林檎に牙を:全5種類
城を見つけたのは、入学してから一ヶ月足らずの頃だった。
神尾とこうした関係になったのも。


一ノ助は念願の水球部で忙しくなり、遼二もバイトを始めた。
部活で別々になるのは中学の頃と同じ。
とは云え、高校生になってから放課後は共に過ごす事が減った。

運動部とは何処の学校も厳しい。
水球部はほぼ毎日活動しているが、バイトは週三日だけ。
駅へ続くアーケード街はそれこそ寄り道天国。
ただ、一人では楽しさも半減してしまう。

遼二だって一人で行動するのが寂しいなんて訳ではない、別に。
感受性豊かで騒がしい一ノ助に慣れてしまった所為だ。
遊ぶにはどうも静かすぎる。


それなら、いっそ自由と静寂に浸るのも手。
最上階の四階は音楽室や視聴覚室、物置くらいしかあらず。
吹奏楽部や合唱部は無いので人も通らない。
そんな廊下、ちょうど影の濃い壁にドアノブが一つ。

「開かれない扉は存在していないのと同じ、その向こうの世界も」

此れは昔観たドラマの台詞。
好きな女優が口にしていたのでよく覚えていた。

誘われるように開いた、なんて云えば怪談の始まりに似ているか。
勿論、奇妙な現象など何も起こっちゃいないのだ。
音楽準備室は押し込められた楽器で一杯。
此処は単なる、オーケストラの寝床。

カーペットの床と、窓から差し込む午後の太陽。
暖かそうだったもので奥へ誘われた。


普通なら諦めて扉を閉じてしまうところだろうに。
楽器の隙間を縫えば、何とか身体が通る。
奏者が居ないオーケストラは恐ろしく静かだ。
どれも年代物のようで、碌に手入れもされていないらしい。

艶を失ったチェロに触れてみたら、指先に小さな痛み。
ささくれが食い込んで傷を作った。

人を寄せ付けない城の中、閉じ籠って夢を見る姫君。
ふと、いばら姫を思い出した。
眠くなってきたのは棘の所為ではないけれど。


甘噛みで抜き取った棘を吐くついで、血を舐める。
そうして顔を上げて、見つけたのが此の隠れ家だった。
日溜まりには小さなピアノと楽譜の棚が一つ。
とても居心地の良さそうな空間がぽかりと開いていた。

鞄を枕に寝そべってみたら最後。
あっと云う間に夢の中へ落ちたのは言うまでも無し。


こうして絶好の昼寝場に、遼二はよく入り浸るようになった。
数日のうちにはブランケットを持ち込んでいた始末。
部活をしていた生徒達に紛れて下校するので、誰も違和感は抱かない。

繊細そうに見えられがちでその実、太い神経を持つのが遼二である。
バイトを始めて少し疲れていた事もあってか。
高校の中でだらだらと気兼ねなく過ごせる場所が欲しかったのだ。
大人しく帰るより、誰の目も無いだけ呼吸が楽。



そして、あれは四月の終わり頃だったか。
此の日もブランケットに包まれて一眠りしていた。

あまりに気持ち良くて、温泉に浸かっていた夢を見た程。
しかしゆったり過ごしてはいるのだが、可笑しな事だらけだった。
湯の沸いている場所がスーパーの店内だったり、おでんの具も浮いていたり。
夢とは不条理なものと決まっているのだ。


故に、目が覚めた時も夢の続きかと思った。
有り得ない筈の光景。

秘密の城で眠っていた遼二の隣、誰かが居たなんて。


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2016.10.26