林檎に牙を:全5種類
あなたにとって双子の片割れはどんな存在ですか?

「血の繋がった同い年の同居人。」

梅丸理佐にとって、兄の灯也はそうとしか答えられなかった。
だから目を輝かせて訊ねたりしないで欲しい。


双子と云うだけで、昔から物珍しさから質問攻めされてきた。
けれど絆だとかドラマチックな事は何一つ無し。
いつも同じ返答を繰り返すだけ。

兄と妹で性別が違う、それも二卵性なので似ている訳でもない。
入れ替わって周囲を欺くなんて漫画じゃあるまいし。

どちらも赤毛で吊り目がちではあるが、双子でなくとも親譲り。
寧ろそれくらいしか共通点なんか無いのである。
長身で冷静な兄に対し、小柄で明朗な妹。
好みも違えば息も合わず。


子供の頃なら仲良くなれたかもしれないが、今や思春期。
異性と云うだけで距離が出来るのに。

理佐の手を煩わせるのはもう一つ、妙に女受けが良い兄の事だった。
凛々しい外見とクールな性格が素敵だと友達は口を揃える。
時には羨まれ、またある時は紹介を頼まれ。
これから先も続くのかと思うと、本当にうんざりしてしまう。

一応は相手の顔を立てて話してはみるが、返事は同じ。
何しろ兄自身はいつも興味無さげ。
いっそ彼女を作ってくれたら皆も諦めるだろうにと。


いつぞや愚痴った事は、忘れた頃になって現実になる。

中学三年生になってから気付けば兄は外泊が増えた。
そうして、妹にだけはっきりと言葉にしたのだ。
付き合っている相手が居るから、もう紹介は断ってくれと。


質問は山々、しかし驚きのあまり一瞬声を失った。
兄が恋愛なんて想像出来なくて。

今までは友人達が勝手に持て囃していただけ。
よく知らない故に、勝手なイメージも含めて一人歩きして。
交際となればそれだけでは出来ない。
何を考えているか読めない兄を受け止めるなんて、一体誰だか。

基本的に自分から口を開かない。
訊ねられたら淡々と答えるので、断片的には特徴を耳にした。
同級生だとか手先が器用だとか。


それでも深い部分に踏み入るつもりはさらさらあらず。
気を遣って避けて来たのに。

あれは1月半ばの日曜日だったか。
朝から恋人と出掛けていたらしい兄が帰宅して早々、こう告げてきた。
紹介するから逢ってくれ、と。
土産を渡すついでで、そんな軽く言わないでほしい。




対面の時、理佐は高く結んだ赤毛を思わず跳ねさせた。
感情が素直に表れる辺り、まるで小動物の尻尾。

「…………えっ?」
「どう云う事とかは訊くなよ、見ての通りだから。」

気まずそうにしながらも、兄の恋人はこう切り捨てる。
やはり言葉が迷子になった理佐を置き去りに。


昼休みの校舎に現れたのは、兄と同じ学ラン姿。
驚いたのも無理はあるまい。
恋人として、男子生徒を紹介されりしたら。

どうやら嘘や騙りでもなさそうだ。
「彼女」だとは一度も口にしていなかったか、そう云えば。


クラスは違えど嵐山悠輝の事なら理佐も知っている。
色素が薄くて華奢、吊り目の整った顔立ち。
とは云っても女子から黄色い声を浴びる類ではなかった。

容姿で気圧されるだけでなく、刺々しい雰囲気の近寄り難い存在。
無暗にからかったりするのも反応が恐ろしい。
成績は良いのだが、愛想が無いので教師達すら持て余し気味。
言うなれば、孤高の美少年。


騒がれなくても注目は浴びているのだ。
神聖視して遠くから見守るような子も中には居る。

噂話ならお喋りの時に否応なく耳へ届くのだ。
知っているだけに、他人事ながら理佐は複雑な心境にもなる。
嵐山に視線を送っていた子達に「ご愁傷様」と言いたい。

「灯也が誰と付き合ってても意外だけど……、そっか、うーん……」

その孤高の美少年と兄に交流があったなんて。
クラスメイトと云うのも知らなかった。
一体どんな繋がりなんだが。
何がどうなって恋人になったのやら、それも同性で。


しかし、不可解そうにしていたのは理佐だけでなかった。
向き合っていた嵐山の方も別の意味で。

吊り目を顰め、ますます鋭い眼光。
警戒心の針を尖らせて刺さりそうな空気を作る。
後に知ったが、これは嫉妬。
妹とは云えども恋人と親しげにしていたら面白くない。


「訊いておきたいんだけど、そもそも何で紹介なんか要る訳?
 もうすぐ卒業するんだし今更だね、随分と。」

ふいと横を向いて、嵐山は兄に問い掛けた。
理佐からの質問は受け付けさせないようにしたくせに。

けれど、それもそうだ。
春から嵐山と兄は同じ高校らしいが、理佐は女子校。
接点なんてますます無くなるのだ。
わざわざ明かす必要があるとは思えない。

理佐だって勘付いていた事など無し。
兄が誰と付き合っていても、関係なかったのに。


「お世話になってます、とか僕が妹に頭下げろって事でもないだろ。」
「まぁ今後の根回しだいね、味方は多い方が良いべ。」
「だから、その味方になってくれるとは限らないだろ。」
「ん……、だからこないだリスとか買ったんさ。」

勝手な事を、と思いつつ静観していた理佐は反応した。
件のリスには覚えがある。

恐らくは先日、兄が理佐に買い与えた羊毛フェルトか。
くるくる巻かれたカフェオレ色の尻尾。
赤いマフラーに雪うさぎを抱いて。

いつもお互い存在が空気にも関わらず、土産なんて妙だとは思ったのだ。
あの贈り物の意味を正しく悟った瞬間。


「……って、灯也!あれ賄賂かい!」


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2016.07.24