林檎に牙を:全5種類
三学期早々、最初の三連休はとても気が重いものだった。
土曜は最後の勉強漬け。
そして来たる日曜、本命の受験日を迎えてしまった。
推薦は入試が早いので苦しみも一足先に。

それは嵐山にとってだけではない。
同じ学校の推薦者は男子4名。


眩しいくらいに晴れて澄み切った朝、校門前での事。

他に志望者が少なそうな学校を選んだつもりだったのに。
どうしてかクラスで見慣れた顔ぶれが並ぶ。
4人揃って申し合わせた訳でも無い筈、そこまで仲良くもない。


短い髪にきちんと制服。
模範生のように真面目な忠臣はいつも通り。
彼に関しては何処の学校を受けても問題ないだろう。

その隣、青葉は髪型が違うもので一見別人だった。
いつも馬鹿みたいに跳ねていた毛先はセットされて、今日は行儀良く。
学ランの前を留めるには、下にパーカーなんて不要。
お気に入りのウサギも家で留守番らしい。

「今日の青葉は違和感凄いデスね。」
「優等生を演じる日だしねー。梅さんも髪ツンツンしてない方が良いよ。」
「何なん、俺がカッコつけてんのそんなに変なんきゃ?」

受験の為、身嗜みを整えているのは此処にも一人。
梅丸の髪は生まれつき仄かな紅を含んだ色。
ワックスをつけず、こうして下ろしている限りは目立たない。
薄暗い校舎内なら尚更の話だろう。


談笑する3人から数歩離れて、嵐山は密かに煩わしさを募らせていた。
遮断されている訳ではない。
輪に入る事も出来る筈だが、それは望まなかった。

強引に梅丸の腕を引き、浚って行きたい欲求。
「此れは僕のだ」と宣言して。


話は遡って、まだ暑かった季節の頃。
嵐山が志望校を口にした時、梅丸は「俺も」と答えた。
そんなあっさりしたまま今に至る。

相変わらず梅丸が何を考えているのかは分からない。
志望校は嵐山に合わせたのか、元からか。
もっと話し合うべきだったが踏み込んでみるのが怖かった。
後者だとすれば、嵐山でなく青葉達と別れたくないだけかもしれない。


受験とは指先まで緊張してしまうもの。
しかし、実のところ嵐山は大して心配していなかった。
勉強に関しては自信があるし、面接だって。

もっと偏差値が高い進学校だって狙えたのだ、本来ならば。
中学校がずっと一人だったらそうしたかもしれない。
梅丸の事など考えもせずに。
せっかく再会出来たのだ、今更また離れ離れになんて嫌だった。


指先を伸ばせば届いても、今はそれが果たせない。
もう一つ、嵐山が苛立っている理由。

例えるなら、ケーキを目の前にしつつ空腹に耐えているような。
年末からずっと梅丸とは身体を重ねていない。
そちらの方が受験よりもずっとストレスになっていた。


勉強が優先とは嵐山だって心得ている。
それに、年末年始は流石に両親も正月休みだった。
梅丸を家に呼ぶのも控えがち。
ただ勉強するだけであろうと、紹介するのも気が引けて。

そう云えば、とげまるも何となく寂しげだった。
何故か梅丸に懐いている所為。
飼い主一人では不満なのかと思うと、実に腹立たしい。


門から昇降口までの道すがら、つい無駄な事ばかり考えてしまった。
真っ白な溜息を吐けば終わり。

冷たい空気が身体中に沁みて、気を取り直した。
嫉妬も苛立ちも欲望も。
今ばかりは何もかも全てが後回し。

顔を上げたら、いざ勝負の時。




三年生になってから一年足らず、徐々に張り詰めていた神経。
筆記試験と面接に分かれども時間にしてみれば短い。
昼過ぎには解放されて、力の抜けた足取りで受験生達は帰り支度。

手応えはあった。
嵐山からすれば、当然とも言うべき確実さで。

何処かのファミレスでも寄ろうと話す集団は横目に流して。
感傷に浸る間もなく、嵐山も鞄を抱えて階段へ急いだ。
そろそろ母親が車で迎えに来る。

第一志望校の道順くらい分かる。
恥ずかしいからやめてくれと、はっきり辞退したのだが。
受験生なんだからそれくらいは甘えなさいと乗せられてしまった。
見られる前に早く去った方が良さそうだ。


最後に一目、と視線だけで梅丸を探す。
けれど受験生の集まる教室には見当たらず。

それもその筈。

教室の出入り口に立っていた嵐山は、向き直ってみて驚いた。
赤味の髪を持った少年はいつからか後ろに。
どうやら反対側の引き戸から出て来たらしい、心臓に悪い。

何か用でもあるのか。
普段通りの大きな態度で返したいのに、それは叶わず。
面接官の前ですら平常だった心音が加速する。
爪先が熱で疼いて、そんな自分が滑稽。


「何、だよ……」
「いや……、ユウ、お疲れ。」

ちょうど柱の前に立つ梅丸の姿は、教室の面々から見えない。
ましてや、片手を取られても何をしているかなんて。

そのまま細い指先にだけ梅丸の唇が触れた。
情交の時、舐めさせる場所。
絶対的に主導権を握る嵐山が許したのは、そこだけ。


同じように空腹であろう梅丸にとっては、嵐山の方がケーキ。
クリームを掬われて眩暈がするほど切なくなる。

人目や場所を憚る理性が踏み留まる。
本当は、唇を重ね合いたいのに。
それこそ息の根を止める強さで、熱に任せるまま。


やはり高校までは一人で来るべきだったか。
一緒に帰る事も出来ない嵐山は、深い後悔で小さく唸った。


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2016.01.10