林檎に牙を:全5種類
折角、辰年なので龍カップルで新年SSを。
ネタ浮かぶの遅かったけど1月中には何とか間に合いました。

ホットレモネードと雪の朝。
気怠い素肌を包み込む毛布はとても心地良い。
此処はまるで深砂にとって揺り籠。
カーテン越しの陽光と少し埃っぽい空気、極柔らかな毛布。
それから、傍らで寝息を立てる愛しい男。

雪深い山の中、真冬の朝なんて芯まで凍ってしまいそうなのに。
外の事など素知らぬ顔で、部屋には緩やかな時間。

しかし、いつまでも赤子でいる訳にもいかない。
名残惜しく思いながらも褐色の瞳を開く。
スプリングで毛布が跳ねれば、未だ乾かない体液の匂い。


和磨も目を覚ましたのは、深砂が部屋に戻って間も無く。
鼻が効く故、甘ったるい湯気を嗅ぎ付けてか。

大きなガラス容器に満たされた、透き通った淡い檸檬色。
二人で飲む物と云えば一つきり。
年中欠かせないレモネードは、冬仕様で熱々。

「おはよ、和磨君も飲むでしょ?」
「うん……でもさ、あの、ちゃんと服着て……」

前開きの厚い寝巻きは羽織られているだけの形。
腰から下はきちんと穿いているのだが。
隠れ切らない仄白い裸の乳房が、和磨の眼には痛むらしい。
昨夜、其処に顔を埋めていたのは誰だか。

ベッドに腰掛けた拍子、丸い肩から寝巻きが滑り落ちた。
そのまま後ろから抱き付けば、広い背中で乳房が柔らかく潰れる。
一瞬の焦りは大袈裟な程。

深砂の行動一つ対しても、和磨はいつでも素直に反応を示す。
そうして、気恥ずかしげに大人しくされるが侭。
思わず口許だけで笑ってみたところで彼からは見えやしない。
振り向かせると、褐色が翠を捕らえた。

サイドテーブルに置いたマグカップ二つ。
それぞれ手に取り、漸く朝の乾杯。


「何かね、今……、初めて目が覚めた気分かも。」

揃って一口飲んだ後、和磨が呟く。
ふわりとしているくせ妙に強い響きで。

「何、さっきまで夢の中ふわふわしてた訳?」
「ん……、やっと現実に帰って来た実感湧くね、此れ。」
「王子様のキスみたいなものかな。」
「深砂ちゃんとレモネード飲むのって、それくらい大事だよ……僕には。」

身体に染み込んだ熱い檸檬が、吐息にも香る。
至近距離で絡むのは情欲も。
それから、改めて本物のキスを交わす。


もう一度押し倒しても良いが、それも芸が無い。
ああ、そうだ。

今度こそきちんと寝巻きに袖を通すと、雪景色の窓を開ける。
吹き込む空気は真っ白で清浄。
手を伸ばして、先程まで忘れていた物を掬い取った。

レモネードの容器を載せてきた盆の上。
少しだけ崩れても、確かに形を成して降り立った。

「わ、雪うさぎ?」

思わぬ可愛らしい訪問者に、和磨も幼子の表情で綻んだ。
冷えた手をマグカップで温めながら深砂が頷く。

和磨が寝ている間、窓辺に立った時に作ってみたのは何となくの戯れ。
葉の耳に純白の小さな身体。
ただし、南天は無かったので目は苺の飴玉。


「可愛いねぇ、僕も後で作ろうかな。」
「去年の干支だっけ。」
「うん?今年は辰……、てゆか、龍だから僕達だね。」
「それじゃ……、もう兎は御役御免だよね?」

念を押す強さで言い切ると、唐突に深砂が雪うさぎを拾い上げる。
訳が解からない和磨を置き去りに。
振り被った腕、開けたままだった窓に全力投球。

哀れ、うさぎは雪の中へ還る。


「ちょ……っ、え、如何云う理論での行動?!」
「だからうさぎから龍にバトンタッチ儀式、年も明けた事だし。」
「てゆか深砂ちゃん、うさぎ殺したよね今……」
「じゃ、此れで和磨君も共犯ね。」

吃驚したまま塞がらない口へ、手元に残った苺一粒。
雪に埋もれていた飴玉は氷の塊に近く。
甘さも吹き飛ぶ冷気で、思い切り和磨が顔を顰めた。


一回り年が巡った後、どんな気持ちで此の事を思い出すだろうか。
不老の龍である深砂達は今と変わらない姿。
けれど、感情は同じと限らない。
密かに息衝く欲望が存在している限り。

それまで、おやすみ。
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2012.01.21