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「ん、そりゃその二人って付き合ってんじゃないの。」
「……安直ですね。」
あのGWが明けてから最初の放課後。
クレープ屋での一件を聞いていた神尾はそう答えた。
遼二が重たい溜息を吐く意味も知らずに。
確かに神尾からすれば真剣に聞く必要も無いだろう。
友達の友達、顔も碌に知らない梅丸と嵐山なんて赤の他人事だ。
とは云え、遼二だって「どう思う?」などと思って話したのではない。
別に解答が欲しかった訳ではないのである。
いい加減に察してほしい、皮肉だと。
二人で出掛けたのに置いてけぼりを食らったのだ。
誘いだって、梅丸に気を遣われての事。
中学の頃からそこまで仲良かった訳でもないのに。
あちらはあちらで新しい人間関係を築いているので、加わるのは気まずい。
何処か居心地が悪い中でクレープを口に詰め込み、早々と退散した。
学校が始まったら神尾に文句でも言ってやろうと思いながら。
そうして口にしてみたら、この反応である。
話の着眼点が決定的に違う。
こんな調子では伝わる筈がなく、呆れるしかない。
周囲に神尾の事を訊いた時にも、そんなエピソードを幾つか聞いた。
やはり「変わり者」や「天然」と言われるだけある。
遼二自身も一緒に居て何となく感じてはいたが、今日は特に。
話にならないのでは仕方ない。
そこまで考えてから、ふと疑問が浮上する。
分かっているのにどうして神尾と過ごしているのか。
他に友達が出来なかった訳でもないし、何なら一人でも平気なのに。
始まりは確かに此の部屋が繋いだ縁。
そこから帰り道や、休日まで共にするようになって。
あまり認めたくないが、自覚はある。
遼二から神尾に興味を持ってしまったのだ。
ごく淡い物だったとしても。
全く好みのタイプではないにしても。
何となく腹立たしいので、言ってはやらないけれど。
「意外ですね、神尾がそう云う冗談言うのって。」
「何の話?」
「男同士で付き合う、とか。」
「ん、だってそこまで特別な事ではないと思うし。」
そこに触れてみたら何ともあっさりした返答。
深く考えているのか否か、そこまでは相変わらず読めないが。
こうした事を口にするのは悪乗りする奴ばかりと思っていた。
騒いだり囃し立てたりする種が欲しいだけ。
飽くまで冗談の範囲でしかなく、話題だってすぐ移ってしまう。
嘆きにも似た感情を遼二が持つ理由は。
「だって、おれもそう云う経験あるし……早未は?」
伏しがちの目を向けられ、遼二の心音が鋭く跳ねた。
この時ばかりは視線に妙な力強さを持っていて。
適当に誤魔化す事だって出来た筈なのに、逸らせなくなる。
気付かれていたのかもしれない。
いや、本当は問い質される事を待っていたとも思う。
遼二は物心ついた頃から同性愛者である事を分かっていた。
憧れるだけならよくある話。
しかし思春期になって、性欲が絡むと言い逃れ出来ない。
雄の匂いが強い男に触れてみたくて悶々とする。
こんな事を明かした相手は一人くらい。
紅玉街に転校する前、同じ悩みを持つ幼馴染が居た。
相手と云うのも女子なので何も無かったが。
「何、そんなに吃驚しなくても。」
「いえ、ちょっと……今の発言は衝撃大きくて。」
流石に頭を押さえて遼二は俯き加減。
見透かされていたのは置いとくとして、その前。
まさか神尾も同類とは思わなかった。
それも経験済みだなんて。
何処までの話を指すのか、踏み込んで良いのだろうか。
「少なくとも、おれの居る劇団だとそんな人多いけど。」
「演劇やってる人ってそう云うものなんですか……?」
「どうだろ。あと、学校でも遊び相手居るし。」
「名前とかは詳しく話さなくて良いです、生々しいから。」
詳細までは要らないと、神尾の口を手で塞いだ。
まだ少し混乱している頭。
此れ以上は情報過多になって、処理出来なくなる。
ああ、不味い事をしたかもしれない。
咄嗟に手を伸ばしたが、つい触れてしまった。
気付いた後では引っ込みがつかず。
「ん、だからさ……早未としてみたいって言ったら、どうする?」
今度こそ遼二の全身に動揺が走った。
装っていた涼し気な様は脱げて、声すら失いそうな瞬間。
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「……安直ですね。」
あのGWが明けてから最初の放課後。
クレープ屋での一件を聞いていた神尾はそう答えた。
遼二が重たい溜息を吐く意味も知らずに。
確かに神尾からすれば真剣に聞く必要も無いだろう。
友達の友達、顔も碌に知らない梅丸と嵐山なんて赤の他人事だ。
とは云え、遼二だって「どう思う?」などと思って話したのではない。
別に解答が欲しかった訳ではないのである。
いい加減に察してほしい、皮肉だと。
二人で出掛けたのに置いてけぼりを食らったのだ。
誘いだって、梅丸に気を遣われての事。
中学の頃からそこまで仲良かった訳でもないのに。
あちらはあちらで新しい人間関係を築いているので、加わるのは気まずい。
何処か居心地が悪い中でクレープを口に詰め込み、早々と退散した。
学校が始まったら神尾に文句でも言ってやろうと思いながら。
そうして口にしてみたら、この反応である。
話の着眼点が決定的に違う。
こんな調子では伝わる筈がなく、呆れるしかない。
周囲に神尾の事を訊いた時にも、そんなエピソードを幾つか聞いた。
やはり「変わり者」や「天然」と言われるだけある。
遼二自身も一緒に居て何となく感じてはいたが、今日は特に。
話にならないのでは仕方ない。
そこまで考えてから、ふと疑問が浮上する。
分かっているのにどうして神尾と過ごしているのか。
他に友達が出来なかった訳でもないし、何なら一人でも平気なのに。
始まりは確かに此の部屋が繋いだ縁。
そこから帰り道や、休日まで共にするようになって。
あまり認めたくないが、自覚はある。
遼二から神尾に興味を持ってしまったのだ。
ごく淡い物だったとしても。
全く好みのタイプではないにしても。
何となく腹立たしいので、言ってはやらないけれど。
「意外ですね、神尾がそう云う冗談言うのって。」
「何の話?」
「男同士で付き合う、とか。」
「ん、だってそこまで特別な事ではないと思うし。」
そこに触れてみたら何ともあっさりした返答。
深く考えているのか否か、そこまでは相変わらず読めないが。
こうした事を口にするのは悪乗りする奴ばかりと思っていた。
騒いだり囃し立てたりする種が欲しいだけ。
飽くまで冗談の範囲でしかなく、話題だってすぐ移ってしまう。
嘆きにも似た感情を遼二が持つ理由は。
「だって、おれもそう云う経験あるし……早未は?」
伏しがちの目を向けられ、遼二の心音が鋭く跳ねた。
この時ばかりは視線に妙な力強さを持っていて。
適当に誤魔化す事だって出来た筈なのに、逸らせなくなる。
気付かれていたのかもしれない。
いや、本当は問い質される事を待っていたとも思う。
遼二は物心ついた頃から同性愛者である事を分かっていた。
憧れるだけならよくある話。
しかし思春期になって、性欲が絡むと言い逃れ出来ない。
雄の匂いが強い男に触れてみたくて悶々とする。
こんな事を明かした相手は一人くらい。
紅玉街に転校する前、同じ悩みを持つ幼馴染が居た。
相手と云うのも女子なので何も無かったが。
「何、そんなに吃驚しなくても。」
「いえ、ちょっと……今の発言は衝撃大きくて。」
流石に頭を押さえて遼二は俯き加減。
見透かされていたのは置いとくとして、その前。
まさか神尾も同類とは思わなかった。
それも経験済みだなんて。
何処までの話を指すのか、踏み込んで良いのだろうか。
「少なくとも、おれの居る劇団だとそんな人多いけど。」
「演劇やってる人ってそう云うものなんですか……?」
「どうだろ。あと、学校でも遊び相手居るし。」
「名前とかは詳しく話さなくて良いです、生々しいから。」
詳細までは要らないと、神尾の口を手で塞いだ。
まだ少し混乱している頭。
此れ以上は情報過多になって、処理出来なくなる。
ああ、不味い事をしたかもしれない。
咄嗟に手を伸ばしたが、つい触れてしまった。
気付いた後では引っ込みがつかず。
「ん、だからさ……早未としてみたいって言ったら、どうする?」
今度こそ遼二の全身に動揺が走った。
装っていた涼し気な様は脱げて、声すら失いそうな瞬間。
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2016.12.08 ▲
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