林檎に牙を:全5種類
多目的ホールは何だか体育館に似たような造りをしていた。
見渡す限りの硬い床、遥か先にステージ会場。
ただし中学校のものより倍以上はある。
各々がビニールシートを広げていると、まるでピクニック。

もし野外だったらそんな長閑な事を言っている場合でなかった。
暖房のお陰で過ごしやすく、上着を脱ぐ者もちらほらと。

嵐山もマフラーを解くと、バッグを開け始める。
会場にレンタル料を払ったので彼らの店はテーブルの上である。
一日中座っているのなら小銭なんて惜しまず楽をした方が良さそうだ。
和磨と梅丸に挟まれて、3列のスペース。


フリーマーケット初心者に向けて、和磨からアドバイスが幾つか。

手に取って貰うには、客に商品を一目惚れさせる事。
それにはレイアウトが重要らしい。
ごちゃごちゃ無造作に並べるだけでは見難くて堪らないと。

ただでさえ嵐山の小物類は散らかりやすい。
テーブルには可愛い柄の敷布、羊毛フェルトの動物はバスケットに。
これでは女性向けの雑貨屋ではないか。
やってもらっておいて何だが、一日店主になるのは少し恥ずかしい。

「先輩、お客さんは睨んじゃ駄目だからね。」

思わず顰め面になっても和磨には一言で済まされる。
クッションに八つ当たりすれば、ふかふかに拳が沈むだけ。


最初の値段は少しなら高めでも良い。
元からハンドメイド作品とは安物ではないのだ。
値引き交渉もあるので、最低ラインを決めておけば損は無い。

そう喋りながらも、和磨は自分のスペースで手一杯。
和磨は随分と売り物が多い。

二つもバッグを持っていた辺り、並べるだけで大仕事だった。
ハンドメイドのアクセサリーもあれば、日用品まで。
テーブルだけでは足りずにシートも使って開店準備の真っ最中。
手馴れているようで着々と進んではいるものの。


「どんだけ要らない物溜め込んでたんだよ、お前の部屋……?」
「僕の物だけじゃないし、これでも減った方なんだよ。」

それもそうか、家族の分も一緒に持ってきたらしい。
よく見れば真新しい女物の服などもある。
ユニセックスなデザインは流石に見分けがつかないものの。


ふと、その一つが嵐山の目を引いた。

ミントとチョコレート色が交差するチェック柄のエプロン。
小さくウサギの刺繍もあって可愛らしい。
此れもまた新しいようで、皺や染みなどは見当たらない。

安ければ買っても良いかもしれない。
フリーマーケットが始まる前に物欲が芽生えた。

けれど、そのまま使うつもりではない。
家で簡単な料理をするので、嵐山もエプロンなら間に合っている。
裁断し直して何かにリメイクしてみたい。
布を見て創作意欲が湧くなんて、よくある事である。


嵐山は口を開きかけたが、思い直して閉じてしまった。
女物だったら何となく気まずい。
自分で着るのではないし、裁縫の材料だと説明すれば良いのに。

躊躇ったら命取り。
先に声を掛けたのは、梅丸の方だった。

「あのさ、先に買っても良いんかい?妹の土産にするんさ。」
「うん、好きなのどうぞ。」

そうして和磨から林檎模様のワンピースを買い取った。
嵐山が気付いた時にはもう遅い、件のエプロンも。

目を付けていたなんてお互い様か。
妙なところで気が合ったが、此の場合は喜べない。
早い者勝ちなので文句も言えず。

ああ、そう云えば前に双子だとか言っていた気がする。

それで中学校の違うクラスに妹が居ると。
嵐山は面識が無いし、そもそも女子に興味が無いので忘れていた。


「ユウの方からも買って良いん?」
「……安くしないからな。」

一応、梅丸も客なのだが不愛想になってしまうのは仕方ない。
いつもの事なのであちらも大して気にせず。
羊毛フェルトのマスコットから、リスを一つ選ぶ。

カフェオレ色の身体に二本の縦縞模様、くるくる巻かれた尻尾。
丸々して絵本に登場しそうな愛らしさ。
赤いマフラーが首に巻かれ、雪うさぎを抱いた冬仕様。
無骨な梅丸の手に収まると何だか笑える。


「俺の分も欲しかったけど、ハリネズミは無いんね。」

彼がハリネズミを欲しがった理由は一つしかない。
今頃ガラスケースの城で眠っている嵐山家のペット、とげまるの影響。
泊まりに来るたび遊んでいるのですっかり虜か。
とげまるの方も懐いているようだった、飼い主を差し置いて。

ハリネズミが無いのは売り物にしたくなかったから。
金銭と引き換えでも他者に渡すなんて嫌だった。


「……手持ちの作品減らすのが先だろ、材料費欲しいし。売れたら作るよ。」

そんな言い訳をして口を噤んだ。
此処から先、つい余計な事を喋ってしまいそうで。

本当は、作りかけが家にあるのだ。
心を込めて一針ずつ丁寧に。
もうすぐ来る梅丸の誕生日に贈る為。

基本的に淡々としている梅丸が、心なしか残念そうな様子。
黙っていてもお望みの物が手に入るとは知らず。
きっと嵐山しか判らなかったろう。
誕生日まで秘密を抱えているのは、とても楽しい。


雑談はそこまで、定時となってフリーマーケット開始。
こうして誰もが商売人の顔に変わった。


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*おまけ



make by ビヰドロ*ドロップス(お絵描き狐さん)

今回の話で登場した羊毛フェルトのリスさんは、こちらがモデルです。
お友達のお絵描き狐さんから貰い受けた子。
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2016.06.09