林檎に牙を:全5種類
何処の学校にも独自の恒例行事などはある。
点々と転校を繰り返してきた進之介はよく知っていた。
そして王林中学校の場合は今日。

生徒達に流されるまま放課後の体育館に行けば、もう準備万端。
カーテンが閉め切られて青空は見えない。

並べられた椅子に着席して行儀良くしているのも僅かな間。
ブザーと消灯が始まりの合図。
音楽が鳴り響き、歓声と拍手で体育館が確かに震えた。

王林中学校の伝統、今年もカラオケ大会が幕を開ける。



「なぁ、これ毎年やってるのか?」
「そうだねぇ、年々すごくなってるらしいよ。」

立て続けに数曲聴いて、思わず呆けてしまった進之介が和磨に問う。
何しろ転校生なので参加は初めてなのだ。

数日前から話だけなら聞いていたが、実際に体感するのは全く違った。

ステージで歌う事自体が勇気の要りそうなものだが。
そこは若さと勢いで突っ走るのみ。
上手い下手はあれども熱意なら伝わってきた。
大音量の音楽にマイクで歌って青春を謳歌しているようだ。


それにしても、単なる喉自慢を想像していたら面食らってしまった。
カラオケ大会の参加者達は皆それぞれ趣向を凝らす。

わざわざ衣装を用意してきたり、振り付けを合わせてきたり。
Jポップをコーラスにアレンジしてきたのは合唱部組。
選曲からして好き勝手なので、次は何が始まるか予想も出来ず。

それにライヴ気分は観客の方も同じく。
躍りや掛け声、悪乗りでペンライトや団扇まで用意してきた生徒達まで。


一体になって盛り上がれれば良いのだが、進之介は周囲に押され気味。
むしろ場に居るだけで生気を吸い取られそうだ。
体育館は熱くなる一方なのに、取り残されて少しだけ孤独感。

「口開いてると間抜け顔に見えるよ、昕守君てば。」

ああ、でも独りきりではなかった。
和磨に顎を軽く叩かれて、思わず顰め面を作る。

「喧しいわ、ちょっと余韻に浸ってただけだっての。」
「そう?昕守君ただでさえぼんやりしてる事多いし。」
「あのなぁ、お前だってそーゆー時くらいあるだろ。」
「僕はいつでも美しいから良いんだよ。」

「はいはい」とナルシストの言葉は受け流して、進之介の耳から抜ける。
和磨に関しては"そう云うもの"だと認識する事にしていた。
他の誰かなら首を傾げてしまうが、彼の場合は外国人の血と外見の所為か。
変わり者だなんて最初から重々に承知しているのだし。


それよりもそろそろ次の順番が巡ってくる。
曲が始まって数秒、気付いた。
何だか聴き覚えがあって心臓も一つ跳ねた。

記憶を揺さぶられて、口先から飛び出たタイトルは。

「あれ、これってサイレンジャー?」
「昕守君も観てたんだね。そうだよ、イノ君とりょん君が歌うってさ。」

救命戦隊サイレンジャーはレスキュー隊がモチーフの特撮ヒーロー。
彼らが幼稚園児だった頃に放送されていたので随分と昔。

「昕守君も」と云う辺り、和磨も同志か。
日曜の朝、同年代は男子も女子もテレビの前に集まっていた。
ヒーロー達へ真剣に声援を送っていた時代。

そんな事を思い出していたら、懐かしい呼び声。

「救命戦隊、サイレンジャー!」

番組通り、OP前のタイトルコールまで。
舞台袖から飛び出すオレンジ色。
ジャケットを羽織った生徒達がマイクに声を揃えた。


ステージに立つ歌い手は劇中のヒーロー達を真似た恰好。
ジャケットだけでなく髪型や眼鏡まで。

壇上で動き回っていても、中学生にしては大柄な一ノ助は判りやすかった。
一人だけ少し違うデザインで追加戦士のシルバー役らしい。
地声からして大きいのでマイクを通すと一際目立つ。
特撮の主題歌が彼に合っている事もあるのだろう、意外と上手い。

それより、どうも気になる事が一つ。


「……なぁ、なんかピンクでかくね?」

進之介が指差すと、目の錯覚ではないと和磨も頷いた。

確かに、シルバーとグリーンが長身なのでそちらに気を取られがち。
レッドが一番小さい所為でバランスなんてがたがた。
遊びなのでこだわる必要も無いのだが。

けれど、それにしたってピンクは妙に存在感がある。
ポニーテールの尻尾を躍らせて、凛とした姿勢。
劇中の本人は可愛らしいイメージだっただけに少し驚いてしまった。
似てはいないが、此れは此れで格好良いような。


「イノ君がメインボーカルっぽくなっちゃってるから掻き消えてるけど……
 多分ね、あれって全員男子なんじゃないかな。」

声は男女の差が浮き彫りになりやすい。
一ノ助の歌ばかり耳に響くが、和磨にそう言われたら納得した。

ああ、そうだとしたら遼二はイエローか。
眼鏡はそのままでも、長い髪にスカートなので一見誰かと思った。
クールな印象だったので女装とは本当に意外である。

なるほど、通りで観客の三年生が囃し立てている訳か。
別にからかっているだけでもなさそうだが。
顔見知りが派手な仮装でステージに立っているのだ。
笑ってしまうのも無理はない。


何はともあれ、歌うヒーロー達は楽しそうだった。
ふとブルーが笑顔を見せれば女子なんて黄色い声すら上げる。

身振り手振り、声を張って音楽に乗る。
点数などを競っている訳でもないので優劣など無し。
盛り上げて、笑って、楽しんだ者勝ち。


「来年さ、昕守君も何か一緒に歌おうよ。」

歌声が休む間奏の合間、和磨が呟いた。
何でもないような軽さで。

相槌すら打たずに進之介は唇を閉ざした。


恥ずかしいとか歌が苦手とか渋った訳ではない。
その場限りの言葉かもしれずとも、約束なんて出来やしなかった。

次はいつ転校するか分からない身。
来年の今頃、此処に居る保証は何処にも無いのだ。
近くて遠い一年後。
そう意識したら、進之介の声は一瞬で凍り付いて。


ステージは最後の山場を迎えて、ますます体育館は高まる。

ほんの数分で情熱と懐かしさを呼び覚ましてくれた。
しかし楽しい時間はすぐ終わってしまう。
テレビの中のヒーロー達だって、いつも春が来る前に交代。

夢中の時はあんなにも胸を躍らせたのに。
舌に残る味は、いつだって切ない。


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2016.04.12