林檎に牙を:全5種類
衝動で連れ出したままバスを乗り換えて、行き先は変更。
金曜の夕暮れは冒険になった。

さて、今夜は何処で過ごそうか。
スケジュールも立てずに決めて行き当たりばったり。
街のビジネスホテルか、それとも山の温泉か。
バスに運ばれながら考える事にした。

二人であれば問題など無いのだ。



それにしても、次のバスを待つ間に何をすべきか。
冒険だって支度くらい必要。
鼓動が落ち着いたら、やるべき事が幾つも浮かんできた。

お互い家に電話を済ませて、一応ATMで懐も温かくしておいた。
幸い、此処はコンビニ。
ちょっとした物なら揃っているので買うなら今か。
生活用品の棚をゆっくりと眺めた。


金曜日は持ち帰る物が多いので、既に鞄はいつもより重め。
体操服も詰め込んでいるので着替えはある。
洗濯前でも冬の体育では汗を流す程ではないし、汚れも少ない。

着替える事を考えたら、必要な物が一つあったと気付いた。
シャツやジャージだけでは補え切れないと。

「ユウも今のうち買っとくか?」

男性用下着を手に取った梅丸が問い掛けてくる。
何となく頷くのを躊躇ってしまい、嵐山は視線を逸らした。


梅丸だって別にふざけている訳ではないのは分かっている。
ただ、先程まで冒険気分だったのに。
急に現実に戻って下着の話を振られては、どう答えれば良いのやら。

横目で見てみれば、同じチェック柄の黒いトランクスが二つ。
飽くまで間に合わせのコンビニ商品なので一種類のみ。
必然的に梅丸とお揃い。
そう云う点でも、妙に気恥ずかしさがあった。

「あぁ、ボクサーじゃなきゃ嫌なん?」

首を傾げる梅丸は至って真面目。
全くもって見当違い、思わず力が抜けてしまう。

男性用下着にも種類はある、確かに嵐山は普段ボクサーだけど。
そう云えば梅丸の方はトランクスが多かったか。
中学生の頃から身体を重ねているのだ。
お互い下着姿なんて数え切れない程見ている。


「そりゃ、トランクスって野暮ったいからあんまり好きじゃないけど。」
「俺は締め付けねぇ方が良いけどな。剣道だと袴の下って何も穿かねぇし。」
「お前、僕が運動しないから何も知らないと思って適当に……」
「嘘じゃねぇって。部活の時、更衣室で裸になるから痕隠すの大変だったんさ。」

当時を思い出したのか梅丸が溜息を吐く。
苦労が込められつつも、何処か艶が混じった色で。

嵐山としては少し苦い記憶。
あの頃は、梅丸に凶暴な感情をぶつけるばかりだった。
情交だって甘い物ではなく一方的に牙を立てて喰い付く形。

薄い肌を好んで、梅丸の全身に痕を刻むのは今でも同じ。
本来なら下着で隠れる部分までも。
着替え中に凝視するような奴は居なくとも、冷や冷やしたろう。
そうと知っていようと、止めるような嵐山ではないが。


「……今日も覚悟しとけよ。」
「ん、待ってるんね。」

口許の空気が綻ぶ程度に笑い合う。
此れは約束だ、共に夜も朝も迎える為の。
痛みなんて既にスパイスでしかない。

もうすぐバスがやって来る。
買い物はそろそろ切り上げて、提げた籠をレジへ運んだ。



illustration by
ういちろさん




*end


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2017.03.05