林檎に牙を:全5種類
校則の緩い王林中学校は遊びもまた多い。
その中で、名物になりつつあるのがお昼の放送である。
特集を組んで曲を流したり、クイズや心理テストで盛り上がったり。
ラジオ番組を真似て、ちょっとしたショータイム。


そうして会議により来月からは本の朗読に決定した。
さて問題は、どれにするか。

まず、聞いていて楽しい話なのは当然。
毎日交代で読むとしても一ヶ月以内で終わる長さ。
他にも細かい条件が色々と。
朗読は単純なようで、そこを考えると大変面倒。

図書室に置いてある本からにしても、それこそ膨大な量である。
先生に内容の許可を得なければならないので早めに選ばねば。


このたび委員長に任命された凛子は溜息を吐いた。
一年生から続けてきた実績がある所為。
他に居ないと、三年生に上がってから半ば押し切られる形で。

「格好良い」とよく言われる凛子はこういう所がある。
周囲の人間を巧く使うよりも、何かと頼られてしまいがち。

そして本選びは責任感がある役なので委員長の仕事に。
こうして進級してからずっと大役続きだ。
受験も控えており、中学校最後の年はなんてブルーな気分か。


請け負った以上はきちんとこなすけれど。
何も、凛子一人の肩に全てが掛けられている訳ではない。

本当は、それこそが最も濃いブルー。


「……と云う訳なんだけど。芹沢君、何か良い本ない?」
「えっ、オレに訊きマス?」

クラスでもう一人の放送委員は千紗。
問い掛けに対して、忠臣が戸惑いつつ本から顔を上げた。

同じクラスだと云うのに、まるで初めて口を利いたような反応。
可愛らしい女子から頼りにされているのだ。
もっと嬉しそうにしても良いだろうに。


読書家が集まる図書室での会話だった。
忠臣はいつもその中に。

この問題に於ける相談相手としては間違っていないだろう。
恐らく校内でも有数の活字中毒者。
ジャンルを問わず読み漁り、此処に置いてある本をよく知っている。

本の事でも図書委員だってそこまで詳しいとは限らない。
司書に訊いてみる手もあるが、仕事中を増やしてしまうのは少し申し訳ない。
ほとんど喋った事が無い相手なので尚更。
忠臣に白羽の矢が立ったのは、そう云う訳でもある。


「まぁ、別に暇だから良いデスけど?」

どうも嫌味にも聞こえる物言い。
しかし根が真面目なので、こうした場合は必ず協力してくれる。

顔立ちは悪くないが、三白眼を細めるとますます人相が悪くなる。
席から立ち上がれば凛子よりも身長はまだ低い。
加えて、セットされてないので幼い印象になるベリーショート。
どうも忠臣は"生意気そうな小僧"と云った風貌。

本当は成績が良い努力家なのに。
外見と口調の所為、正しく評価されず損をしている辺り勿体ない。



暫くして数冊積まれて築かれる本の塔。
これだけ広い図書室である、条件に合いそうな物ならそれなりに揃う。
一ヶ月で少しずつページを捲るのに丁度良い小説。
週ごとに違う物語の短編集まで。

試しに一冊取った凛子は何の気なしで開いてみる。
背表紙の内側に、貸し出しのカード。
きっと忠臣の名前も何処かに刻まれているのだろう。

わざわざ欄から探したりなどしない。
それは凛子にとって、ある意味で愚かな行為。


「オレの趣味で選ばせてもらうなら、オススメはコレか……」
「あっ、不滅の牙シリーズでしょ?わたしもそれ好きなの。」

本のタイトルに反応したのは千紗だった。
嬉しそうな軽い挙手に、同志を発見した忠臣は少し驚いた目。
それでも好きな物が共通しているのはやはり頬が緩む。

「マジか、女子で読んでるの珍しいデスね。」
「レムリア文明編だけでも独立してるし、それが一番面白かったと思うの。」
「あぁ、やっとナツキの秘密にもスポット当たりマシタし。」
「そうそう、記憶喪失じゃなくて実は……」

駄目だ、すっかり千紗も忠臣も話し込んでしまった。
片道に逸れて本選びは呆気なく中断。
読んでいない凛子一人を置いて、聞き慣れない単語ばかり並べ立てながら。

いい加減にしておかねば、今日中に決まらないのに。
何の為に忠臣を呼んだのだか。


「ところでさ。」

凛子が修正するまでもなく、忠臣が話の流れを変えた。
ふと思い出したように切って。
少し言い難そうな、それでも明確にならねばすっきりしなさそうな。

「本なんか誰でも読むだろ、何でわざわざオレに相談したんデス?」
「芹沢……、今更それ訊いたりする?」

先程から無言を貫いていた凛子が、とうとう口を開いた。
思わず苛立ちの混ざった溜息まで。


そう、ただ本をよく読んでいると云うだけなら他にも居る。
それだけではなかった。
誰の所為で図書室に通っていると思っているのだか、まったく。
千紗に付き合わされる凛子の身にもなってほしい。

貸し出しのカードに忠臣の名を見つけては、同じ本を借りて。
図書室で見掛ける背中を遠くで追って。

理由なんて言わせないでほしい。

そんな千紗の姿を近くで見ているのだ。
隣に居るのに、意識は他人へ向いてしまっている寂しさ。


いっそ今此処で気持ちを吐いてしまえば良いのに。
頬杖をつきながら凛子が視線を送る。
ああ、しかし、どうやらまだ早いようだ。
先程までのお喋りは何処へやら、千紗は唇を閉ざしてしまう。

伏せ気味の目に、淡く色付いた林檎の頬。
そんな沈黙の答えにも気付けない忠臣が何とも憎らしい。



滞りなければ、朗読はその本に決まりそうだ。
放送室から始まる一ヶ月の冒険。

学校に流れるのが声だけで良かった。
そうでなければ、件の本を凛子はどんな顔で読めば良いのか。
胸に居座るブルーを抱えたままで。



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2016.03.10