林檎に牙を:全5種類
小学校でクラブ活動が始まるのは4年生から。
毎週1時間程度、それぞれ楽しく遊ぶ気楽なものである。

元から好きな事に没頭するも良し、何かに挑戦してみるのも良し。
少しでも身体を鍛えたくて一念発起。
当時、体育がそこまで嫌いでなかった嵐山はサッカーを選んだ。

すぐに後悔する結果となってしまったが。

運動系のクラブを選ぶような男子は体力が凄まじく、足も速い。
ボールに追いつけなくなっては何も出来ず。
それと内向的な嵐山にとって、チームメイト達と馴れ合うのは苦手。
特に仲の良い子も居なかったし。

嫌と云う程知って翌年からは別のクラブに逃げてしまった。
今でもサッカーに打ち込む子供達を見ると、苦々しい思い出で顰め面になる。


ああ、此処ではそんな心配は無さそうだ。

安堵した嵐山は広場を見渡した。
太陽は燦々と、青空が気持ち良く乾いた休日の朝。
子供がはしゃぐような公園でなく、人々は見事な花壇に心を奪われている。
明るい雰囲気のパンジーにビオラ、愛らしいデイジー、慎み深い椿。

そして、どんな場でも風格を放つ花の女王。
幾重にも重なった花弁を開いた薔薇も。


「あー……寒いわ重いわで嫌になるね、まったく。」
「もうちっとんべぇで着くから、頑張んなねユウ。」
「大丈夫だよ。会場は暖かいし、美味しいパンとかお弁当の店も出てるから。」

寒いと不機嫌になる嵐山は呟きばかり零して、愚痴が白く染まる。
ダッフルコートの襟がマフラーで埋もれていた。
左右に梅丸と和磨を従えて、何とか凍える足を前に進ませる最中。

大きめのバッグにキャリーケース。
三人とも荷物を抱えて、目指すは広場の奥へ。


時は1月半ばの日曜日。
毎週開催されている、姫ふじ公園フリーマーケットの日である。
各家庭の不用品を持ち寄って安売り市。

元々、此処の公園はイベントが多かった。
過ごしやすい季節なら花見を楽しみつつ広場で行われるが、今は厳しい。
陽射しの強い夏に、北風が吹き荒れる冬。
そうした時期には多目的ホールに会場が移され、集客数は年間でも一定。


和磨は常連でも嵐山と梅丸は初めて。
受験が終わると気が抜けて、暇を持て余して仕方ない。
そんな時にでも誘われなければ縁も無かった。

「行きたい」と梅丸が返事したものだから、何だかんだで参加決定。
嵐山の方も別に興味が無かった訳でもあらず。


梅丸と改めて恋人になったのは先日の事である。
本来ならば二人きりをもっと愉しむところなのだろう。
和磨が加わったらどうしたら良いのか。
けれどフリーマーケット初心者にとっては、一緒だと有難いような。

そんな複雑な気持ちを抱えつつ、和磨なら良いかとも思う。
もう夏休みの夜に見られているのだ。
梅丸との事を気にするのも、もう今更面倒だった。


「けど誘う奴くらい他に居ただろ、巽。何で僕?」
「昕守君は転校生だから売るほど余計な物なんて持ってないし。
 それにさ、嵐山先輩そろそろ作品いっぱいになった頃じゃないかなと。」

そこは合っている、当てられると何だか悔しいが。

嵐山は羊毛フェルトや手縫いの小物、和磨はアクセサリー。
彼らの場合、売り物の大半はハンドメイド作品である。

手芸が趣味だと作る過程が楽しいのだ。
自分で欲しいからとは限らず、一人で使うなら幾つも要らない。
完成した後は溜まっていく一方。
それなら、欲しがっている相手に譲った方が良い。


5年生になってから嵐山はクラブ活動を家庭科に替えた。
確かに女子が多いものの、細かい作業が好きな男子もちらほら。
今時、料理好きだって性別は関係なくなった事だし。

そうして、和磨と縁が出来たのはクラブが切っ掛けだった。
お互い大型スーパーを挟んで町内に住んでいるのだ。
前からよく近所で見掛けていた。
何となく喋るようになって、時々は一緒に帰る事もあり、今に至る。

昔はもっと小さかったのに、嵐山どころか梅丸よりも背が伸びた。
いつの間にかこんなにも差が出来て腹立たしい。


「何かこう、でかいのに挟まれて歩いてるのって気分悪いな。」
「じゃ、一直線になる?アヒルの行進みたいになるけど。」

違う、そう云う問題ではない。
嫌味が効かなくて何だか脱力してしまった。

深くなくとも和磨と数年交流を持てば、嵐山も流石に理解した。
柔らかい相手には棘が刺さらないと。
そう認めたら、睨むだけ無駄なのだと半ば諦める。


「……笑うなよ、梅丸。」

空気が緩んだ音を耳で掴まえて、嵐山はバッグを横に振り被る。
軽くでも鈍い一撃を受けて梅丸の腰が傾いだ。
八つ当たりは自覚の上、しかし堪えてないので忌々しい。

基本的に無表情なので涼しい顔立ちは崩れない。
喜怒哀楽なんて、それこそ嵐山でもなければ判らない程度。

妬いてくれたって良いのに。

自分が嫉妬深い方なので、つい同じものを求めてしまう事がある。
そうだったら困るのが現実なのに。
むしろ梅丸は楽しんでいる節すらあった。
誰か入って三人で過ごすのは初めての日、どうなるやら。


辿り着いたホールは未完成ながらも既に市場。
フリーマーケット、もうすぐ開店。


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2016.06.01