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嵐山家には空調や灯りが管理されているスペースがある。
何しろハリネズミの飼育には温度調節が必要。
年中エアコンが作動しているとげまるの部屋は一番過ごしやすかった。
カーテンを閉め切って薄暗く、此処だけは涼しい夕暮れ。
そんなガラスケースの城から離れて、微かな光源。
映し出される影は二つ。
ポータブルDVDプレイヤーは画面が小さい。
映画鑑賞にも肩を寄せ合わないとよく見えやしないのだ。
嵐山も梅丸も並んでエンドロールを眺め、何処となく呆けた雰囲気。
別に感動だとか浸っているだとかではない。
物語が終わっても動けないと云うか、動かない理由は。
「どうすんべぇ、次の観る?それとも下降りるか?」
「んー……なんか、どっちもダルいな。」
とげまるが寝ているので薄闇は保たねばならない。
そうなると映画鑑賞か、昼寝か、それくらいしかやる事は限られる。
かと云って、色事には踏み込まず。
嵐山のベッドでのみと固く約束して、未だに破られずにいた。
一歩外では夏の近付く暑い午後。
太陽も気が早いもので、既に気温は30℃を越していた。
クーラーなら嵐山の部屋やリビングにもある。
そちらへ移れば行動制限も無くなる、それは分かっているのだが。
しかし効くまでが長いのだ。
無人で閉め切った部屋はただでさえ熱気がこもっているのに。
退屈しきった嵐山は床に寝そべりつつ、構えとばかりに梅丸の手に絡まる。
戯れで口許に触れてみると、尖った犬歯に当たった。
いつも肌に喰い込んで傷を残す犯人。
こんな暗い場所に居ると、確かに嵐山は吸血鬼のようだった。
茶褐色の髪に色白、凶暴な辺りまで。
化け物とは惑わす為に美しい姿をしていると云う。
梅丸の血を舐める表情を思い出せば、あまりにも様になっていて納得してしまった。
冗談はさておき、退屈ならいっそ何処かへ出掛けるべきか。
宛てと訊かれると少し考え込んでから答えた。
例えば、温水プールだとか。
学校への通り道に施設があるので前から気になっていたのだ。
「絶対に嫌。僕が泳げないの知ってるだろ。」
「そうだんべねぇ……じゃあ……」
せめてと折衷案を挙げたら、渋りながらも頷かれた。
そうと決まれば腰を上げて。
夕暮れの部屋を出て、太陽の下へ帰る事にした。
ぬるめの湯に身体を沈めて、汗が流れ落ちる。
肩まで浸かると思わず息も漏れた。
「ユウのとこの風呂は広くて良いんねぇ。」
「あぁそう、そりゃ良かったな。」
大理石の壁に囲まれて二つの声が小さく反響する。
バスタブの中、密着したままの身体。
突発的に始めた行水遊び。
陽射しはライトグレーの壁をますます明るく見せる。
やはりリゾートホテルを錯覚させて、自然に身体の力が抜けていく。
初めて風呂場に通された時もこんな暑い日だったか、そう云えば。
あの時は一緒に入る事を嵐山は拒否していたのに。
今となっては肌を晒すのも慣れたもの。
ただ、意識していない訳ではない。
梅丸の膝を肘掛けに、胸は背もたれ。
こうして嵐山の椅子にされるのは服を着ている時も同じ。
素肌なので下腹部だけは落ち着かない、流石に。
湯も肌も温度が低くなったところに、認めざるを得ない熱。
嵐山だって知らない筈がないのだが。
確かに行水に誘ったのは梅丸だが、下心は別になかった。
けれど、こうも身を預けられると話は別。
放っておけば治まる。
そう思う事にして、少しでも距離を取ろうと腰を引いた。
「何?」
「いや……」
僅かな身動ぎでも水面には波紋が生まれる。
不意に、振り向いた嵐山の目。
こう云う時に吊り目はまるで射るような強さ。
かと思えば薄く笑って腕を絡ませた。
椅子にしていた先程までとは違って、梅丸を捕らえる空気で。
「たまには欲しがれよ、お前からも。」
もう降参を呟いて、バスタブから大きく水飛沫が跳ねた。
タオルを使うのすら焦れったい。
濡れたままの裸足、急くように階段を駆けて行く。
続きはベッドで。
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何しろハリネズミの飼育には温度調節が必要。
年中エアコンが作動しているとげまるの部屋は一番過ごしやすかった。
カーテンを閉め切って薄暗く、此処だけは涼しい夕暮れ。
そんなガラスケースの城から離れて、微かな光源。
映し出される影は二つ。
ポータブルDVDプレイヤーは画面が小さい。
映画鑑賞にも肩を寄せ合わないとよく見えやしないのだ。
嵐山も梅丸も並んでエンドロールを眺め、何処となく呆けた雰囲気。
別に感動だとか浸っているだとかではない。
物語が終わっても動けないと云うか、動かない理由は。
「どうすんべぇ、次の観る?それとも下降りるか?」
「んー……なんか、どっちもダルいな。」
とげまるが寝ているので薄闇は保たねばならない。
そうなると映画鑑賞か、昼寝か、それくらいしかやる事は限られる。
かと云って、色事には踏み込まず。
嵐山のベッドでのみと固く約束して、未だに破られずにいた。
一歩外では夏の近付く暑い午後。
太陽も気が早いもので、既に気温は30℃を越していた。
クーラーなら嵐山の部屋やリビングにもある。
そちらへ移れば行動制限も無くなる、それは分かっているのだが。
しかし効くまでが長いのだ。
無人で閉め切った部屋はただでさえ熱気がこもっているのに。
退屈しきった嵐山は床に寝そべりつつ、構えとばかりに梅丸の手に絡まる。
戯れで口許に触れてみると、尖った犬歯に当たった。
いつも肌に喰い込んで傷を残す犯人。
こんな暗い場所に居ると、確かに嵐山は吸血鬼のようだった。
茶褐色の髪に色白、凶暴な辺りまで。
化け物とは惑わす為に美しい姿をしていると云う。
梅丸の血を舐める表情を思い出せば、あまりにも様になっていて納得してしまった。
冗談はさておき、退屈ならいっそ何処かへ出掛けるべきか。
宛てと訊かれると少し考え込んでから答えた。
例えば、温水プールだとか。
学校への通り道に施設があるので前から気になっていたのだ。
「絶対に嫌。僕が泳げないの知ってるだろ。」
「そうだんべねぇ……じゃあ……」
せめてと折衷案を挙げたら、渋りながらも頷かれた。
そうと決まれば腰を上げて。
夕暮れの部屋を出て、太陽の下へ帰る事にした。
ぬるめの湯に身体を沈めて、汗が流れ落ちる。
肩まで浸かると思わず息も漏れた。
「ユウのとこの風呂は広くて良いんねぇ。」
「あぁそう、そりゃ良かったな。」
大理石の壁に囲まれて二つの声が小さく反響する。
バスタブの中、密着したままの身体。
突発的に始めた行水遊び。
陽射しはライトグレーの壁をますます明るく見せる。
やはりリゾートホテルを錯覚させて、自然に身体の力が抜けていく。
初めて風呂場に通された時もこんな暑い日だったか、そう云えば。
あの時は一緒に入る事を嵐山は拒否していたのに。
今となっては肌を晒すのも慣れたもの。
ただ、意識していない訳ではない。
梅丸の膝を肘掛けに、胸は背もたれ。
こうして嵐山の椅子にされるのは服を着ている時も同じ。
素肌なので下腹部だけは落ち着かない、流石に。
湯も肌も温度が低くなったところに、認めざるを得ない熱。
嵐山だって知らない筈がないのだが。
確かに行水に誘ったのは梅丸だが、下心は別になかった。
けれど、こうも身を預けられると話は別。
放っておけば治まる。
そう思う事にして、少しでも距離を取ろうと腰を引いた。
「何?」
「いや……」
僅かな身動ぎでも水面には波紋が生まれる。
不意に、振り向いた嵐山の目。
こう云う時に吊り目はまるで射るような強さ。
かと思えば薄く笑って腕を絡ませた。
椅子にしていた先程までとは違って、梅丸を捕らえる空気で。
「たまには欲しがれよ、お前からも。」
もう降参を呟いて、バスタブから大きく水飛沫が跳ねた。
タオルを使うのすら焦れったい。
濡れたままの裸足、急くように階段を駆けて行く。
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2017.06.04 ▲
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