林檎に牙を:全5種類
独り言に近い声量で上機嫌の歌が流れる夕暮れ。
音程は外れずとも途切れ途切れ。
タイルを叩く靴音も、何処かリズムのある響きで刻まれながら。

「大河、食べるか歌うかどっちかにしましょうよ。」
「ほォお。」

くぐもった返事の後、一ノ助は無心に肉を齧る。
どうやら前者を選んだらしい。
買ったばかりの串カツは食べ歩きするには少し大きめ。
細かいパン粉が散り放題、集中して食べないと胸元が汚れてしまう。

ソースの匂いに誘われ、遼二も自分の串カツに噛み付いた。
制服に染みが出来るくらいは大目に見よう。
黒いので目立たないし、何よりもうすぐ袖を通さなくなるのだ。



放課後、二人で電車に乗ったのは何となくの行きあたりばったり。
やって来たのは4月から通う高校の最寄り駅。

しかし高校に用がある訳でもないので、行っても仕方ない。
そうして駅の近くにあるアーケード街を探索中。
創業50年の老舗から営業したばかりの店が肩を並べる、広い一本道。
喫茶店やレストラン、服屋に本屋に100円ショップまで。


見渡した遠く、屋根で覆われた一本道を抜けた先に高校。
通学路なら正に寄り道天国だった。

遼二達の先輩も同じようで、高校の制服姿と何度か擦れ違う。
王林中学の女子はセーラー服なのでブレザーが妙に目新しく感じた。
尤も、男子は学ランなので代わり映え無し。
着る物にはそれほど頓着が無いのでどうでも良いか。

串カツも春に向けた下見である。
手頃な値段と大きさで、買い食いには丁度良さそうだ。


最後の欠片を呑み込んで、串はゴミ箱に放った。
パン粉を叩いたら自由になった手。
何か飲もうかと自販機を探して見回した時、一つの店が目に入る。
子供なら胸が躍る場所。

「玩具屋まであンのな、入ってみねェ?」

身体ばかり育った悪ガキのような一ノ助が指差す。
実際、興味を惹かれるのは山々。

大手のチェーン店やショッピングモールの玩具コーナーとは違う雰囲気。
ショーウィンドウには年代物のロボットや人形が並ぶ。
確かに古びていても、目が輝いて生き生きした印象を受ける。
故に、店と云うよりちょっとした博物館のようだった。

遼二の了解を得るまでもなく、一ノ助がドアを開けた。
こうして一歩踏み込めば玩具の王国。


店内は少し通路が細めなので大柄な一ノ助には窮屈そうだった。
それも仕方ない、何しろ商品が膨大。
温かみのある木の玩具にぬいぐるみ、トレーディングカードゲームのセット。
黒髪豊かな日本人形から精巧な美少女フィギュアまで所狭しと。

最新式の玩具も勿論置いてあるが、他所でも買える。
此処では古い物を見た方が楽しそうだ。


辿り着いた奥、二人とも特撮コーナーで一旦足を止めた。
数年前の作品まで置いてあるのは情け深い。
ヒーローはたった一年で交代になるので玩具も入れ替えが激しい。
劇中で新アイテムが続々と登場していくので尚更である。

無造作に積まれた箱は色褪せていたが、ちゃんと新品。
売れ残りだとしても時が経つにつれて価値が出る。
見る人によっては宝の山だ。

なので、あるような気はしていた。


「悩むわァ、欲しいなコレ。」

箱を前に一ノ助が溜息を吐いた。
食べ物以外にそんな目を向けるなんて珍しい。
と云うのも、中身は縁浅からぬ物。

「救命戦隊サイレンジャー」シルバー専用の変身アイテム。
まだ子供だった頃に憧れの的だったヒーロー。


テレビで観ていた頃と重なって、そう古くない記憶も蘇る。
去年の春頃、彼らになりきって歌ったステージ。
わざわざ準備して揃えた衣装に練習の日々。
こんなにも鮮やかなのに、もうじき同じ季節が廻って来るなんて。

時の流れが速く感じたら大人の始まり。
こうした思い出に満ちた中学三年生は既に秒読みとなっている。
次に店へ来る時は、高校生だ。


「……それで、本当に買うんですか?」
「あァ、ちっと財布に痛ェけど俺は思い出に金を払うわ。」

箱を抱えて意気揚々、レジへ向かう。
玩具を手に入れた子供の顔で。

本来なら、誕生日やクリスマスでないと買ってもらえない玩具。
それに加えて10年前の新品では多少プレミアがつく。
小遣いの大半は食べて使ってしまう一ノ助だ。
こうやって後に残る物を欲しがるなんて、やはり特別。

「思い出に金を払う」とはよく言ったものだ。
それだけ楽しかった、忘れがたかった。

表面上は乾いていた反応でも、遼二も密かに感心していた。
もうあの時間に戻れないなら物を残すのも良いだろう。
最初に渉が転校して消えた。
高校からは皆も離れ離れ、共に通うのは一ノ助だけ。


「次、パン食いてェな。」
「まだ食べ足りないんですか、お金なくなったんじゃ……」
「けどさァ、あっちのパン屋がどうしても気になってよ。」
「夕飯入るなら良いですけど。」

春からこんな遣り取りは毎日のものになる。
此の時間帯、此の場所で。

否、そうとも限らない。
お互い新しく友人を作って、他の誰かと遊ぶようにもなる。
若しかしたら今日だけかもしれないのだ。

けれど、今は何も知らないふりをして楽しもう。
空の見えない天国で。



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2016.07.14