林檎に牙を:全5種類
「梅丸はさ、高校の後どうするのか考えてる訳?」

春になれば中学校も卒業、脱ぐのは重いコートだけでなく学ランも。
高校生活が始まってもたった3年間の猶予だ。
ただ延期になっただけ、進む道は必ず分かたれてしまうのだ。

「あぁ、3年後って話の続きな……そう言うユウはどうなん?」
「……僕は、検事になりたい。」

身体優先だった関係は会話が足りない。
こうして大事な部分に触れたのは、もしかして初めてか。


成績優秀なのはそれに向けて勉強しているからこそ。
両親が弁護士と云う影響も多少あれど、法律関係には興味があった。
嵐山も同じような道を考えての将来設計。
目標が高いのだ、今から築いておく事は別に早くない。

法学部のある大学を経て法科大学院、司法試験に修習。
今後、約10年先までに進路や取りたい資格を決めておかねば。


「その将来設計って、俺の事も入ってるん?」

そうやって、梅丸は訊き難い事を呆気なく口にする。
相変わらずの無表情を真っ直ぐ向けたまま。

「そうだね……お前に逢わなきゃ、もっと真っ当な人生送れたのに。」

対する嵐山は何処か恨みがましく呟いた。
憎んでいる訳じゃないのに。
設計を狂わせるものがあるならば、それは梅丸の存在だった。


大学や資格に落ちても、それは自己責任。
嵐山が屈しなければ少なくとも結果は付いてくる。

けれど、恋愛は一人で出来ない。
どんなに熱意があっても努力しても上手くとは限らず。
人の心なんて不確かなものだ。
今だって、ただでさえ梅丸が何を考えているか分からないのに。

執着する理由は嵐山の性格上だけでない。
捕まえておかねば、すぐ壊れてしまいそうな不安感。


あの夏の日、梅丸が着いて来てくれる事を願って第一志望を口にした。
選んだ高校だって偏差値は決して低くない。
けれど、もっと上の進学校を蹴ってでも離れたくなかったのだ。
進みたい道に自分から難儀な谷や山を作ってまで。

目標だけ見据えていれば、こんな事にはならなかった。
かと云って、そんな道はなだらかでもきっと退屈だったろう。

こうして強く想える相手なんて、梅丸以外に居ない。

並々ならぬ独占欲も、牙を剥く激情も。
もう此れは"恋"なのだと自覚せざるを得なかった。


「何なん、別れ話かと思ったがね。逆に。」
「冗談でもやめろよ……!それで、お前はどうなんだよ?」

二度目の問い掛けに、梅丸も自分の紅茶を啜った。
勿体ぶってか、それとも落ち着く為なのか。
崩れかけのアップルパイに苺パフェ。
こんな甘ったるいテーブルで真剣な話をしているのが可笑しい。

「何も考えてないって言ったら嘘になるんべぇな……
 今のところ、俺は調理か製菓の専門に行くつもりなんさ。」

それは意外な。

「え……梅丸、そんなに料理とか好きだったっけ?」
「だから、今のところって言ったんべ。」


梅丸が泊まりに来ると、作る食事は簡単な物になりがち。
腹に収まれば何でも良いと嵐山が答える為。
凝った料理は掛ける時間が勿体ない。
受験勉強だけでないのだ、二人きりの夜にする事は。

梅丸が家でも料理をするとは聞いていたが、そこまでとは。
知らない事が多かったのはお互い様。

だとすると、本当は料理の腕を振るいたかったのかもしれない。
"食"を特別に思っているなら尚更。
嵐山にアップルパイを作ってほしいと言った事だって。
相手が居るならば、与えるのも貰うのも両方したくなるもの。


互いの道が薄っすらと見えたところで、一息吐く。

子供の頃に出逢って別れて、再会に6年も掛かった。
確信なんて何処にも無かったのだ。
嵐山には永遠にも似た長さだった歳月。
それからまた3年、今度こそ会えなくなってしまう気がして。

道は別々でも繋がっていたい。
叶わないかもしれなくても、願っているのは自分だけでないと。


「梅丸こそ、僕の事はどう考えてるんだよ……」

押し倒してから、そのまま済し崩しに続けて来た。
感情が曖昧なのはもう限界。
そろそろ関係にも決着を付けようじゃないか。

「好き」も「付き合う」も、こうなっては今更。
それでも言葉が要るとするならば。


「俺には、ユウが一番可愛いって言ってるがね。此の先もずっと。」
「僕は男だよ、可愛いとか言われても全然嬉しくない。」
「そうだんべな……、なら言い方変えるべぇか。」
「何だよ……」

視線が何故か息苦しくて、嵐山は少し俯いた。
片手を取られた時に肩が跳ねる。


illustration by ういちろさん

やはりキスが落とされるのはいつもの指先。

ああ、昨日と同じだ。
口付ける梅丸の恭しい仕草も、柔らかに触れてきた体温も。
違う事があるなら、続けられた言葉。


「誰より愛おしい、って意味だがね。」

囁く低音は艶めいて、梅丸にしては熱っぽく。
一瞬のうちに焼き付いた。


「あのさ……、指だけで済ますつもりじゃないよね?」

愛おしいなんて、嵐山にとっても同じだと。

此方だって梅丸の手を捕らえている形。
そのままの勢いでテーブルの下へと引っ張り込んだ。
他人の視界に入らず、陰が心地い薄暗さ。

唇を重ねる秘密の場所としては最適。


違う道まで3年、成人式まで5年。
それでも今日は二人にとっても記念日だった。
少しだけ大人になった、誰も知らないままひっそりと。


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2016.01.20