林檎に牙を:全5種類
嵐山家で見上げる空は何処よりも青く感じる。
澄んだ空から切り取られて、真っ白で大きな家は聳え立つ。

切れ長の目を細めて上の空。
畳や襖の匂いに慣れ親しんだ梅丸にとっては少し落ち着かない。
週末の度に寝泊りして、四季の移ろいを感じていても。

冬から覚めた庭には緑が増えて花の彩り。
それはまるで絵本や写真の世界であり、現実感が薄い。


「またぼんやりしてる。」
「ん、悪ぃんね。」

恋人から尖った声を向けられて、軽く謝罪を口にした。
此れでも機嫌が良くなった方。
寒さで苛立つ冬場だったら、きっと実力行使で顎を掴まれていた。

視線を向ければ、嵐山の吊り目が突き刺さる。
ただし拗ねる程度なので痛みは無い。
甘い褐色の髪が陽光を浴び、ますます艶を帯びている。
眩しそうにしている表情にも見えて、むしろ愛らしいくらい。


小さな木のベンチに座り込んで、傍らに冷たい紅茶とお菓子。
人目の無い庭でピクニック気分。
何とも麗らかな日曜日の午後だった。

暖かい季節は動物も元気。
嵐山の手から放たれて、ハリネズミのとげまるが飛び出す。

冬の間ずっとガラスケースに籠っていたのだ。
飼い主と同じく寒さに弱いので日光浴を楽しみにしていた。
短い手足にずんぐりした身体。
いかにも鈍そうに見えるが、意外と素早い。

そうして真っ直ぐと薔薇の根元に辿り着く。
初めてのバレンタインに贈られた花束を思い出した。
蕾を従えてほんの一輪、小さな苗からでも花の女王は咲き誇る。


此の庭は花壇や植え込みが無く、草原に似たメドウ風ガーデン。
手間の掛からない種は撒いただけで育つ。
自然種の植物と調和し、飽くまでもナチュラルな雰囲気を作る。
そう云う訳で雑草も我が物顔で根を張る。

今の季節、数多く咲いているのは毛玉にも似た紫色。
全身を棘で武装して触れる事を許さない。
薔薇よりも気難しそうな、その花の名は薊である。


それは目にするたび、いつも嵐山と重なる。
愛らしくとも人を寄せ付けない。
無遠慮に手を伸ばしたりすれば、たちまち痛い目。
何だか小さな獣を思わせる程。


鼻先を動かしながら、とげまるはひたすら進む。
目線の低いハリネズミにとっては迷路。
飼い主が見当たらず不安になってきたのか、行ったり来たり。

人間の視界に居るうちは心配ないが、少し可哀想か。
飲み干した紅茶を足元に置いた。
そろそろとげまるを迎えに行ってあげようと。

しかし腰は持ち上がらない。
梅丸が膝に力を込めた時、嵐山に凭れ掛かられた所為。


「……此処に居ろよ、もう少し。」

「寂しくて死にそうだ」と、続く言葉が聞こえた気がした。
素直でない嵐山が決して口にしない本音。
梅丸には解かっているから、黙ったまま従った。

時計を気にしていた事は見透かされていた。
いずれ嵐山の両親が帰って来る前に退散しなければいけないと。


薔薇の屋敷に棲む孤独な獣。
共に過ごした想い人に去られて、生気を失っていく。
童話ならそんなページに繋がる。
そうはさせないと、愛を込めて寄り添った。

薊の庭で二人遊び。
狭い世界の沈黙に、通り抜けていく風を聴きながら。



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2017.01.14