林檎に牙を:全5種類
部活も勉強も無くて暇になった身、放課後の行き先は図書室。
静かで暖房が効いた空間は寒がりにとってお気に入り。
無防備な欠伸を小さく繰り返す嵐山に、梅丸も少しだけ表情を和らげた。
気付かれたら後で鋭く睨まれたとしても。

嵐山と梅丸は中学校を挟んで帰り道が逆方向。
何処かの店へ寄る事も出来ず、別れを惜しんで下校は遅くなりがち。

目当ては本でなく、ページも捲らずにぼんやり過ごす。
ただ二人になりたいだけ。
図書室の面々も活字を追うのに忙しく、誰も彼らを見ちゃいない。
もし軽くキスを交わしても気付かれないだろう。

乱暴な逢瀬を重ねた旧校舎はもう寒すぎるのだ。
それなら嵐山の家に泊まりに行く時で良い。
足が遠退いた理由は他にもあるのだが、そこはまた別の話で。


年明け、受験、そして例のお茶会。
それこそ嵐のような1月が去れば2月は平穏だった。
中学卒業まで残すところ一ヶ月。
それから、嵐山と正式に恋人として過ごして一ヶ月でもある。

とは云え、関係自体はあまり変わらない。
甘くないのも意地悪なのも慣れてしまった結果とも言えた。


つい先日だって梅丸も誕生日を迎えたが、お祝いは手荒。
節分の前日だからと豆をぶつけられた。
それだけではないにしても。

色々と考慮すれば、あれも仕方ない事だったと思う。
そもそも期待してなかったものだから覚えていてくれただけで充分。
祝ってほしいなら黙っているだけでは駄目。
何も言わなければ伝わらないのだ、報連相は大事。

そう云う事だったら。


「ユウ、お前あげる方と貰う方どっちが良いんさ?」
「……僕があげる訳ないだろう。」

主語を言わずとも、問い掛けの意味は嵐山にも伝わっていた。
何故ならば本日は2/13。
恋人達にとっての一大イベント、バレンタインデーを控えているのだ。


正月ムードが薄れた頃からチョコレートの大売り出し。
家でテレビを眺めれば特集の番組が流れ、外へ行けば店には専用コーナー。
否応なく桃色のハートは目に入ってくる日々。
図書室だって、お菓子の作りの本が大量に貸し出されて棚がガラ空き。

イベントは把握していても、あまり祝う気が見られない嵐山の事だ。
こうして確認を取っておかないと当日は完全に未定。

「あげない」の返事には納得。
冷たい物言いも想定内なので、別に落胆などしない。
その程度では嵐山とは付き合えないのだ。


それに、梅丸は最初からバレンタインデーに期待は持たなかった。
甘い物が好きなので、"チョコレートの日"くらいの認識。
妹やそれなりに仲の良い女子からは数える程度しか貰った事は無い。
曰く、友達同士で交換する方が楽しいそうだ。

見知らぬ女子から告白付きなんて類なら、背が伸びた頃から数回。
それも断り続けていたら最近はめっきり減った。
受け取った方が面倒な事になりそうで。

嵐山に知られた場合も、さぞ面倒な事になりそうだ。
嫉妬で荒れて一悶着起きるのは間違いなし。


それはそうと、嵐山から貰えないなら仕方ない。

帰りに何処かでチョコレートを選ばなくては。
梅丸の方から贈れば済む話。


「そろそろ帰るべぇか、俺これから用あるんさ。」
「何だよ、怒った?」
「用あるん嘘じゃねぇって、それともユウ寂しいん?」
「……ばーか。」

照れ隠しの悪態をついても、嵐山は揃って立ち上がる。
コートを羽織ってマフラーを巻いて。

チョコレートを買う用、なんて明かしても良かった筈なのに。
いっそ一緒に行って嵐山が欲しい物を選べば確実。
けれど梅丸は口を噤んだ。
伝え合うのも大事だが、贈り物を内緒にするのは悪戯にも似ていて。

並ばない肩と緩やかな足取り。
昇降口で別れるまで、もう少しだけ二人で。


illustration by ういちろさん


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2016.02.05