林檎に牙を:全5種類
色素の薄い髪色の男子が3人も並ぶとなかなか目立つ。
端から順番に金、茶、赤。
ただでさえ入り口近くで人通りが多いのだ。
視線を浴びつつ、愛想笑いも出来ない嵐山は居心地が悪い。

場慣れしている和磨は客と軽く談笑しながら幾つか売れたところ。
こう云う時、柔らかい印象の奴は得だと思う。

商品を手に取られても戻される事が二度三度。
まだ開場してから30分程度なのだ。
始まったばかりで焦る事は無いにしろ、目付きが鋭い二人は暇。


最初の儲けはリスの代金、此れだけでは終わりたくない。
嵐山は梅丸のスペースを盗み見た。
ハンドメイドをしないので、本や服など他愛ない品ばかり並ぶ。
何か作るにしても料理の方だろうし。

「ユウ、俺の方で何か欲しい物あったらやるべぇけど。」
「……いい、要らない。」

梅丸が不在でどうしようもなく寂しくなってしまう時がある。
あの中の何かが嵐山の手元にあったら癒えるだろうか。
欲しくなったが、やはり堪えた。

あれらは梅丸にとって必要なくなった物だ。

残骸にまで執着するのは惨めになる。
肌に噛み付く事はあっても、そこまで飢えてはないのだと。
梅丸当人が自分の物だと実感があるなら。


「接客の時は笑わなくても大丈夫だから、聞き取りやすい声でゆっくりの方が良いよ。」

一言交わしただけだったが、横から和磨が口を挟む。
聞き流して構わないのに。

「僕が接客苦手なの分かるだろ、お前とは違う。」
「僕はお金払ってくれる人になら幾らでも愛想振りまけるってだけだよ。」
「それ客の前では言うなよ……」
「いやー、そりゃ流石にね。」


笑って誤魔化してから、和磨は席を立った。
常連だと自然に仲間が出来るもの。
挨拶回りをして来ようと、差し入れを提げて。

「ついでに会場回って来るから店番は適当に宜しくね。」

見送る嵐山は「勝手にどうぞ」と手を払う。
人が行き交う通路、金髪はすぐに紛れて見えなくなった。

むしろ店を頼みたいのは此方だが。
売り子がベテランなら客だって増えたかもしれないと。
嵐山なんて昔馴染みの和磨にすら愛想良く出来やしないのに。
初心者二人だけ取り残されて、どうしたものか。



「すみません、手に取って見ても良いですか?」

梅丸のスペースから本を借りて適当に読んでいたら、ふと一声。
顔を上げると嵐山の前に来客。

「……どうぞ。」

そんな動揺も、ほんの一瞬だけで治めた。
小さく咳払いしてからの返事は、忠告通り柔らかく。
低音なのは仕方ないとしても。


男の子でもこうした物を欲しがるかと思ったが、来客はどうやら女の子。
一見しただけでは間違えたのも無理なかった。
短めの髪にニット帽、スタジャンでボーイッシュな格好。
年頃は嵐山達と同じくらいか、少し下。

テーブルを挟んだ距離、一つずつ作品を手に取りながら悩む客。
無言が嵐山には重苦しかった。
こんなにも会場は活気溢れて騒がしいのに。

「全部可愛いから迷うなぁ、お姉さんご自分で作ったんですか?」
「あ、うん……そうだけど……」

「お姉さん」の呼び声が少しばかり胸に痛む。
コンプレックスに浅い刺し傷。

性別が間違われやすいのはお互い様だったか。
ただでさえ嵐山は顔も声も中性的。
その上、可愛い雑貨屋のような店を広げていては当然か。


それにしても、もしかしたら買ってくれるかもしれない。
どうせまた見るだけで帰るかと思いきや。

こう云う時、和磨は何を話していたのか思い出せない。
売り込みには話術が必要。
いや、押し売りのようで却って引いてしまうだろうか。
立ち去られた時の気まずさ

言葉で打ち負かすなら得意でも、フレンドリーな台詞なんて無理。
そうして嵐山が密かに困っていると。


「そっち買うんなら、おまけでも飴つけらいね。」

親しみやすい空気を作って、もう一押ししたのは梅丸だった。
迷っていたところに決め手。

こうして犬の羊毛フェルトが彼女の手に渡った。
垂れ耳で、白い身体に黒い斑模様が可愛らしいダルメシアン。
家族など身近な人に作品を贈る事はあっても、見知らぬ相手には初めて。
それも金銭で対価を貰うなんて。

初めてのお客様。



「あ……、えっと、ありがとうございました……」

梅丸からも本を買って、飴を頬張る客は去って行った。
まだ硬くとも嵐山と梅丸が会釈で見送る。
代金だけでなく、緊張と嬉しさが混ざった妙な高揚感を置いて。


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2016.06.15