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梅丸灯也とは正直なところそこまで仲が良かった訳ではない。
中学三年生で一度だけ同じクラスになった。
いわゆる”友達の友達”と云う縁。
カラオケ大会でグループ出場したのが去年の春。
その時だけ、休日や放課後に練習で行動を共にしたものである。
ホールから出てすぐ、足を止めて梅丸と向き合った。
ワックスでシャープな癖をつけた髪は陽に透けると赤くなる。
一重の吊り目は無表情になりがち。
こんなに突然の再会でも、あまり驚いたように見えない。
梅丸こそどうしてこんな子供向けのイベントに居るのか。
訊かなくても格好を見れば大体分かった。
筋肉質の細身には紺青のブレザー。
「そう云えば、梅丸君も早生学園でしたっけ……」
「ん、演劇部。一年だから裏方だけな。」
「そうですか、お疲れ様です。」
「出迎えの仕事終わるし、ちっとんべぇ待てるか?何か食うべぇ。」
梅丸からの誘いに、顔に出さないまま遼二は渋った。
軽く挨拶だけで済ませようと思ったのに。
対して仲が良かった訳でもあるまいし、何を話せば良いのか。
「連れが居るからまた今度」と断ろうとしたが、その台詞は使えず。
神尾と向き直ったら、軽く手を振って去られてしまった。
こんな人混みに呑まれると見えなくなるのも早い。
どうやら気を利かされたようだ。
それが却って今は忌々しい、後で文句を言ってやらねば。
神尾に逃げられた遼二は仕方なく曖昧に頷いた。
嘘の一つも吐けば良かったが、タイミングを失った後だ。
劇も終わって暇になったところ。
こうして過ごす相手が変わって、しばしの待機。
「急に悪ぃんね早未、ユウも一緒で良いか?」
「何、僕が居たら悪いみたいに。」
再び呼ばれた声に振り向けばもう一人増えていた。
それも、これまた見覚えのある顔。
煮詰めた砂糖に似た褐色の髪と、尖った雰囲気の吊り目。
小柄で華奢なので年下に見えるが彼も元同級生。
出席番号一番、嵐山悠輝だ。
中性的な整った容姿で目立っていた子である。
「嵐山君も久しぶりですね。」
「……どちら様?」
あからさまに訝しげ。
そう云えば、こうした人物だったか。
冷たいようだが仕方あるまい。
ただでさえ不愛想で人を寄せ付けない奴だった。
確かに、同じクラスの時も喋った事は無かったと思う。
忘れ去られていても当然と云うべきか。
こんなメンバーで和気藹々と食事、とはいくまい。
浅い溜息の後、遼二は苦笑一つ。
斯くして三人連れ立って、屋台の方へ移動する。
鉄板の上で卵色が流れて、ふわりと甘い匂い。
薄い生地は瞬く間に焼ける。
色鮮やかなフルーツやアイスクリームを巻けば、まるで花束。
いつもクレープの屋台は何処か華やか。
匂いに誘われて子供達が寄って来るので注文が途切れない。
三人もまた、屋台に足が勝手に動いてしまった。
「梅丸君と嵐山君、演劇部って意外ですね。
「別に……、従兄に誘われたからだし。衣装担当だから舞台に立つつもり無いよ。」
「俺もそこまで演劇に興味ある訳じゃねぇけど、結構楽しいんさ。」
素っ気ない嵐山に、前向きな返答をする梅丸。
一年生なんて入学して一ヶ月にも満たない素人なのでこんなもの。
せいぜい今回の舞台も手伝い程度。
二人だって出迎えの係なので、まだどうこう言える立場でない。
それでも演劇は芸術。
部員が揃って世界を作り上げる一体感は味わったようだ。
冷たいクリームが熱々のクレープで蕩けてくる。
流れ落ちないうちに頬張って、口数が少なくても問題無し。
神尾の綿あめを食べた後なので口の中がますます甘い。
かと云って、軽食タイプは食べる気が起きず。
クリームチーズに砂糖を振っただけのフレーバーにしておいた。
遼二には此れくらいシンプルな物で丁度良い。
梅丸が苺、嵐山が林檎。
食べる方に忙しそうな辺り、彼らも甘い物が好きらしい。
それなら宣伝しておいた方が良いだろうか。
「僕は部活じゃなくてバイト始めましたよ。」
「何処にしたん?」
「駅ビルの西側にある……「Miss.Mary」ってカフェです。」
「あぁ、知ってるかもしんねぇ。広間の近くだんべ?」
「Miss.Mary」はチェーン店を構える程のシフォンケーキ専門店。
喉を潤すよりは甘い物を楽しむ為にあった。
焼き菓子の良い香りを漂わせて、駅ビルの人々が足を止める。
お陰様で毎日繁盛していた。
良ければ二人で、と云う言葉は何となく躊躇う。
カップルや女同士なら気兼ねなく口に出来たろうに。
いっそどちらも一人の時なら同じく。
モノクロで落ち着いた雰囲気の店なので、男でも入りやすい。
では何故かと訊かれれば、遼二は少し困る。
中学校の頃からよく知っていた訳ではない梅丸と嵐山。
今誘えば「一緒に」と云う意味になる。
此の二人の事に踏み込んで良いのか分からなかったのだ。
嵐山を見ていれば、特にそう思う。
尖った態度で他人に興味無さそうな相手だったのに。
遼二と梅丸が二人になる事を阻むように着いて来た。
考え過ぎとも言い切れまい。
あれほど素っ気ない奴が誰かに執着するなんて。
視線を離していた隙、動揺した響きの声がして思わず振り向いた。
見れば何やら梅丸が嵐山に叱られている。
それでも決して緊迫した空気などではなかった。
怒っている嵐山を受け流している梅丸。
じゃれ合うような、慣れたような。
むしろ和やかさすら匂わせて、祭りの風景に溶け込む。
ああ、そう云えば。
嵐山が感情を露わにしているところなんて初めて見た。
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中学三年生で一度だけ同じクラスになった。
いわゆる”友達の友達”と云う縁。
カラオケ大会でグループ出場したのが去年の春。
その時だけ、休日や放課後に練習で行動を共にしたものである。
ホールから出てすぐ、足を止めて梅丸と向き合った。
ワックスでシャープな癖をつけた髪は陽に透けると赤くなる。
一重の吊り目は無表情になりがち。
こんなに突然の再会でも、あまり驚いたように見えない。
梅丸こそどうしてこんな子供向けのイベントに居るのか。
訊かなくても格好を見れば大体分かった。
筋肉質の細身には紺青のブレザー。
「そう云えば、梅丸君も早生学園でしたっけ……」
「ん、演劇部。一年だから裏方だけな。」
「そうですか、お疲れ様です。」
「出迎えの仕事終わるし、ちっとんべぇ待てるか?何か食うべぇ。」
梅丸からの誘いに、顔に出さないまま遼二は渋った。
軽く挨拶だけで済ませようと思ったのに。
対して仲が良かった訳でもあるまいし、何を話せば良いのか。
「連れが居るからまた今度」と断ろうとしたが、その台詞は使えず。
神尾と向き直ったら、軽く手を振って去られてしまった。
こんな人混みに呑まれると見えなくなるのも早い。
どうやら気を利かされたようだ。
それが却って今は忌々しい、後で文句を言ってやらねば。
神尾に逃げられた遼二は仕方なく曖昧に頷いた。
嘘の一つも吐けば良かったが、タイミングを失った後だ。
劇も終わって暇になったところ。
こうして過ごす相手が変わって、しばしの待機。
「急に悪ぃんね早未、ユウも一緒で良いか?」
「何、僕が居たら悪いみたいに。」
再び呼ばれた声に振り向けばもう一人増えていた。
それも、これまた見覚えのある顔。
煮詰めた砂糖に似た褐色の髪と、尖った雰囲気の吊り目。
小柄で華奢なので年下に見えるが彼も元同級生。
出席番号一番、嵐山悠輝だ。
中性的な整った容姿で目立っていた子である。
「嵐山君も久しぶりですね。」
「……どちら様?」
あからさまに訝しげ。
そう云えば、こうした人物だったか。
冷たいようだが仕方あるまい。
ただでさえ不愛想で人を寄せ付けない奴だった。
確かに、同じクラスの時も喋った事は無かったと思う。
忘れ去られていても当然と云うべきか。
こんなメンバーで和気藹々と食事、とはいくまい。
浅い溜息の後、遼二は苦笑一つ。
斯くして三人連れ立って、屋台の方へ移動する。
鉄板の上で卵色が流れて、ふわりと甘い匂い。
薄い生地は瞬く間に焼ける。
色鮮やかなフルーツやアイスクリームを巻けば、まるで花束。
いつもクレープの屋台は何処か華やか。
匂いに誘われて子供達が寄って来るので注文が途切れない。
三人もまた、屋台に足が勝手に動いてしまった。
「梅丸君と嵐山君、演劇部って意外ですね。
「別に……、従兄に誘われたからだし。衣装担当だから舞台に立つつもり無いよ。」
「俺もそこまで演劇に興味ある訳じゃねぇけど、結構楽しいんさ。」
素っ気ない嵐山に、前向きな返答をする梅丸。
一年生なんて入学して一ヶ月にも満たない素人なのでこんなもの。
せいぜい今回の舞台も手伝い程度。
二人だって出迎えの係なので、まだどうこう言える立場でない。
それでも演劇は芸術。
部員が揃って世界を作り上げる一体感は味わったようだ。
冷たいクリームが熱々のクレープで蕩けてくる。
流れ落ちないうちに頬張って、口数が少なくても問題無し。
神尾の綿あめを食べた後なので口の中がますます甘い。
かと云って、軽食タイプは食べる気が起きず。
クリームチーズに砂糖を振っただけのフレーバーにしておいた。
遼二には此れくらいシンプルな物で丁度良い。
梅丸が苺、嵐山が林檎。
食べる方に忙しそうな辺り、彼らも甘い物が好きらしい。
それなら宣伝しておいた方が良いだろうか。
「僕は部活じゃなくてバイト始めましたよ。」
「何処にしたん?」
「駅ビルの西側にある……「Miss.Mary」ってカフェです。」
「あぁ、知ってるかもしんねぇ。広間の近くだんべ?」
「Miss.Mary」はチェーン店を構える程のシフォンケーキ専門店。
喉を潤すよりは甘い物を楽しむ為にあった。
焼き菓子の良い香りを漂わせて、駅ビルの人々が足を止める。
お陰様で毎日繁盛していた。
良ければ二人で、と云う言葉は何となく躊躇う。
カップルや女同士なら気兼ねなく口に出来たろうに。
いっそどちらも一人の時なら同じく。
モノクロで落ち着いた雰囲気の店なので、男でも入りやすい。
では何故かと訊かれれば、遼二は少し困る。
中学校の頃からよく知っていた訳ではない梅丸と嵐山。
今誘えば「一緒に」と云う意味になる。
此の二人の事に踏み込んで良いのか分からなかったのだ。
嵐山を見ていれば、特にそう思う。
尖った態度で他人に興味無さそうな相手だったのに。
遼二と梅丸が二人になる事を阻むように着いて来た。
考え過ぎとも言い切れまい。
あれほど素っ気ない奴が誰かに執着するなんて。
視線を離していた隙、動揺した響きの声がして思わず振り向いた。
見れば何やら梅丸が嵐山に叱られている。
それでも決して緊迫した空気などではなかった。
怒っている嵐山を受け流している梅丸。
じゃれ合うような、慣れたような。
むしろ和やかさすら匂わせて、祭りの風景に溶け込む。
ああ、そう云えば。
嵐山が感情を露わにしているところなんて初めて見た。
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2016.11.30 ▲
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