林檎に牙を:全5種類
儚い2月は命を散らせて、とうとう迎えた3月。
卒業式まで三週間足らず。
最初に春を告げる梅が丸い花弁を開けば、次に待つのは桃。

桜餅や桃のドリンクがコンビニなどで目立つようになってきた。
3月のお祭り、桃の節句を祝う為。

お祝いならもう一つ、嵐山にとっても。


「ユウ、誕生日って何か欲しい物あるん?」

バレンタインの時と同じく梅丸が訊ねたのは2日の事だった。
3月3日は誕生日、やっと15歳になれる嵐山に。


考えてみれば少しばかり遅かっただろうか。
意地悪な嵐山の事、何を要求されるか分かった物ではない。
用意に準備が必要な物だったら間に合わない可能性も。
口にしてから軽い後悔が過ぎる。

「……思考放棄するなよ。」

しかし返事は不愛想、別の意地悪。
欲しい物を訊かれて機嫌を損ねる意味が分からない。
もっと嬉しそうにしても良いのに。

「僕が自分で選んだんじゃつまらないだろ。お前も考えろよ、少しは。」
「何なん、ユウが欲しい物とか知んねぇから訊いてんだべ。」
「そうやって諦めるなよ、考えれば分かる事だろ。」
「またおこんじょべぇ言って……」


「特に無い」と素っ気ない返事の場合も予想していたのに。
一緒に買い物へ行って、選んで貰えば良いと。

どうやら梅丸が嵐山の為に選んだ物でないと駄目らしい。

明日までにたっぷりと嵐山の事を考えなければならず。
梅丸を振り回して、高みの見物。
こうした我が儘なら嬉しくもない訳でもなかった。
頭の中まで支配していたいのだ、要するに。


「楽しみにしてるから。」

追い打ちを掛ける一言。
もし照れた仕草ならば可愛げあって、やる気も起こるところ。
けれど嵐山は飽くまで挑発的に笑って強気。
それで良い、それでこそ。

さて課題の期限は一日。
斯くして、梅丸は頭を抱えながら今日を過ごす事になる。



バター沢山、シナモン一瓶、砂糖と粉なら家にある。
次々に放り込んで重くなる買い物籠。
時折何かを考えて呆けた様子、それでも梅丸はあちこち突き進む。

誕生日プレゼントの購入に、とは見え難い光景。

嵐山を昇降口で見送った放課後。
自転車を止めて梅丸が寄り道したのは、近所のスーパーである。


「考えれば分かる」の言葉を元に、ヒントは今まで過ごした日々から。
人も物も興味以外は無関心の嵐山だ。
そんな彼にとって特別な物ならば幾つか思い当たる。
ハリネズミが好き、手芸が好き、紅茶が好き。

そうした中から、解答は一応ながら見つけたつもり。
喫茶店でアップルパイを注文していた。
「たまには自分で作った物以外も食べたい」と言っていた。
家でもたびたび焼くくらい好きだと云う事実。

梅丸には食べさせてくれた事はないが、だったら此方が作れば良い。
欲しければ与えよ。

辿り着いた青果コーナーでは目を凝らして慎重に。
小振りで酸味の強い林檎を選び取った。
今夜、狐色に焼き上がるアップルパイの為に。


買い物籠を積んだカートは片手運転。
反対の肩には下げた学校の鞄。
涼しい梅丸の風貌には不似合い、羊毛フェルトのハリネズミが揺れていた。
無垢な黒目に両手を揃えたポーズが何とも愛らしい。

梅丸の誕生日に嵐山からプレゼントされた。
それなら、お返しは自分の得意な物で祝うのが筋にも合う。

仮にも梅丸は調理か製菓で進路を考えている身。
アップルパイなら前にも何度か作った事があるし、味の保証も出来る。
嵐山家へ持って行くなら電子レンジで温め直そう。
熱々にバニラアイスを落とせばご馳走。


缶詰の桃も林檎に合わせると美味いパイになるのだが。
少し迷ったが、やはり棚に戻しておいた。

性別を間違われがちな嵐山は、雛祭りにアレルギー反応を示す。
此処で桃が登場すると台無しになりそうだ。
パイに罪は無くても、梅丸に悪気は無かったとしても。
また今度、何でも無い日までお預け。


買い漏らしが無い事を確認して、改めて顔を上げた。
早く帰って作り始めなければ。
パイ生地から取り掛かるなら長丁場になる。

早足でレジへ向かう道すがら、ふと文具コーナーで梅丸は目を引かれた。

こんな所にハリネズミのメモ帳。
犬や猫など他に種類はあれど、デフォルメされた針山は正しく。

ペットブームもあって、最近ハリネズミの雑貨をよく見掛ける。
単に梅丸が目敏くなっただけかもしれないけれど。
確実に嵐山ととげまるの影響、無意識に探すようになってしまった。


此処で出逢ったのも縁、プレゼントに色を付けよう。
ハリネズミを掬い上げて籠に追加した。

ああ、折角ならば一言添えるべきか。
最初の一枚を捲ったら何とペンを走らせようか思い悩む。
宛てる言葉なんて、大事過ぎて今はまだ内緒。


ケーキ代わりにアップルパイとハリネズミのメモ帳。
それから、忘れずにもう一つ。
あの時は「ハッピーバースデー」の言葉と共に、キスを贈られた。

梅丸から触れる事を許されているのは指先だけ。
明日ぐらいは唇でも構わないだろうか。


或いは林檎、若しくは手紙、別の言葉で表すならば愛。


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2016.03.03