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嵐山家で見上げる空は何処よりも青く感じる。
澄んだ空から切り取られて、真っ白で大きな家は聳え立つ。
切れ長の目を細めて上の空。
畳や襖の匂いに慣れ親しんだ梅丸にとっては少し落ち着かない。
週末の度に寝泊りして、四季の移ろいを感じていても。
冬から覚めた庭には緑が増えて花の彩り。
それはまるで絵本や写真の世界であり、現実感が薄い。
「またぼんやりしてる。」
「ん、悪ぃんね。」
恋人から尖った声を向けられて、軽く謝罪を口にした。
此れでも機嫌が良くなった方。
寒さで苛立つ冬場だったら、きっと実力行使で顎を掴まれていた。
視線を向ければ、嵐山の吊り目が突き刺さる。
ただし拗ねる程度なので痛みは無い。
甘い褐色の髪が陽光を浴び、ますます艶を帯びている。
眩しそうにしている表情にも見えて、むしろ愛らしいくらい。
小さな木のベンチに座り込んで、傍らに冷たい紅茶とお菓子。
人目の無い庭でピクニック気分。
何とも麗らかな日曜日の午後だった。
暖かい季節は動物も元気。
嵐山の手から放たれて、ハリネズミのとげまるが飛び出す。
冬の間ずっとガラスケースに籠っていたのだ。
飼い主と同じく寒さに弱いので日光浴を楽しみにしていた。
短い手足にずんぐりした身体。
いかにも鈍そうに見えるが、意外と素早い。
そうして真っ直ぐと薔薇の根元に辿り着く。
初めてのバレンタインに贈られた花束を思い出した。
蕾を従えてほんの一輪、小さな苗からでも花の女王は咲き誇る。
此の庭は花壇や植え込みが無く、草原に似たメドウ風ガーデン。
手間の掛からない種は撒いただけで育つ。
自然種の植物と調和し、飽くまでもナチュラルな雰囲気を作る。
そう云う訳で雑草も我が物顔で根を張る。
今の季節、数多く咲いているのは毛玉にも似た紫色。
全身を棘で武装して触れる事を許さない。
薔薇よりも気難しそうな、その花の名は薊である。
それは目にするたび、いつも嵐山と重なる。
愛らしくとも人を寄せ付けない。
無遠慮に手を伸ばしたりすれば、たちまち痛い目。
何だか小さな獣を思わせる程。
鼻先を動かしながら、とげまるはひたすら進む。
目線の低いハリネズミにとっては迷路。
飼い主が見当たらず不安になってきたのか、行ったり来たり。
人間の視界に居るうちは心配ないが、少し可哀想か。
飲み干した紅茶を足元に置いた。
そろそろとげまるを迎えに行ってあげようと。
しかし腰は持ち上がらない。
梅丸が膝に力を込めた時、嵐山に凭れ掛かられた所為。
「……此処に居ろよ、もう少し。」
「寂しくて死にそうだ」と、続く言葉が聞こえた気がした。
素直でない嵐山が決して口にしない本音。
梅丸には解かっているから、黙ったまま従った。
時計を気にしていた事は見透かされていた。
いずれ嵐山の両親が帰って来る前に退散しなければいけないと。
薔薇の屋敷に棲む孤独な獣。
共に過ごした想い人に去られて、生気を失っていく。
童話ならそんなページに繋がる。
そうはさせないと、愛を込めて寄り添った。
薊の庭で二人遊び。
狭い世界の沈黙に、通り抜けていく風を聴きながら。
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澄んだ空から切り取られて、真っ白で大きな家は聳え立つ。
切れ長の目を細めて上の空。
畳や襖の匂いに慣れ親しんだ梅丸にとっては少し落ち着かない。
週末の度に寝泊りして、四季の移ろいを感じていても。
冬から覚めた庭には緑が増えて花の彩り。
それはまるで絵本や写真の世界であり、現実感が薄い。
「またぼんやりしてる。」
「ん、悪ぃんね。」
恋人から尖った声を向けられて、軽く謝罪を口にした。
此れでも機嫌が良くなった方。
寒さで苛立つ冬場だったら、きっと実力行使で顎を掴まれていた。
視線を向ければ、嵐山の吊り目が突き刺さる。
ただし拗ねる程度なので痛みは無い。
甘い褐色の髪が陽光を浴び、ますます艶を帯びている。
眩しそうにしている表情にも見えて、むしろ愛らしいくらい。
小さな木のベンチに座り込んで、傍らに冷たい紅茶とお菓子。
人目の無い庭でピクニック気分。
何とも麗らかな日曜日の午後だった。
暖かい季節は動物も元気。
嵐山の手から放たれて、ハリネズミのとげまるが飛び出す。
冬の間ずっとガラスケースに籠っていたのだ。
飼い主と同じく寒さに弱いので日光浴を楽しみにしていた。
短い手足にずんぐりした身体。
いかにも鈍そうに見えるが、意外と素早い。
そうして真っ直ぐと薔薇の根元に辿り着く。
初めてのバレンタインに贈られた花束を思い出した。
蕾を従えてほんの一輪、小さな苗からでも花の女王は咲き誇る。
此の庭は花壇や植え込みが無く、草原に似たメドウ風ガーデン。
手間の掛からない種は撒いただけで育つ。
自然種の植物と調和し、飽くまでもナチュラルな雰囲気を作る。
そう云う訳で雑草も我が物顔で根を張る。
今の季節、数多く咲いているのは毛玉にも似た紫色。
全身を棘で武装して触れる事を許さない。
薔薇よりも気難しそうな、その花の名は薊である。
それは目にするたび、いつも嵐山と重なる。
愛らしくとも人を寄せ付けない。
無遠慮に手を伸ばしたりすれば、たちまち痛い目。
何だか小さな獣を思わせる程。
鼻先を動かしながら、とげまるはひたすら進む。
目線の低いハリネズミにとっては迷路。
飼い主が見当たらず不安になってきたのか、行ったり来たり。
人間の視界に居るうちは心配ないが、少し可哀想か。
飲み干した紅茶を足元に置いた。
そろそろとげまるを迎えに行ってあげようと。
しかし腰は持ち上がらない。
梅丸が膝に力を込めた時、嵐山に凭れ掛かられた所為。
「……此処に居ろよ、もう少し。」
「寂しくて死にそうだ」と、続く言葉が聞こえた気がした。
素直でない嵐山が決して口にしない本音。
梅丸には解かっているから、黙ったまま従った。
時計を気にしていた事は見透かされていた。
いずれ嵐山の両親が帰って来る前に退散しなければいけないと。
薔薇の屋敷に棲む孤独な獣。
共に過ごした想い人に去られて、生気を失っていく。
童話ならそんなページに繋がる。
そうはさせないと、愛を込めて寄り添った。
薊の庭で二人遊び。
狭い世界の沈黙に、通り抜けていく風を聴きながら。
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2017.01.14 ▲
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