林檎に牙を:全5種類
知らずに城を共有していたのなら、遅かれ早かれ顔を合わせていた。
扉を開けた時から決まっていた事。
そう考えれば、遼二だけが気まずい思いをするのは変だ。

結論付けて、堂々と扉を叩いた。
相変わらず鍵も掛かってないので易々と迎え入れられる。


楽器が邪魔して、部屋の奥は辿り着くまで何も見えない。
予告通りに足を投げ出して座り込む姿は其処に。
今日は神尾の方が早かった。

「あぁ……、どうも。」
「……ん。」

遼二の声に頷くと、無造作な髪の合間でピアスが揺れる。
昨日は俯いていたのでよく見えなかった。
深い青で小さな石の欠片。
耳朶を打ち抜くのではなく、下げるタイプなので目立つ。

起きていても伏しがちの目だ。
先程までまた眠っていたのか、元からなのだか。


わざわざ休み時間などに当人を探そうとは思わなかった。
神尾のクラスは遼二と階も違う。
普通に過ごしている分には偶然遭う事も無さそうだ。

今日はそれとなく地元のクラスメイト達に訊いてみた。

そもそも北紅街の住人は此処に進学する事が多い。
中学校だってそう遠くないのだ。
細く長い付き合いの子でもエピソードは幾つか知っていた。


のんびりした雰囲気と性格で大声を聞いたためしが無い。
決して能動的ではなく何事も受け身、だそうだ。
感性が少し変わっていて、家柄の事もあり普通なら浮くところ。
しかし周囲は昔から馴染みの面々ばかり、慣れた反応で受け流される。

好意的な意見では「天然」だとか女子からの人気は悪くなかった。
ただ、良くない話も一つや二つ。
神尾家に喧嘩を売って、街を追い出された一家が居るとも聞く。

「気を付けろ」とは下手に突くなと云う意味か。
警告されずとも、そんな真似はしないのに。


「おれは前から知ってたよ、早未の事。」
「え?」
「ふわふわ頭が居るなーと気になって。」
「ああ、そうですか……」

遼二の柔らかな癖毛は黒い羊を思わせる。
断りも入れずに髪を撫でられて、流石に少し驚いた。
なんて躊躇いの無い奴だ。

「それは別として、おれ以外の誰かが此の部屋使ってる事も。
 このカーペットね、奥に行こうとすると足跡着くから。」

ゴミは必ず持ち帰っていたし、ブランケットも隠していた。
一応、痕跡は残さないようにしていたのだが。

確かにカーペットには毛並みがある。
それでも、そんな些細な違いで遼二の気付くなんて。
外見よりも鋭いのかもしれない、もしかしたら。


何にしても、鉢合わせしたからには今まで通りともいかず。
秘密の場所だと思っていたのに。
いや、自分だけの物だと考えるのがそもそもの間違いか。
学校は公共の場なのだから。

「それで……、僕は居ない方が良いんですかね?」

遼二の質問は率直に。
イエスとノー、両方の返事を想定した上で。


対する神尾は、何故かゆっくりと首を傾げた。
意味が解からない訳でもあるまいに。
一人と二人では過ごし方が全く変わってくるだろう。
しかも打ち解けた相手どころか、会話したのは今日が初めて。

そうは思ったが、今更の話か。
昨日なんて面識のない遼二の隣で無防備に寝ていたくらいだ。
流石「変わり者」と言われるだけあった。

「部屋使う許可って、おれが決める事なの?」
「少なくとも譲り合う必要ありますよ、僕が居たら寛げないでしょう。」
「寝る為に来てるのなら、早未の方が困るんじゃないかな……おれ居たら。」
「だから、そこはお互い様ですって……」

まるで「自分は構わないけど」と前置きされた気がする。
遼二だけが迷惑するような言い方。

数秒後差はあっても、そこは神尾の方も気付いたらしい。
遼二が気を悪くした事も含めて。
「違う違う」とばかりに軽く手を振って打ち消し、リュックを探る。
どう云う訳だか、薄手の本を取り出した。


「この部屋、防音だし発声練習に丁度良かったから……
 おれ居たら五月蝿くて寝らんないでしょ、早未。」

ノートにも似た本には見覚えがある。
昨日、神尾が膝の上で広げていた物だった。

「台本……ですよね、それ。」
「うん、趣味なんだけど劇団入ってるの。」

頷き一つ、意外な事にそこは初耳。
学校の有名人が舞台に立つなら広く知られそうな話なのに。


少し聞いてみれば、合点は云った。

わざわざ電車を乗り継いで紅玉街の劇団に所属しているらしい。
それもそうか、北紅高校には演劇部が無いのだ。
芝居に興味があるなら外へ出なくては。

人形じみて生気が無い奴とばかり思っていたのに。
一体どんな顔で舞台に上がるんだか。


「……良かったら、聞かせてくれません?」

同性愛者ではあっても遼二にだって好みくらいはある。
感情表現が豊かで屈強なタイプの男が良いのだ。
長年想っている男だって。
故に、目の前の彼は全く外れているのだが。

神尾に興味が生まれたとしたら、今この瞬間だった。



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2016.11.04