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林檎に牙を:全5種類
何と答えるべきなのだろうか、こうした時に。
確かに速度を上げている心音。
決して甘い意味などではなく、完全に動揺が原因である。

冗談だとしたら馬鹿にされているし、激昂しても良い場面。
しかし本気であるならば。
それはそれで更に困惑してしまう。
遼二に好意があっての事か、単なる性欲なのか。

真意が測れない以上、下手に動けなくなる。


「してみたい、って……」
「嫌なら早未が出てくか、おれを追い出せば良いよ。」

唇に触れたままで固まった指先、神尾の息が熱い。
そうして一歩詰められて、見下ろされる。
至近距離で揺れたピアス。

"今"だと暗に決断を迫られた。

まだ突き飛ばせる事は出来る、相手もそれで構わないと言う。
しかし、それは終わりを意味した。

神尾と言葉を交わすのは今日で最後になる。
きっと気まずくて音楽準備室にはもう来れやしない。
クラスも違えば階も違うのだ。
自然にお互いの存在は消え去って、何も残らないだろう。

そんな別れは何となく惜しかった。
神尾と過ごしている時の空気は居心地が良いと、認めざるを得ない。


それに危険なんてものは無い。
正直なところ、男が好きな遼二には据え膳と呼べる状況。
おいそれと公言できない性癖だ。
今を逃せば、もう同志に遭える事など無いかもしれない。

綺麗な顔をした神尾は人形のようで、危うい色香もある。
女でなくとも惑わされる者は居るだろう。

ただ食欲がそそられるかと云えば、遼二にとっては「否」だ。
全く好みではない事は断言できる。
生気があって肉付きの良い男に惹かれる性質なので、寧ろ正反対。

単に欲を満たすだけならまだしも。


「……それって、神尾の事好きじゃなくても良いんですか?」
「遊ぶだけなら恋愛感情は要らないよ。」

とうとう指先に濡れた舌が触れた。
熱いゼリーを思わせて、溶かされそうな錯覚。
遼二の呼吸が震えた。
引き込める事は許されない、今更。

伸ばされたままの手に、頬を擦り寄られて妙な気分だ。
猫が懐くような仕草で流れるように絡んでくる。
さらりと乾いて、冷たい触り心地の肌。

温めてやりたい、なんて考えるのもおこがましい。
そんな相手なら神尾には他に居るのに。


故に、引き寄せたのはそんな理由ではない。

熱なら布で隠された部分にある。
其処に触れたら彼はどんな声を零すのか。
自分の肌を味わった時、どんな表情をするのか知りたかった。




寒がりなので首元まで留めていたのが仇になった。
ボタンだらけの制服は開くのも一苦労。
逸る指先では尚更の上、そう注目されていると脱ぎにくいのだが。

学ランの方を開いたところで、シャツに神尾の手が伸びた。
手伝いなんて別に要らないのに。


一つ二つボタンを外され、顔を上げたら吐息が触れ合う。
キスするとしたら今が絶好。
遼二が顔を逸らしたのも、それが理由。

「……そーゆーのは、要らないです。」
「ん、そーゆー人多いよ。」

拒絶はあっさりと受け入れられた。
傷付いたり落胆したりする様子もなく、頷いて終わり。

キスを断られたのは遼二だけではないらしい。
そんな口振りだった。
シャツを開いていく手も慣れたもの。
そのままベルトまで外されて、浅く溜息を吐いた。



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2016.12.13