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衝動で連れ出したままバスを乗り換えて、行き先は変更。
金曜の夕暮れは冒険になった。
さて、今夜は何処で過ごそうか。
スケジュールも立てずに決めて行き当たりばったり。
街のビジネスホテルか、それとも山の温泉か。
バスに運ばれながら考える事にした。
二人であれば問題など無いのだ。
それにしても、次のバスを待つ間に何をすべきか。
冒険だって支度くらい必要。
鼓動が落ち着いたら、やるべき事が幾つも浮かんできた。
お互い家に電話を済ませて、一応ATMで懐も温かくしておいた。
幸い、此処はコンビニ。
ちょっとした物なら揃っているので買うなら今か。
生活用品の棚をゆっくりと眺めた。
金曜日は持ち帰る物が多いので、既に鞄はいつもより重め。
体操服も詰め込んでいるので着替えはある。
洗濯前でも冬の体育では汗を流す程ではないし、汚れも少ない。
着替える事を考えたら、必要な物が一つあったと気付いた。
シャツやジャージだけでは補え切れないと。
「ユウも今のうち買っとくか?」
男性用下着を手に取った梅丸が問い掛けてくる。
何となく頷くのを躊躇ってしまい、嵐山は視線を逸らした。
梅丸だって別にふざけている訳ではないのは分かっている。
ただ、先程まで冒険気分だったのに。
急に現実に戻って下着の話を振られては、どう答えれば良いのやら。
横目で見てみれば、同じチェック柄の黒いトランクスが二つ。
飽くまで間に合わせのコンビニ商品なので一種類のみ。
必然的に梅丸とお揃い。
そう云う点でも、妙に気恥ずかしさがあった。
「あぁ、ボクサーじゃなきゃ嫌なん?」
首を傾げる梅丸は至って真面目。
全くもって見当違い、思わず力が抜けてしまう。
男性用下着にも種類はある、確かに嵐山は普段ボクサーだけど。
そう云えば梅丸の方はトランクスが多かったか。
中学生の頃から身体を重ねているのだ。
お互い下着姿なんて数え切れない程見ている。
「そりゃ、トランクスって野暮ったいからあんまり好きじゃないけど。」
「俺は締め付けねぇ方が良いけどな。剣道だと袴の下って何も穿かねぇし。」
「お前、僕が運動しないから何も知らないと思って適当に……」
「嘘じゃねぇって。部活の時、更衣室で裸になるから痕隠すの大変だったんさ。」
当時を思い出したのか梅丸が溜息を吐く。
苦労が込められつつも、何処か艶が混じった色で。
嵐山としては少し苦い記憶。
あの頃は、梅丸に凶暴な感情をぶつけるばかりだった。
情交だって甘い物ではなく一方的に牙を立てて喰い付く形。
薄い肌を好んで、梅丸の全身に痕を刻むのは今でも同じ。
本来なら下着で隠れる部分までも。
着替え中に凝視するような奴は居なくとも、冷や冷やしたろう。
そうと知っていようと、止めるような嵐山ではないが。
「……今日も覚悟しとけよ。」
「ん、待ってるんね。」
口許の空気が綻ぶ程度に笑い合う。
此れは約束だ、共に夜も朝も迎える為の。
痛みなんて既にスパイスでしかない。
もうすぐバスがやって来る。
買い物はそろそろ切り上げて、提げた籠をレジへ運んだ。

illustration by ういちろさん
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金曜の夕暮れは冒険になった。
さて、今夜は何処で過ごそうか。
スケジュールも立てずに決めて行き当たりばったり。
街のビジネスホテルか、それとも山の温泉か。
バスに運ばれながら考える事にした。
二人であれば問題など無いのだ。
それにしても、次のバスを待つ間に何をすべきか。
冒険だって支度くらい必要。
鼓動が落ち着いたら、やるべき事が幾つも浮かんできた。
お互い家に電話を済ませて、一応ATMで懐も温かくしておいた。
幸い、此処はコンビニ。
ちょっとした物なら揃っているので買うなら今か。
生活用品の棚をゆっくりと眺めた。
金曜日は持ち帰る物が多いので、既に鞄はいつもより重め。
体操服も詰め込んでいるので着替えはある。
洗濯前でも冬の体育では汗を流す程ではないし、汚れも少ない。
着替える事を考えたら、必要な物が一つあったと気付いた。
シャツやジャージだけでは補え切れないと。
「ユウも今のうち買っとくか?」
男性用下着を手に取った梅丸が問い掛けてくる。
何となく頷くのを躊躇ってしまい、嵐山は視線を逸らした。
梅丸だって別にふざけている訳ではないのは分かっている。
ただ、先程まで冒険気分だったのに。
急に現実に戻って下着の話を振られては、どう答えれば良いのやら。
横目で見てみれば、同じチェック柄の黒いトランクスが二つ。
飽くまで間に合わせのコンビニ商品なので一種類のみ。
必然的に梅丸とお揃い。
そう云う点でも、妙に気恥ずかしさがあった。
「あぁ、ボクサーじゃなきゃ嫌なん?」
首を傾げる梅丸は至って真面目。
全くもって見当違い、思わず力が抜けてしまう。
男性用下着にも種類はある、確かに嵐山は普段ボクサーだけど。
そう云えば梅丸の方はトランクスが多かったか。
中学生の頃から身体を重ねているのだ。
お互い下着姿なんて数え切れない程見ている。
「そりゃ、トランクスって野暮ったいからあんまり好きじゃないけど。」
「俺は締め付けねぇ方が良いけどな。剣道だと袴の下って何も穿かねぇし。」
「お前、僕が運動しないから何も知らないと思って適当に……」
「嘘じゃねぇって。部活の時、更衣室で裸になるから痕隠すの大変だったんさ。」
当時を思い出したのか梅丸が溜息を吐く。
苦労が込められつつも、何処か艶が混じった色で。
嵐山としては少し苦い記憶。
あの頃は、梅丸に凶暴な感情をぶつけるばかりだった。
情交だって甘い物ではなく一方的に牙を立てて喰い付く形。
薄い肌を好んで、梅丸の全身に痕を刻むのは今でも同じ。
本来なら下着で隠れる部分までも。
着替え中に凝視するような奴は居なくとも、冷や冷やしたろう。
そうと知っていようと、止めるような嵐山ではないが。
「……今日も覚悟しとけよ。」
「ん、待ってるんね。」
口許の空気が綻ぶ程度に笑い合う。
此れは約束だ、共に夜も朝も迎える為の。
痛みなんて既にスパイスでしかない。
もうすぐバスがやって来る。
買い物はそろそろ切り上げて、提げた籠をレジへ運んだ。

illustration by ういちろさん
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2017.03.05 ▲
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