林檎に牙を:全5種類
片目で覗き込んだ春は歓喜と悲しみに染まっていた。
ファインダー越し、見慣れた校舎もクラスメイトも特別な色。
指先一つで止まる時間を刻み付ける。

終わりゆく小さな世界を残す為。


卒業式の日は朝から慌ただしかった。
厳かな式こそあれども、皆それぞれ騒々しく別れを惜しむ。
結局はイベント事。
涙を滲ませる形で中学校最後の祭りを愉しむのだ。

デジカメを持参した理佐はカメラマンとして活躍していた。
幾つもの笑顔に向けてシャッターを切る。
別れる友にも、まだ道を同じくする友にも等しく。


カメラ機能なんて携帯にも付いているのだ。
ただの写真なら、わざわざ頼まなくても自分で撮れるだろうに。

それでも、カメラを前にすると皆ポーズを決めたがる。
浮かれた勢いとでも言うべきか。
来月からの不安もあるのだ、今日くらいは良いだろう。

そして、いつもは素直になれない者にも良い機会。


「撮ってあげるって言ってるのに。」
「恩着せがましいよ。」

カメラを前に呟けば、嵐山の棘が飛んで来る。
めでたい日だと云うのに顰め面。


窓辺に桜が咲き零れる空き教室での会話。
目の前には嵐山と兄、此処に居るのは三人だけだった。
関係が周囲に明かされる心配なんて無い。
そもそも人前であろうと、写真くらいで誰も疑わないだろうに。

慣れていたので、こんな程度では別にダメージなんて受けていない。
あれから何かと嵐山とも話す機会が増えていたのだ。
いい加減、理佐も彼の扱いを分かっていた頃。


最初からただの提案なのだ。
写真が嫌いな人も居るので強制するのは間違いか。

それに、恋人同士の時間に理佐は余所者であろう。
嵐山からすれば二人きりでゆっくり過ごしたいのかもしれない。
尻尾に似た髪を翻して「お邪魔しました」と去ろうとすれば。


「俺は欲しいけどな、ユウとの写真。」

ふと、今まで無言だった兄に引き留められる。

ああ、空気が変わった。
色白の嵐山は染まると薔薇が咲くようになる。

「……一枚だけなら。」


斯くして桜を背にした、最後の学ラン姿が並ぶ。
笑わない彼らはぎこちない顔。
こんな時すら無表情の兄と、口許を引き結んだ硬い嵐山。

第三者からすれば、ただの写真。
此の場に居る者だけが知っていれば良いのだ。
写らなかった外、二人が指先を繋いでいた事なんて。
見ている方が恥ずかしい、まったく。


「キス写真とかは他所でやりなさいね。」
「やる訳あるか、ばーか。」
「そうだんべな……、実妹に撮られるのは流石にキツいべ。」

唇から滑る言葉は飽くまでも軽い。
カメラは下ろされて、それぞれ視線が交わる。

これにて理佐もお役御免。
まだ撮らねばならない事は残っているのだ。
たった一日では足りない程。
今度こそ友人達との和に戻ろうと、駆け出す準備。

そんな時、嵐山が一息吸った。
喉に詰まっていた誘いを吐き出す為。


「あのさ、今日は従兄と僕らで夕飯行くんだけど……お前も来る?」


幼い頃の小さな出逢いは時を経て果たされた。
今日去り行く、此の場所で。
繋がりは糸となって紡がれ、知り得なかったものにも結ばれる。

赤かろうと、なかろうと。



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2016.09.10