林檎に牙を:全5種類
ショッピングモールのメインストリートはいつも忙しない。
肩を寄せ合う店舗は、何処も途切れない客を迎え入れる。
中でも一際華やかな空間。
レースとフリルの花が咲き誇るのは、ランジェリーショップ。

そこに墨を落としたように、漆黒が一つ二つ。
花園めいた色彩豊かな空間だけに真っ黒なセーラー服は異質。
まだあどけない表情で恐る恐る足を踏み入れる。

「何て言うか、こう、ハイカラだねぃ!」
「そうね、お洒落って意味なら合ってるのかしら……」

ショートボブの少女が笑えば長い黒髪の少女は首を傾げる。
そんな訪問者の名は、都来と鈴華と云った。


鈴華の部活が無い日は探偵部としてミステリーやサスペンスの映画鑑賞。
しかし今日は「付き合ってほしい」と都来を誘ってみた。
それなりに楽しくも平和な学校を後にして、制服のまま寄り道は刺激的。
セーラー服も悪くないが、やはり好きな色を身に着けたい。

そこで母から臨時収入を貰い、初めて此処に足を踏み入れた。
ブラが必要になってきた身体。
選びに行くのも友達と一緒の方が良いだろうと。

中学生は二次成長期。
否応なしに変化していき、子供のままではいられない。
早く成長したいと思うも切なさを感じるも、人それぞれ悲喜こもごも。
大人になっていく事を痛感せざるを得なかった。


肌を直接包む物なので正しいサイズでないと困る。
店員に計ってもらってから、改めて自分に合う物を探し始めた。

「いっぱいあるよね~。鈴華ちゃんどーゆーのが好き?」
「花がモチーフのデザイン多いけど椿は無いみたいね、残念ながら。」

背が低く華奢な鈴華は発育が遅め。
小さめの方がデザインは多いので選択肢は広く、却って迷う。
ただでさえランジェリーショップは見上げる位置まで下着だらけなのに。

好みで選ぶならどちらかと云えば寒色系。
制服が黒でも、体操服になると透けてしまう恐れがある。
あまり濃い色は控えた方が良さそうだ。
それに折角初めて身に着ける物、派手すぎるのは遠慮したい。

人形にも近い可愛らしさを持つ鈴華は純白が似合う。
自覚はあっても今回は避ける事にした。
中身が清楚でもないのに、何となくわざとらしい気がして。

勝負下着とは黒よりピンクや白などの方が喜ばれるらしい。
清らかに見えるものはそう装われているから。
こう云う事である。
上辺だけの物なんて鈴華には要らないのだ。


「……あっ。」

ふと、あちこち見て回っていた鈴華が手を止めた。

極淡いミントブルーの生地に繊細なレース模様。
リボンの編み上げに、肩紐と谷間に小さな蝶々結びが一つずつ。
幼過ぎず、涼やかで微かな甘さのデザイン。

此れは好きかもしれない。

「うん、それ良さげ!」
「ええ、それじゃ……試着してみようかしら。」

横から都来も賛同して、背中を押される形。
注意深く手に抱えるとカーテンの奥へ。


試着室の正面、現れた大きな鏡と目が合った。
等身大を写されながら着替えるのは、何となく誰かに見られている気分。
此処にある視線は自分だけなのに。
背中を向けながら、黒いセーラー服が足元に落ちる。

初心者でも易しく、正しい着用方法の張り紙がご丁寧に。
乳房は脂肪の塊。
柔らかいので巧く布に押し込めば、綺麗に形作られる。

張り紙に倣って前屈みに宛てたブラ。
慣れないホックを何とか留めて、鈴華は上体を起こした。


「都来さん、宜しいかしら?」

きっと売り場から見れば、ホラー映画の1シーンじみているだろう。
試着室に掛かるカーテンの隙から招く少女の手。

それでも恐怖は巻き起こったりしない。
都来が吹き出した気配、不気味さも一緒に飛んでしまった。
そうして誘われた通りに快活な少女は近付く。


ランジェリーショップの試着室はカーテンが二重。
一枚捲ると店員が待機するスペースがあり、その奥にもう一枚と着替える場。
お陰で売り場から丸見えにならないで済む。
故に、下着姿の鈴華も安心して訪問者を受け入れられた。

控えめな白い乳房を包むミントブルー。
よく磨かれた鏡に背いて、鈴華は都来に曝け出した。
一歩だけ大人になって。

「どうかしらね。」
「鈴華ちゃん、綺麗!」

下着姿を前にしても、色気なんて湿度は要らず。
親指を立てて笑う都来はあまりに陽気。
釣られて鈴華も唇を綻ばせて、自分の為の一枚を決めた。


こうして、初めての下着選びは無事に終わりそうだ。
帰る前に何かおやつでも食べようか。

ああ、それよりも気になる事が一つ。

「ところで、都来さんは買わなくて良いのかしら?」
「あぁー、もう少ししたら連行するってお母さんに宣言されてるよ。」
「連行とか宣言って……」
「あったし運動するからスポーツタイプの方が良いんだけどねぃ。」

鈴華の時とは一転、残念そうに肩を落とす。
友達と自分のでは違うのだ。

ブラは高いので持ち合わせの問題もあるが、それだけでない。
好奇心旺盛で物怖じしない、加えて発育が良い方。
そんな都来だったが、大人になる事に対しては少し臆病だった。

大人びている鈴華にも、その気持ちは解かる。
子供で居られる時間はタイムリミットが迫っている事を知っている。


いつか来る、制服を脱ぎ捨てる時。
男の前で肌を晒して。
下着だって自分の為の物でなくなるのだと。



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2016.04.20