林檎に牙を:全5種類
「あのさ、ユウ……」
「答えないからな、僕。」

梅丸の問い掛けは尖った声で切られてしまった。
まだ何も言ってやしないのに。

機嫌を損ねやすい嵐山の事。
食い下がっても悪化するばかりなのは目に見えている。
どうしたものかと思いつつも、梅丸は黙って手元の本を閉じた。
そうして棚へ戻した背表紙の題は、チョコレートのレシピ集。

演劇部が休みなので、今日は沈む太陽を図書室の窓から見送る。
2月が近付きつつある放課後の事だった。
梅丸の呑み込んだ話題は一つ、バレンタインデー。


早生学園の図書館は大学から幼稚園まで共用。
生徒なら誰でも出入り自由なだけあって、大変立派な物だった。
それこそ本棚が迷路の壁に思える程には。
レトロ調の外観と相まって、何とも不思議な雰囲気。

嵐山と梅丸、二人で来たのは宿題を片付けてしまう為。
と云う口実のちょっとしたデートである。

元々そう難しい物でなかったので手早く終えて、館内散策。
そのうちに辿り着いたのが料理のコーナーだった。
今年はどんなチョコレートを贈ろうか考えていたところなので丁度良い。
本人に選んで貰った物を作ろうとしたのに、いつも冷たい返答。


「別に、何でも良いってずっと言ってるだろ。」
「貰った物と同じくらい良い物贈るのが礼儀だべ?」
「だから、去年のは成り行きだって!」
「そうだんべか……」

反論されようと梅丸が訝しむのは無理もない。
赤い薔薇の花束と、これまたチョコレートで出来た薔薇。
あんな情熱的な贈り物なんて後にも先にも嵐山からだけだろう。

本当に「成り行き」で済ませて頷くのは鈍すぎる。
素直でないのは重々承知、単なる照れ隠しで口にしているだけか。

此方からは、ハリネズミを模したチョコレートのアソート。
相手の好きな物を考えたら、こうした結果。
愛らしい缶入りで気に入ってもらえたが、同じ物では芸が無さすぎる。

製菓職人を目指している梅丸は技術もそれなり。
今年は手作りする事だけ決めた。


そう云えば、去年もバレンタイン前日はこんな調子だったか。
図書室での会話と云う点まで共通している。
残り少なくなった中学校生活を楽しみながら、卒業を待っていた頃。

あの時も嵐山はバレンタインに消極的な態度だった。
梅丸の方だって、それまで単に「チョコレートの日」とだけの認識。
意味を持ってしまったのは誰の所為だと思っているのやら。
それとも「要らない」と言われないだけ良いのか。


此処数日、繰り返してきた遣り取り。
バレンタインが原因で不仲になってしまっては本末転倒。

決着をつけるとするならば。

「……じゃあさ、バレンタインまで宿題って思う事にしろよ。」

やっと問い掛けに嵐山が応えた。
ただし答えはくれない。
それは、梅丸が考えるべき物だと。


「ユウ、誕生日も同じ事言ってなかったんべか?」
「そうだね、せいぜい悩み抜け。だからもう訊いたりするなよ。」
「ん、そうすんべぇか……その宿題ってユウもやる訳だし。」
「……うるさいな。」

指摘されずとも、嵐山から梅丸へ贈り物をするのは同じ。
去年も「あげる訳ない」と言っていたにも関わらず。
結局のところ立場は対等なのだ。
どれだけ振り回されても、一方が貰うだけでは終わらない。

ああ、そう云えば悪戯のようで楽しくなった気持ちを思い出した。
こうして今年もまた贈り物は内緒。


チョコレートの種は撒かれた。
甘いか苦いか、2/14までに何が育つのか。
悩んで、待って、真冬はゆっくりと足を進めていく。


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2017.01.21