林檎に牙を:全5種類
二人きりの世界に思えた部屋も確かに隙はある。
東向きの窓を閉ざしていたカーテンの間、その僅かな数センチ。
暗かった空に朝陽が貫かれた。
差し込んできた光は瞼を震わせ、眠りを妨げる。

ブランケットに包まっていた、少年の身体が二つ。
晒したままの素肌を寄せ合って無防備に。


ふと、重なっていた寝息が一つ止む。

顔を照らす朝陽に負けて、先に目を覚ましたのは梅丸だった。
こうも眩しくては安眠も出来やしない。
真夜中近くまで睦み合っていた疲労が残っているのだ。

今度こそカーテンを閉め切ろうと寝返りを打った。
しかし、ブランケットが捲れる前に阻止される。

ああ、なるべく静かに動いたつもりだったのに。
寝起きも相まって、不機嫌そうな嵐山と目が合ってしまった。
それは「行くな」の意思表示。
体温が拠り所のまだ肌寒い時期、ベッドは朝を嫌う魔窟である。


嵐山の部屋で週末を迎えるのは習慣になりつつあった。
「おはよう」なんて言葉にするとくすぐったい。
そうして代わりに、軽く唇を交わす。

何も焦る事など無い日曜の朝。
早起きも不必要なのだが、何だか目が冴えてきてしまった。


一人だけなら片方の眠りに引き摺られるのに。
カーテンが気になりつつも、窓に背を向けてしばらく無言が続く。
乾いた空気のままぼんやりしているだけ。

ただ時間が過ぎるだけでは何となく勿体ない。
気分を変えてみようと、提案を一つ。


「風呂でも行くべぇか?」

夜の啼き声は抑えても、掠れていた喉で梅丸が問う。
片時でも一人にされるのを嫌がるのだ。
ベッドから出る事になっても、引っ付いているなら構わないだろう。
嵐山も頷いて、ブランケットから脱出。



追い炊きのガイダンスを聞き流して、湯船に爪先が沈む。
遅くに沸かした風呂は、蓋を閉めていたお陰で思いのほか温かかった。
肩まで浸かれる程度には元からぬるめ。

着やすく脱ぎやすいからと、部屋から風呂場までは浴衣。
朝風呂は温泉気分に拍車を掛ける。

寛ぐ梅丸の足を割って嵐山も背を預けてきた。
折角の広い浴槽、本当ならゆっくり脚を伸ばしたいのは山々。
しかし立てた膝は肘掛けにされてしまった。
こうなっては動けず、今は嵐山専用の風呂の椅子。



illustration by ういちろさん

改めて恋人になってから変化は急速。
泊まりに来た頃、嵐山は肌を晒す事すら抵抗していたのに。

力を抜いて身体が丸まれば、背後から嵐山を抱き締める格好。
梅丸の鼻先が茶髪で埋まる。
うなじにキスしたら、珍しく悪態をつかず照れていた。
相変わらず表情は見せてくれなくても。

入浴中は暗い方がリラックス出来るらしい。
ただでさえ北向きの風呂場、夜明け頃は薄明るい程度。
水音が幻想を誘って目を閉じた。

肌に沁み付いた、情欲を混ぜ合わせた匂い。
全身を包む湯に溶けていく。

牙を剥かれ、喰い尽され、そんな激情は夜に置いてきた。
もう少しだけ穏やかでいたい。
このままで何もしない気怠さも今は心地良かった。
またベッドに戻ったら、一作業待っている。




油分や汗を流して清潔にした肌。
軽く台紙を押し付け、水の滴るタオルで濡らしてから約30秒。
水分を拭き取ってよく乾かしたら完成。

「もう良いん?」
「ん、綺麗に出来た。」

座り込んだベッドの上では先程と逆の体勢。
まるで悪戯が成功したような子供の顔、嵐山が後ろから返事した。
そうして鏡で映してみれば、梅丸の左肩には這う蜥蜴。
とは云ってもタトゥーシールだが。


入浴したのは蜥蜴を貼る為でもある。
独占欲の強い嵐山にとって、所有印はキスマークだけじゃ足りない。
最近、梅丸の肌に絵を写す遊びを覚えた。

キスマークもタトゥーも数日は消えない。
服さえ脱がなければ明かされない、秘密の証。

再び横になって、二度寝の支度。
今度こそカーテンが閉め切られた部屋は朝陽なんて知らない。
嵐山の両親が帰るまでには彼一人になってしまうベッド。
おやすみのキスは一匙の切なさ。



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2016.04.02