林檎に牙を:全5種類
「ん、そりゃその二人って付き合ってんじゃないの。」
「……安直ですね。」

あのGWが明けてから最初の放課後。
クレープ屋での一件を聞いていた神尾はそう答えた。
遼二が重たい溜息を吐く意味も知らずに。


確かに神尾からすれば真剣に聞く必要も無いだろう。
友達の友達、顔も碌に知らない梅丸と嵐山なんて赤の他人事だ。

とは云え、遼二だって「どう思う?」などと思って話したのではない。
別に解答が欲しかった訳ではないのである。
いい加減に察してほしい、皮肉だと。

二人で出掛けたのに置いてけぼりを食らったのだ。
誘いだって、梅丸に気を遣われての事。
中学の頃からそこまで仲良かった訳でもないのに。
あちらはあちらで新しい人間関係を築いているので、加わるのは気まずい。

何処か居心地が悪い中でクレープを口に詰め込み、早々と退散した。
学校が始まったら神尾に文句でも言ってやろうと思いながら。

そうして口にしてみたら、この反応である。
話の着眼点が決定的に違う。
こんな調子では伝わる筈がなく、呆れるしかない。


周囲に神尾の事を訊いた時にも、そんなエピソードを幾つか聞いた。
やはり「変わり者」や「天然」と言われるだけある。
遼二自身も一緒に居て何となく感じてはいたが、今日は特に。
話にならないのでは仕方ない。

そこまで考えてから、ふと疑問が浮上する。
分かっているのにどうして神尾と過ごしているのか。

他に友達が出来なかった訳でもないし、何なら一人でも平気なのに。
始まりは確かに此の部屋が繋いだ縁。
そこから帰り道や、休日まで共にするようになって。

あまり認めたくないが、自覚はある。
遼二から神尾に興味を持ってしまったのだ。
ごく淡い物だったとしても。
全く好みのタイプではないにしても。

何となく腹立たしいので、言ってはやらないけれど。


「意外ですね、神尾がそう云う冗談言うのって。」
「何の話?」
「男同士で付き合う、とか。」
「ん、だってそこまで特別な事ではないと思うし。」

そこに触れてみたら何ともあっさりした返答。
深く考えているのか否か、そこまでは相変わらず読めないが。

こうした事を口にするのは悪乗りする奴ばかりと思っていた。
騒いだり囃し立てたりする種が欲しいだけ。
飽くまで冗談の範囲でしかなく、話題だってすぐ移ってしまう。

嘆きにも似た感情を遼二が持つ理由は。


「だって、おれもそう云う経験あるし……早未は?」

伏しがちの目を向けられ、遼二の心音が鋭く跳ねた。
この時ばかりは視線に妙な力強さを持っていて。
適当に誤魔化す事だって出来た筈なのに、逸らせなくなる。


気付かれていたのかもしれない。
いや、本当は問い質される事を待っていたとも思う。

遼二は物心ついた頃から同性愛者である事を分かっていた。
憧れるだけならよくある話。
しかし思春期になって、性欲が絡むと言い逃れ出来ない。
雄の匂いが強い男に触れてみたくて悶々とする。

こんな事を明かした相手は一人くらい。
紅玉街に転校する前、同じ悩みを持つ幼馴染が居た。
相手と云うのも女子なので何も無かったが。


「何、そんなに吃驚しなくても。」
「いえ、ちょっと……今の発言は衝撃大きくて。」

流石に頭を押さえて遼二は俯き加減。
見透かされていたのは置いとくとして、その前。
まさか神尾も同類とは思わなかった。

それも経験済みだなんて。
何処までの話を指すのか、踏み込んで良いのだろうか。


「少なくとも、おれの居る劇団だとそんな人多いけど。」
「演劇やってる人ってそう云うものなんですか……?」
「どうだろ。あと、学校でも遊び相手居るし。」
「名前とかは詳しく話さなくて良いです、生々しいから。」

詳細までは要らないと、神尾の口を手で塞いだ。
まだ少し混乱している頭。
此れ以上は情報過多になって、処理出来なくなる。

ああ、不味い事をしたかもしれない。

咄嗟に手を伸ばしたが、つい触れてしまった。
気付いた後では引っ込みがつかず。


「ん、だからさ……早未としてみたいって言ったら、どうする?」

今度こそ遼二の全身に動揺が走った。
装っていた涼し気な様は脱げて、声すら失いそうな瞬間。



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2016.12.08