林檎に牙を:全5種類
劇中の小田切渉君はりんごあめからお借りしてます。

夏が近付くにつれて日が伸びた空は染まり始めもゆっくりと。
藍色が一刻ずつ濃くなっていく頃、夕飯時のファミレスは席が埋まる。
大通り沿いなので客入りは上々。
一家の団欒から教科書を広げて勉強している学生まで。

中には、オレンジ色のジャケットを纏った集団も。

「それでは皆さんご唱和下さい……ってあんまり声大きいとマズいかな。」
「そうだな、簡単で良いんじゃね?」
「周りに迷惑かけると、すぐ「最近の学生は!」って言われマスし。」
「大河、地声大きいんだから気を付けて下さいね。」
「信用ねェのなァ、俺。」


さて、声を揃えて抑えて。

「乾杯!」

5つのグラスがぶつかって、揺れる水面。
ようやく一仕事終えた彼らの表情は晴れ晴れと。
カラオケ大会から興奮冷めやらず、着替えもせずに駆け込んで来た。
打ち上げパーティの始まり始まり。


「個室の方が自由に出来るし、またカラオケでも良かったかな?」
「俺はファミレスで嬉しいかな、ここの卵サンド美味いし。」
「小田切、そんなに好きならオレの分もあげマスけど。」

青葉が首を傾げれば、渉がサンドイッチに手を伸ばす。
好物だそうで頬張る表情が緩んでいる。
それならと、忠臣が自分のミックスサンドから卵を差し出した。

テーブルにはそれぞれ温かい料理が並ぶ。
各自で注文した皿の他にも、分けられるピザやポテトも。
むしろデザートがメインの青葉と遼二は最後のページを真剣に見つめる。
追加注文は白玉の和風パフェとホットケーキで決定。

ファミレスで賛成なのは一ノ助も同じく。
前に訪れたカラオケボックスではメニューが少なかったのだ。
どうせなら食べるなら美味い物の方が良い。

中学生は食べ盛り、体格が良ければ尚更。
そうして一ノ助もグリルのステーキに歯を立てた。


彼らがステージの主役だったのは数時間前。
昔のヒーローになりきって、合わせた歌声を張り上げて。
今年のカラオケ大会は自分達も含め、なかなかレベルが高かった。
もしコンテストだったら優勝できたのではないかと思うほど。

後半、軽音楽部の盛り上がりを目にするまでは。

歌の伸び具合は勿論、演奏も生の方が大迫力。
特に凛子のチームなんてまるで人気アーティストのライヴ状態。
元からファンが居るだけ、女子の声援が凄まじい。

一ノ助もドラムは叩けるので披露できなかったのは少し悔しくなる。
あの場で演奏できたらどんなに気持ち良いか。


しかし流石に負けたと思うのが、ラストを飾る一組。

「先生達が最後歌うとか聞いてねェし、オイシイとこ持ってってズリィよなァ。」
「僕は「TOMORROW」を歌わされる黒巣先生が気の毒でしたよ……」

ソロパートまで用意されていた辺り、お疲れ様と言わざるを得ない。
眉間に深い皺を刻んだ黒巣や叶、笑顔を絶やさぬ軽海。
人気者も怖い先生も、教職員達が一堂にマイクを握る姿は強烈だった。
一体誰の選曲だったのやら。

ずっと出場を待ち望んだ祭典だ、三年生は目一杯に楽しんだ後。
何はともあれ拍手と歓声で無事に幕を閉じた。


そんなこんなで一仕事を終えた戦士達。
基本のレッド、ブルー、イエローに加えてグリーンとシルバー。
実のところ人数が足りない。

「梅丸も来りゃ良かったのになァ、飯より大事なモンなんかあるん?」

不在のピンクに思わず愚痴が一つ。
折角やり遂げたのに、全員居ないのが少しばかり寂しい気がして。


出番が終わって、拍手を浴びながら引っ込んだ舞台裏。
後半は客席に移動して観賞しようと話していた時、梅丸は背を向けた。
一人だけしっかり着替えて帰り支度。
「打ち上げには行けない」と言い残して早々に消えたのである。

そう云えば練習にも欠席が多かった。
クールな梅丸はミステリアスと云うか、行動が謎。

「行かなきゃいけない事情なんか幾らでもあるだろ、自分の意志とか関係無しでも。」
「そうそう、梅さんは放っておいてもこのくらいで気まずくなんないって。」

アイスコーヒーを啜る渉は声のトーンまで苦く、何処か意味深。
青葉も続けてフォローを入れる。
その「事情」とやらを知っているのかいないのか。
もしくは、自分も身に覚えがあるのか。


鈍感な一ノ助はそうした裏など読み取れない。
けれど、このまま次の話題に移るのは頭の中で待ったが掛かった。

足元に置いていたスポーツバッグの中。
その存在を思い出したのだ。
ジッパーを開くと、感触を頼りに探り当てて掴み取る。

「仕方ねェかァ、じゃあコイツだけでも参加してもらおうぜ。」

それなら気分だけでも。
遅れて登場、一ノ助がゲストをテーブルに置く。


その瞬間、テーブルで爆発が起こった。

一ノ助以外の皆一斉、口許を押さえて俯く。
肩を震わせたり、中には激しく咳込んでしまったり軽いパニック状態。
何にせよ症状は呼吸困難で一致。


「大河……っ、な、何で持って来てんですかヅラなんか……!」

まだ瀕死ながら、代表して物申したのは遼二。
それだけ吐くと再び肩を丸めてしまった。

そう、一ノ助が連れて来たのは梅丸のウィッグ。


女装が終われば、もう用済みとばかりに持ち主が置いて行った物。
スポーツバッグに押し込んでいた所為で少し乱れ気味。
ポニーテールが結ばれたままなので、尻尾の大きな動物に見える。
生き物だと錯覚すると更なる笑いを誘ってきた。

空気を読まない一ノ助は意に介さず手で遊ぶ。
別に皆を笑わせるつもりなどあらず、全くの自然体。

「おォ、りょんも触ってみるか?思ってたよりモフモフしてんだぜコレ。」
「いや、結構ですって……」
「持ってきた時は生あったかったんだけどなァ、もう冷たくなってる。」
「ちょ、死んだみたいに言わないで下さいよ……!」

掛け合いが加わった事で、まるで漫才。
今度こそ窒息死しそうになる。

至急、誰か酸素をくれやしないだろうか。



「……そもそも僕だって既にヅラ被ってるんだから、触る必要ありませんって。」

冷たい飲み物を一口。
やっと落ち着いたところで遼二が反論した。

残った三人はまだ駄目だ。
笑いの渦から抜けて来たものの、片足を突っ込んでいる。
一ノ助と遼二の会話を大人しく聞く形。


「そうだったなァ、りょん脱がねェの?」
「嫌ですよ、髪なかったらスカート穿いた男になるじゃないですか。」

ステージ衣装のままなのは皆同じ。
オレンジのジャケットは派手気味だが、中でも遼二はそれだけでない。
何しろ梅丸と同じく女装しているのだから。

同い年でも発育の違いは面白いものである。
何処から見ても立派な男の一ノ助に対し、遼二は平均以下の身長で細い。
ロングヘアのウィッグにスカートで少女に変わった。
喉仏や手の骨張りも、よく見なければ判らない。

きっと抱き締めたら腕に収まってしまうだろう。
あの長い髪で鼻先が埋もれて。


「今のりょんだったら付き合えそうなんだけどなァ、可愛い。」
「……僕が嫌ですって。」

一ノ助なりに精一杯の誉め言葉、返事は何とも素っ気なく。
刹那に遼二が憎々しげな視線を投げる。
決して嫌悪ではなかった。

デリカシーなんて知らず、考えなしの無神経。
だからこそ幸せなままでいられる。

そこに絡む、遼二の複雑な理由なんて彼には伝わらない。


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2016.04.27