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*性描写(♂×♂)
駅からアーケードを抜けて徒歩数分の先。
此処には、それはそれは仰々しく聳えた"城"がある。
街にとって、北紅高校はそんな立ち位置だった。
学校を中心として広がってまるで城下町。
駅ビルやショッピングモールが無いだけ派手でないが、活気はそれなりに。
小さな店が大事にされて等しく肩を寄せ合っていた。
学校の四階、窓からは街が一望出来る。
あまりに静かなもので、ぼんやりしているとそんな妄想に誘われた。
先程まで浅い眠りに身を任せていたので夢見心地。
小さな音楽準備室はオーケストラの楽器で満員だった。
コントラバスやサックス、奥に小型のピアノまで置かれているのだ。
どれも音を生まなくなって久しい。
薄っすらと埃を被ったまま何年も眠っている。
そもそも部屋自体が透明に近い存在。
鍵など掛けずとも、普段は誰も気に留めず通り過ぎる。
そんな場所に遼二はただ一人。
窓のすぐ下、壁を背にして座り込んでいた。
凭れ掛かると柔らかい癖毛が潰れ、落ちかけた眼鏡を直す。
欠伸一つ、誰も見てやしないので隠す必要も無し。
時は、城下町へと生徒達が散って行く放課後。
帰宅する彼らとは逆方向、人知れず階段を上がって来た。
それはバイトが無い日の習慣。
此処こそが、遼二にとっての城だった。
けれども、知っているのはもう一人居る。
先程からゆっくり近付いてきた気配の正体がドアを開いた。
こんな距離の上、座った状態。
楽器に邪魔されて来訪者の姿は隠れてしまっている。
無論、あちらからも遼二は見えやしないが。
息も殺さずに、ただ待つ。
既に入口手前からして圧迫感のある部屋なのだ。
茨が繁って立ち塞がるように。
しかし足の踏み場も無いかと思いきや、実は抜け道ならある。
楽器と楽器の間、辛うじて一人くらい通れる隙。
遼二もまたこうして奥へ辿り着いた。
縫うように窓辺へと進めば、古いピアノと楽譜で一杯の棚。
そこだけは足を伸ばせるくらいの空いたスペースが広がっている。
来訪者は茨を抜け出た。
陽の当たる場所、長身の影が落ちる。
「いらっしゃい、神尾。」
「……ん。」
浅く頷けば無造作な髪が一房揺れる。
遼二と同じ黒い学ラン。
秘密の城を共有する二人目の主は、名を神尾承史と云った。
四月の空は放課後を迎えたばかり、まだ陽は高くて眩しい。
ただ神尾が目を細めたのはその所為ばかりでもなし。
気怠げに隣へと座り込んだ。
遼二もよく「眠そう」だと言われるが、彼は少し種類が違う。
高校でも相変わらず、遼二は周囲に敬語で上手く立ち振る舞っていた。
涼しげな面差しも相まって紳士的な印象を受ける。
物腰が柔らかいながら、しっかりした人柄と云った評判。
一方、神尾はいつでも寝起きの雰囲気を持つ人物だった。
欠伸した後のように潤み、伏しがちの垂れ目。
鼻筋が通って整った顔立ちなのだが緩んだ口許が惜しい。
隙だらけのまま過ごしているかと思えば、どうも考えの読めない表情。
だから何をするか分からない。
突飛な言動を取れば、相手はたちまち呑まれてしまう。
「今日は、どっちが先?」
「……遊ぶ方で。」
否、こうなる事など遼二は知っていた。
その為に来ていたのだから。
真っ黒な制服を緩めれば、仄白い肌が晒される。
どちらも自分の意志で脚は開かれた。
カーペットの床に寝そべって、互いの熱を探る。
防音の効いた部屋と分かっていても声を殺しながら。
誰も知らないし、誰も来やしない。
此処は、悪い事をする為の場所。
濡れた手を拭う頃、再び眠りに誘われた。
今度は二人揃って。
背丈のある神尾には少しばかり窮屈。
故に身体を丸め、遼二が腕に抱かれる形になる。
神尾の乱れた髪から瑠璃色のピアスが覗いた。
間近で見るたび妙に息苦しくなって、遼二は口を開く。
「今度の週末って、神尾はまた何処か行くんですか?」
「ちょっとそこまで、魔女の出る森に。」
その場の会話繋ぎで、遼二は問い掛ける。
対する返答は素っ頓狂。
それは単なる思い付きの法螺などではない。
神尾が口にすると、冗談にはとても聞こえない何かがあった。
城に閉じ籠っていると現れる少年。
教室が違うので、逢瀬はほとんど此処である。
もしも遼二がいばら姫であろうと、神尾は王子ではない。
愛や恋での関係ではないのだから。
物語には役割があるのだ。
では、何者か。
そう訊ねられたら、解答はきっと夢魔だろう。
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此処には、それはそれは仰々しく聳えた"城"がある。
街にとって、北紅高校はそんな立ち位置だった。
学校を中心として広がってまるで城下町。
駅ビルやショッピングモールが無いだけ派手でないが、活気はそれなりに。
小さな店が大事にされて等しく肩を寄せ合っていた。
学校の四階、窓からは街が一望出来る。
あまりに静かなもので、ぼんやりしているとそんな妄想に誘われた。
先程まで浅い眠りに身を任せていたので夢見心地。
小さな音楽準備室はオーケストラの楽器で満員だった。
コントラバスやサックス、奥に小型のピアノまで置かれているのだ。
どれも音を生まなくなって久しい。
薄っすらと埃を被ったまま何年も眠っている。
そもそも部屋自体が透明に近い存在。
鍵など掛けずとも、普段は誰も気に留めず通り過ぎる。
そんな場所に遼二はただ一人。
窓のすぐ下、壁を背にして座り込んでいた。
凭れ掛かると柔らかい癖毛が潰れ、落ちかけた眼鏡を直す。
欠伸一つ、誰も見てやしないので隠す必要も無し。
時は、城下町へと生徒達が散って行く放課後。
帰宅する彼らとは逆方向、人知れず階段を上がって来た。
それはバイトが無い日の習慣。
此処こそが、遼二にとっての城だった。
けれども、知っているのはもう一人居る。
先程からゆっくり近付いてきた気配の正体がドアを開いた。
こんな距離の上、座った状態。
楽器に邪魔されて来訪者の姿は隠れてしまっている。
無論、あちらからも遼二は見えやしないが。
息も殺さずに、ただ待つ。
既に入口手前からして圧迫感のある部屋なのだ。
茨が繁って立ち塞がるように。
しかし足の踏み場も無いかと思いきや、実は抜け道ならある。
楽器と楽器の間、辛うじて一人くらい通れる隙。
遼二もまたこうして奥へ辿り着いた。
縫うように窓辺へと進めば、古いピアノと楽譜で一杯の棚。
そこだけは足を伸ばせるくらいの空いたスペースが広がっている。
来訪者は茨を抜け出た。
陽の当たる場所、長身の影が落ちる。
「いらっしゃい、神尾。」
「……ん。」
浅く頷けば無造作な髪が一房揺れる。
遼二と同じ黒い学ラン。
秘密の城を共有する二人目の主は、名を神尾承史と云った。
四月の空は放課後を迎えたばかり、まだ陽は高くて眩しい。
ただ神尾が目を細めたのはその所為ばかりでもなし。
気怠げに隣へと座り込んだ。
遼二もよく「眠そう」だと言われるが、彼は少し種類が違う。
高校でも相変わらず、遼二は周囲に敬語で上手く立ち振る舞っていた。
涼しげな面差しも相まって紳士的な印象を受ける。
物腰が柔らかいながら、しっかりした人柄と云った評判。
一方、神尾はいつでも寝起きの雰囲気を持つ人物だった。
欠伸した後のように潤み、伏しがちの垂れ目。
鼻筋が通って整った顔立ちなのだが緩んだ口許が惜しい。
隙だらけのまま過ごしているかと思えば、どうも考えの読めない表情。
だから何をするか分からない。
突飛な言動を取れば、相手はたちまち呑まれてしまう。
「今日は、どっちが先?」
「……遊ぶ方で。」
否、こうなる事など遼二は知っていた。
その為に来ていたのだから。
真っ黒な制服を緩めれば、仄白い肌が晒される。
どちらも自分の意志で脚は開かれた。
カーペットの床に寝そべって、互いの熱を探る。
防音の効いた部屋と分かっていても声を殺しながら。
誰も知らないし、誰も来やしない。
此処は、悪い事をする為の場所。
濡れた手を拭う頃、再び眠りに誘われた。
今度は二人揃って。
背丈のある神尾には少しばかり窮屈。
故に身体を丸め、遼二が腕に抱かれる形になる。
神尾の乱れた髪から瑠璃色のピアスが覗いた。
間近で見るたび妙に息苦しくなって、遼二は口を開く。
「今度の週末って、神尾はまた何処か行くんですか?」
「ちょっとそこまで、魔女の出る森に。」
その場の会話繋ぎで、遼二は問い掛ける。
対する返答は素っ頓狂。
それは単なる思い付きの法螺などではない。
神尾が口にすると、冗談にはとても聞こえない何かがあった。
城に閉じ籠っていると現れる少年。
教室が違うので、逢瀬はほとんど此処である。
もしも遼二がいばら姫であろうと、神尾は王子ではない。
愛や恋での関係ではないのだから。
物語には役割があるのだ。
では、何者か。
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2016.10.22 ▲
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