまには外へ出る必要があった。
初詣の目的は気分転換も兼ねて。

三年生の授業内容を何度も頭に刻みつける。
教科書とノートを引っ繰り返し、テストまで解き直して。
涼しくなるにつれて勉強に熱が増す日々。
試験が近付いてきた今や、本番前にオーバーヒートを起こしそうだ。


もう良いから早く終わって欲しい。
疲れた顔をする忠臣を見ていたら、青葉の手が思わず伸びる。

青葉より少し下の位置、短くなった頭を撫でた。
労わるような、宥めるような。
不意に優しくされて忠臣が面食らったのも無理はない。


「ちょ、何だよ。慰めとか要りマセンよ、ムカつく。」
「いや、触り心地が気になっただけ。」

本当は、一番驚いていたのは青葉の方。
すぐさま誤魔化す言葉を吐くと、手を引き込めて考え込んだ。

頭を撫でるなんて子供相手じゃあるまいし。
放っておけないにしても、他に方法は幾らでもあった筈。
青葉自身だって受験勉強漬けなのは同じ。
慰める事自体が上から目線、傲慢なのではないか。

「疲れてるなら甘酒でも飲もうよ、暖まるし。」

そうこうするうち近付いてきた目的地。
神社の境内に建つ屋台を指して、話を逸らした。
こうして話題が流されてしまえば、再び上がる事はあらず。


気の利いた言葉を素直に掛け合うような関係ではないのだ。
想像すると爽やかすぎて、いっそ寒くなる。

実のところ、ライバルだの張り合うだのは忠臣による一方的。
飄々とした青葉は誰かと比べる事などしない。
他の友達とは少し違う事を認識しつつも、競争しているつもりは無かった。

息も合うし、共に過ごしていて気楽。
けれど、何となく忠臣を「親友」とは言いたくなかった。
元からその言葉が好きではない事もあるが。
しっくりくる答えが見つからず「幼馴染」と呼び続けて今に至る。

繰り返し繰り返し、何年も。


「そーいや、嵐山と梅も同じとこ受けるんだろ?
 願掛け誘わなくて良かったんデスかね。」
「いやー……、あの二人は放っておいて良いんじゃないかな。」

成績優秀な推薦枠はもう二人。
それと同時、青葉達と違う意味で普通の「友達」ではなさそうな。
無事に合格して春を迎えたら、こんな日々も変わるだろうか。
ほんの三ヶ月先の未来で。



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2016.01.06