林檎に牙を:全5種類
会場を少し回ってきた嵐山は、やっと自分へ椅子に戻った。
早速、午前の売り上げで昼食を買い込んで。
いい加減に空腹で時計を見てみれば、もう午後近く。
客が途切れるタイミングを狙っていたら遅くなってしまった。


食品を販売しているスペースは大抵が飲食店の出張。
店の宣伝も兼ねて人気の物が並ぶ。
レストランはランチメニューを詰めた弁当に、卓上電熱器でスープまで。

お陰でカップ入りのミネストローネは熱々。
嵐山が一口含めば、舌に滑り落ちて腹の底から温めてくれる。
パン屋のスペースでは大きめのアップルパイも選んできた。
林檎の下にカスタードクリームが敷かれて、しっとりした甘さ。

出先で好物を見つけると嬉しい。
口に入れば何でも良いと思っていても、アップルパイは別。


「こっちも食うべぇか?」
「あぁ、それじゃ……」

美味い物で腹が満たされれば気持ちも緩む。
梅丸が自分のパンを差し出したので、そのまま齧り付いた。
いつもの癖、彼の手から。

和磨が横に居るのもすっかり忘れて。


暖まったついでにぼんやりしていたのかもしれない。
思い出した一瞬、喉に詰まりそうになった。

味も分からず呑み込んだので息苦しい。
水が欲しいところだが、そんな場合でなかった。
動揺を必死に押し殺す。

「……っ、いや……、違う、からな?」
「えっ、何も言ってないよ僕。」

しかし和磨の反応は意外なものだった。
笑ったり驚いたり、ましてや顔を顰めたりもせず。
むしろ嵐山に声を掛けられて初めて反応した。

取り繕っている様子もなさそうだ。
表情豊かな奴だと思っていたので、本当にありのままらしい。


「ほら飲みな、落ち着きなねユウ。」

嵐山が飲み掛けていた紅茶の缶を梅丸が手元に置く。
誰の所為だと思っているのか。
効かない事など分かっていようが睨まずにいられない。
和磨の表情が読めないので八つ当たりも含んで。

鼻を鳴らして、結局紅茶を受け取った。
飲み干すには丁度良い温さでミルクに緊張を解かれる。
一息つくと、嵐山が顔を上げた。


さて、本題に入ろうか。
誤魔化そうにもそんな空気でなくなった。

手から物を食べるなんて友達同士なら普通、とは言い切れなかった。
女子なら兎も角として男子である。
尖った性格の嵐山なら尚更、他人と馴れ合うなどありえない。

そんな相手が要るとしたら。


「違う、てのが違うんだったらさ、否定するのって梅丸先輩に悪いよ。」

思いのほか、和磨は真っ直ぐと深く切り込んで来た。
相変わらず悠々とした態度を崩さないまま。
メロンソーダを飲みながら、何でもないような軽さで。

付き合っている事を見透かされた。
認めないのは梅丸に悪いとも。

間違ってない。
だからこそ返答に詰まってしまう。
相手を言い負かすのは得意なのに、こんな時には弱い。
愛を吐くのも、素直になるのも。

いつから和磨はそう認識していたのだろう。


「前から、何となく。どっちでも良いけどね、友達でも恋人でも。」
「いや全然違うだろ、その二つ。」
「はっきりさせて分類する必要ないよ、僕は部外者だし。」
「あぁ、そう……」

自分には関係ない、故にどうでも良い。
要するにそう言われた気がした。

そうした和磨の考え方は良くも悪くも受け取れる。
嵐山がどうであっても偏見を持たないと云う証明のような。
若しくは、打ち明けたのに突き放されたような。

アップルパイを食べていたのに、すっかり渋い顔。
もはや林檎もカスタードも甘さは彼方。


「そうだよ……、梅丸は僕のものなんだから。」

否、こんな簡単な言葉だけでは終われやしなかった。
嵐山も今度こそ自分の意志を表わさなくては。
そう聞いて、やっと和磨が笑った。

「だよねぇ、そもそも嵐山先輩が誰かと一緒に過ごしてる時点で凄い事だって。」
「他人に興味湧かないし。」
「両想いで自己責任ならそれで良いんだよ、誰かに迷惑掛かってる訳でもないのに。」
「まぁ、真理だろうね……」

きっと語り合えば長くなる。
性別の事、それで間に転がる問題の事。

片鱗だけ口にしたら、少し胸が軽くなった。
悪い事なら梅丸にした覚えはある。
服の下に残した、無数の傷。

それでも他の誰かを傷付けたりなんてしていない。
此の痛みは、梅丸と嵐山だけ。


「……僕だってボンデージ似合うアラサーの女王様に虐げられたりとかしたいよ。
 でも駄目なんだよ、下手すると相手が捕まっちゃうから。」

和磨が神妙な表情で、ふと零す。
そんな戯言なんて聴こえなくて良かったのに。
どうも綺麗には閉められないようだ。

女子に興味のない嵐山には理解出来ない。
性癖とは罪深いものである。



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2016.06.22