林檎に牙を:全5種類
此の三連休中、嵐山家は珍しく両親が顔を揃えていた。
別に居なくても寂しくなんてのに。
普段お一人様で充実している嵐山はあまり不便と感じない。
近所に祖父と叔母一家も住んでいるのだ、人恋しいならそちらへ行くだけ。

家に両親が居て困る理由は、梅丸の事。
学校すら休みなら何処で逢瀬を重ねれば良いのだろうか。

「映画は?」
「今は観たいもの全然無いな。」
「遊園地は?」
「人混み嫌い。それと絶叫マシンは滅べば良いと思う。」
「カラオケ……は、ユウ歌うの苦手だったんべな。」
「知ってるなら訊くなよ。」

いつも家でのデートに落ち着くのは、こう云う事である。
何処かに行きたくない訳ではない。
ただ嵐山は「嫌い」が多すぎて、除外するほど該当の場所が減る。


結果は後でも、とりあえず受験から解放されたのだ。
羽を伸ばす為に何処かで過ごそうと思い立った。

朝から神経が擦り減って、流石に今日はもう家で休みたいところ。
それに送迎があるので帰り道すら別々。
三連休の最後、明日の月曜だけは夕暮れまで一緒に。


それにしても、肝心の行き先を決めかねてはどうしたものか。

二人で並びながら歩く高校の校舎。
受験生の教室を出て階段、廊下、昇降口を出れば門が見える。
後で電話する手もあるが、ゴールへ辿り着くまでには何とかしたい。
「やはり辞めるか」なんて言い出されては困る。

此処は一つ、嵐山が折れるだろうべきか。
我が強いので押し通してばかりだが、今回は少しくらいなら。
本当は、梅丸が居るなら何処でも退屈しないのだと。


「なら……「ソフィア」とか、どうだんべ?」

妥協を口にする寸前、梅丸がまた一つ提案。
昔から聞き覚えのあった名を。

「そりゃ知ってるけど、僕は行った事ない……」
「丁度良いべ。それじゃ11時に、また明日。」

それだけ告げられたら、今日はお別れ。
梅丸は自転車置き場の方へと去って行った。

まったく、いつになく勝手なものだ。
普段の自分の横暴ぶりを棚に上げて、嵐山が一人で腕を組む。
ただし、表情には晴れが差して。

「また明日」と別れるのは悪くなかった。
楽しみが待っているなら。




国道沿いの一歩奥には、廃墟を思わせる屋敷が聳え立っていた。
黒塗りの壁は風雨に長年晒され続け、ささくれだらけ。
深い緑に囲まれて晴天の下でも雰囲気は薄暗い。
外界と遮断されて、まるで時間が止まってしまったようなゴシック調。

お化け屋敷にしか見えないのだが、そこを含めて紅玉街では名物。
「ソフィア」の名を持つ、老舗の喫茶店であった。


かく云う嵐山も、幼い頃は本物のお化け屋敷と信じていた。
車の窓から店が見えただけで怯えたものだ。
特に夜など、出てくる客を幽霊と勘違いした覚えがある。

今となっては、スプラッター映画ですら好んで観られるのに。
所詮ホラーなんて娯楽に過ぎない。

10年以上経って、まさか件の喫茶店へ訪れる日が来るとは。
それも同性とのデートで。
当時の自分に教えたらどんな顔をするやら、そんな考え事をしつつ店へ。


涼やかなドアベルと共に、そっと踏み出した一歩。

意外な事に、ボロボロに見えるのは整えていない外装だけだった。
確かに古いが、内装は驚くほど小奇麗に保たれている。
暖房が効いており冷え切っていた頬には春風。
小さくても数の多い窓から陽が射して、空気は柔らかな明るさ。

ガラスケースには昔ながらの手作りケーキ。
忙しない厨房は立派な石窯まで備わって、ピザが焼けたところ。
チーズの焦げる匂いが嵐山の方まで届く。

それもそうか、だからこその有名店。
盛況ぶりからして味の保証はされたようなもの。


約束は開店時刻と同じ。
あまり早く来たら浮かれているようで、わざと少し遅れての到着。
それでも見渡せば席はちらほら埋まっていた。

中でも、着物やスーツ姿ではしゃぐ若い男女の集団が目立つ。
そう云えば今日は成人の日。
もう式が終わったのか今からか、それとも欠席だか。
本来なら静かにお茶を愉しむ空間だろうに騒がしい事である。


「ユウ、こっち。」

迷子じみた足取りで席を巡っていたら、愛しい声に呼ばれた。
片手を挙げた梅丸の姿に安堵を覚えたのは秘密。


制服が窮屈な武装だった日が明ければ、私服は一際身軽である。
今日はいつも通りワックスで癖のついた赤毛。
黒いスタジャンを合わせるとスポーティーな印象になる。
あまり着込まなくても平気らしく、細めのシルエットを保っていた。

一方、余分な脂肪どころか筋肉もない嵐山は少し寒がり。
丈が長めのダッフルコートにマフラーも。
もこもこ着膨れると、丸っこくなって何処となく愛らしい。

家でのデートならあまり服に悩まないのに。
お互い部屋着で過ごす事が多く、それに脱いでいる時間も長い。

そうしたかったのは山々。
もし昨日から家に嵐山一人なら、梅丸を帰したりしなかった。
下着すら放ってベッドに籠りきり。
唇に、首に、肩に、たっぷりと噛み痕を付けていただろう。


「まぁ、座んなね。ユウは紅茶とコーヒーどっちにすんべぇか?」
「どっちでも良いけどね……、寒かったから早く熱いの飲みたい。」

椅子を引きながら、嵐山の返事は素っ気なく。
「会いたかった」なんて大袈裟で甘い言葉は呑み込んで。
席に着いたらデートの始まり。


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2016.01.11