林檎に牙を:全5種類
雪に変わらないまま雨は止んで、灰色の空に桜。
今年もまた三年生を送る春がやってきた。


卒業式と云うのはどうにも退屈である。
当人達ですらやる気が無さそうなので、在校生なら尚更。
練習ならば数日前から嫌と云うほど重ねて来たのだ。
クラスごとに群れを成して、移動や起立着席。

ただでさえ長身の和磨にパイプ椅子は少し居心地が悪いのだ。
欠伸を噛み殺しながら話を聞き流し、誰かの涙も他人事。

和磨が出席する卒業式だって、此れが最後でも。



式を終えた校内では、それぞれ卒業生が最後の挨拶を交わしている。
別れに酔っているようなドラマチックな場面があちこちで。
しかし、和磨にはやはり関係無し。
何処かで時間を潰そうとしていたのだが、そうもいかず。

「おォ、ズマ居た居た。」
「どうも。」

背後からの一声、一ノ助と遼二に捕まった。
学校で慣れ親しんだ顔も見納め。
そうだ、確かに三年生で交流があるのは彼らくらいか。


「卒業おめでと、飴でもあげようか?」

曇っていようと二人にとってはハレの日。
祝う言葉や方法なんて他に幾らでもあるが、こんなものである。
花なんて持ってないし、贈っても意味は無い。
食べる事が好きな二人なら飴玉の方がよっぽど喜ぶだろう。

煙草代わりに持ち歩いている飴の袋。
分けて食べるようにと、適当に一掴み取り出して渡す。
一つずつと言わない辺り今日はサービス。

そうして、嬉しそうに手を伸ばしてくる様は子供。
身体ばかりが大きくなっても。


「飴も良いんだけどよォ、ズマも折角だし何か書いてくんねェ?」

ストロベリーの粒で頬を膨らませながら、ふと一ノ助が切り出す。
何の事かなんて決まっていた。
和磨を呼び止めたのだって、最初からそれが目的だったのだろう。

小脇に抱えられていたサイン帳1冊。
開いて見せられれば、無数のメッセージと名前。


「今日で別れでもないでしょ、僕ら同じマンションだもん。」
「でもよォ、来月にはお前も引っ越すじゃねェか。」

和磨にも寄せ書きを頼んだのは、そう云う事だ。

もうじき和磨も学校から、街から、居なくなる。
よくある親の都合による引っ越し。
深刻に構えてもいないが、寂しくないと言えば嘘になる。
こんなにも居心地が良い場所は他にないのに。


「……ペン貸して。」

一ノ助とはもう少しだけ共に居られる。
しかし、別れはすぐそこ。
のらくらと断る事も出来たが、ペンを握ったのは覚悟も込めて。

インクの先が紙の上で踊る。


「おォ、カッケェ!」
「これは、ちょっと……恥ずかしい思い出になるかもしれませんよ?」
「そうだねぇ、でももう僕の目に触れる訳じゃないしさ。」

くだらない事で笑い合って、ページを閉じた。
黒い制服の下で羽を育てた鳥籠。
未熟であろうとなかろうと、羽ばたく時まで間もなく。

別れを惜しむメッセージの羅列。
新たに刻まれたのは、「I'll be back」の文字。



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2016.09.22