林檎に牙を:全5種類
*性描写(♂×♂)

見下ろした体育館からは音楽と歓声。
つい先程まであの場に居たのに、今やあまりに遠くて別世界だった。
こんな埃っぽい旧校舎には足音すらも滅多に無いのだ。

あまり近付きすぎると誰かに見られるかもしれない。
ほとんどの生徒が体育館に集まっていても、人目に関してはつい慎重になる。
日焼けで傷んだカーテンに身を隠していた嵐山は静かに窓から離れた。
今から此処で行われる事は秘密。

「聞いてない。」
「あぁ、ユウに言ってねぇし。」

主語が抜けていても何の事だか理解はしているようだ。
ほんの数曲前まで中心で歌っていた梅丸は、睨まれても平然と。

ああ、まったく腹立たしい。


友人達とカラオケ大会の出場自体も事後申告だった。
嵐山の許可が要る訳でもないし、駄目と言う権利も本来は無い。

しかし日毎に苛立ちは募る。
必然的に彼らとばかり喋る機会が増えるのだ。
教室でも席が近いので嫌でも聞こえては、嫉妬くらい当然。

放課後だけは嵐山に付き合って埋め合わせしていたが。
その分、手荒な情交の日々が続いて迎えた本番。

蓋を開ければ、思わず眉間に皺が寄ってしまう事態。
確かに、ステージ衣装を用意してくるチームも多かった。
それでも女装まで披露するなんて聞いてない。

全校生徒の前でスカートを穿いていた事など如何でも良い。
問題はそこじゃなかった。

秘密を作られていた事実が悔しい。
あいつらだけで楽しんで、知らせてくれなかった。
梅丸は自分のものなのに。


そうして、ステージを降りたところを捕まえて引っ張ってきた。
打ち上げでファミレスに行く話も出ていたらしいが、誰が逃がすものか。

今の梅丸は見慣れた赤毛に制服姿。
実のところ、着替えを済ませていた事には安心していた。
女装のままで抱くのはあまりにも倒錯的で。


身長差はあるし、力も梅丸の方が強い。
しかしながら無抵抗だったら嵐山の方が主導権を握れる。
喰い尽してしまいたい衝動。
こうした関係を築いてから、ずっと牙を立ててきた。

「気が済むまで好きにすりゃ良いがね。」
「……言われなくても。」

古びた壁に梅丸を押し付けて、白いシャツを左右に開いた。
華奢な嵐山と違って筋肉で引き締まった身体。
着替えを済ませても、ステージで滲んだ汗が薄く匂い立つ。

その肌に残っている昨日までの痕。
刻んだ時は血の色でも、もう時間と共に褪せつつあった。

あちらから伸ばされた大きな手に、茶髪をゆっくりと撫で上げられた。
恐れもせず、むしろ嵐山を引き寄せようと。
怒っている事なら充分に伝わっている。
これから何をされようと、少なくとも受け入れる覚悟はあるらしい。

さて、それなら何処まで応えてくれるのやら。
今日ばかりはもう容赦するつもり無し。



illustration by ういちろさん

嵐山が唇を舐めたのは無意識だった。
溢れた唾液を隠す為。
筋の浮き立つ首に狙いを定めて、一息に噛み付く。

吸血鬼なんて耽美な空気ではあらず、小さくても猛獣。
痛みを味わえば良い。


「い……ッ……!」

切っ先が食い込む瞬間、流石に梅丸も奥歯を噛んだ。
頑丈な肩と違って肌が薄く急所になる場所。
このまま噛み千切りそうな危うさ。
後頭部に置かれた手にも、強張った気配を感じた。

それでも離そうとはしない。
互いに鋭さを保ったままの目で、視線が交わる。


やがて、糸を引いて牙は抜かれる。
別に仕留めるつもりなんて嵐山には最初から無いのだ。
噛み痕を焼き付けたかっただけ。

時間にすればほんの数秒だった。
長く苦く、薄甘い。
だからこそ中毒になってしまう。
舌が蕩けそうな味では満たされないのだ、今更。

内出血で鮮やかな紅の歯型。
傷跡の生々しさに、思わず唇を歪めた。


荒く息を吐いて、相手に脚を擦り合わせた。
見下ろすまでもない。
窮屈な制服の布越し、生硬くなっていく熱の塊。

痛みでしか反応出来なくなりつつある証。

引き摺り下ろすように、揃って座り込んだ。
立ったままでは繋がれやしない。

ステージでヒーローだった梅丸は何処にも居ない。
自分より非力な男に組み敷かれて呻く姿。
暴いて、甚振って、密室で溺れていたかった。



「ところでユウは待っててくれたんね、俺の番。」
「……うるさいな。」

カラオケ大会なんて実に下らない。
他人の歌に興味も無いし、そもそも嵐山自身も歌が苦手。
一昨年も去年も真っ直ぐ帰ったのに、今年だけは足が止まった。

気になってしまった理由なんて言わせないで欲しい。

余裕ぶるつもりなら、凶暴な唇は黙っていない。
噛み付く場所なんてまだ沢山あるのだ。


祭典が幕を閉じようと、明日も賑やかな日々が始まる。
きっとメンバー達は打ち上げを欠席した梅丸に問い質すのだろう。
首筋を隠す真新しいガーゼの件についても。

ヒーローにとって傷は勲章。
それならば、あの独占欲も誇りの端くれ。


*end


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2016.05.02