林檎に牙を:全5種類
梅丸灯也とは正直なところそこまで仲が良かった訳ではない。
中学三年生で一度だけ同じクラスになった。

いわゆる”友達の友達”と云う縁。
カラオケ大会でグループ出場したのが去年の春。
その時だけ、休日や放課後に練習で行動を共にしたものである。

ホールから出てすぐ、足を止めて梅丸と向き合った。
ワックスでシャープな癖をつけた髪は陽に透けると赤くなる。
一重の吊り目は無表情になりがち。
こんなに突然の再会でも、あまり驚いたように見えない。


梅丸こそどうしてこんな子供向けのイベントに居るのか。
訊かなくても格好を見れば大体分かった。
筋肉質の細身には紺青のブレザー。

「そう云えば、梅丸君も早生学園でしたっけ……」
「ん、演劇部。一年だから裏方だけな。」
「そうですか、お疲れ様です。」
「出迎えの仕事終わるし、ちっとんべぇ待てるか?何か食うべぇ。」

梅丸からの誘いに、顔に出さないまま遼二は渋った。

軽く挨拶だけで済ませようと思ったのに。
対して仲が良かった訳でもあるまいし、何を話せば良いのか。


「連れが居るからまた今度」と断ろうとしたが、その台詞は使えず。
神尾と向き直ったら、軽く手を振って去られてしまった。
こんな人混みに呑まれると見えなくなるのも早い。

どうやら気を利かされたようだ。
それが却って今は忌々しい、後で文句を言ってやらねば。

神尾に逃げられた遼二は仕方なく曖昧に頷いた。
嘘の一つも吐けば良かったが、タイミングを失った後だ。
劇も終わって暇になったところ。
こうして過ごす相手が変わって、しばしの待機。


「急に悪ぃんね早未、ユウも一緒で良いか?」
「何、僕が居たら悪いみたいに。」

再び呼ばれた声に振り向けばもう一人増えていた。
それも、これまた見覚えのある顔。


煮詰めた砂糖に似た褐色の髪と、尖った雰囲気の吊り目。
小柄で華奢なので年下に見えるが彼も元同級生。
出席番号一番、嵐山悠輝だ。
中性的な整った容姿で目立っていた子である。

「嵐山君も久しぶりですね。」
「……どちら様?」

あからさまに訝しげ。
そう云えば、こうした人物だったか。

冷たいようだが仕方あるまい。
ただでさえ不愛想で人を寄せ付けない奴だった。
確かに、同じクラスの時も喋った事は無かったと思う。
忘れ去られていても当然と云うべきか。

こんなメンバーで和気藹々と食事、とはいくまい。
浅い溜息の後、遼二は苦笑一つ。
斯くして三人連れ立って、屋台の方へ移動する。



鉄板の上で卵色が流れて、ふわりと甘い匂い。
薄い生地は瞬く間に焼ける。
色鮮やかなフルーツやアイスクリームを巻けば、まるで花束。
いつもクレープの屋台は何処か華やか。

匂いに誘われて子供達が寄って来るので注文が途切れない。
三人もまた、屋台に足が勝手に動いてしまった。


「梅丸君と嵐山君、演劇部って意外ですね。
「別に……、従兄に誘われたからだし。衣装担当だから舞台に立つつもり無いよ。」
「俺もそこまで演劇に興味ある訳じゃねぇけど、結構楽しいんさ。」

素っ気ない嵐山に、前向きな返答をする梅丸。
一年生なんて入学して一ヶ月にも満たない素人なのでこんなもの。

せいぜい今回の舞台も手伝い程度。
二人だって出迎えの係なので、まだどうこう言える立場でない。
それでも演劇は芸術。
部員が揃って世界を作り上げる一体感は味わったようだ。


冷たいクリームが熱々のクレープで蕩けてくる。
流れ落ちないうちに頬張って、口数が少なくても問題無し。

神尾の綿あめを食べた後なので口の中がますます甘い。
かと云って、軽食タイプは食べる気が起きず。
クリームチーズに砂糖を振っただけのフレーバーにしておいた。
遼二には此れくらいシンプルな物で丁度良い。

梅丸が苺、嵐山が林檎。
食べる方に忙しそうな辺り、彼らも甘い物が好きらしい。

それなら宣伝しておいた方が良いだろうか。

「僕は部活じゃなくてバイト始めましたよ。」
「何処にしたん?」
「駅ビルの西側にある……「Miss.Mary」ってカフェです。」
「あぁ、知ってるかもしんねぇ。広間の近くだんべ?」

「Miss.Mary」はチェーン店を構える程のシフォンケーキ専門店。
喉を潤すよりは甘い物を楽しむ為にあった。
焼き菓子の良い香りを漂わせて、駅ビルの人々が足を止める。
お陰様で毎日繁盛していた。


良ければ二人で、と云う言葉は何となく躊躇う。

カップルや女同士なら気兼ねなく口に出来たろうに。
いっそどちらも一人の時なら同じく。
モノクロで落ち着いた雰囲気の店なので、男でも入りやすい。

では何故かと訊かれれば、遼二は少し困る。
中学校の頃からよく知っていた訳ではない梅丸と嵐山。
今誘えば「一緒に」と云う意味になる。
此の二人の事に踏み込んで良いのか分からなかったのだ。


嵐山を見ていれば、特にそう思う。
尖った態度で他人に興味無さそうな相手だったのに。

遼二と梅丸が二人になる事を阻むように着いて来た。
考え過ぎとも言い切れまい。
あれほど素っ気ない奴が誰かに執着するなんて。


視線を離していた隙、動揺した響きの声がして思わず振り向いた。
見れば何やら梅丸が嵐山に叱られている。

それでも決して緊迫した空気などではなかった。
怒っている嵐山を受け流している梅丸。
じゃれ合うような、慣れたような。
むしろ和やかさすら匂わせて、祭りの風景に溶け込む。

ああ、そう云えば。
嵐山が感情を露わにしているところなんて初めて見た。



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2016.11.30