林檎に牙を:全5種類
読書とは孤独の時間である。
ページを開いている間は本の世界に浸り、一人きり。
内容が引き込まれる物ならば尚更。
視線で物語を追って、周囲の事など何も目に入らなくなってしまう。

だからこそ、それが面白くない者も居る。


「灯也、帰るぞ。」

現実へ引き戻されるのは不意の事。
少年誌を開いていたら嵐山に二の腕を抓られた。
暑さに負けて皆ほとんど半袖の季節だ、素肌なのでかなり痛い。

名残惜しくも時間切れ、本は棚へ。
此れ以上嵐山が機嫌を損ねないうちに梅丸は従った。


二人にとって馴染みのコンビニでのやり取りだった。
クーラーの効いた店内を後にすると、まだ強い陽射しが全身に刺さる。
慌てて包装紙を剥がしたアイスを咥えてクールダウン。
シロクマは練乳の甘さが舌に優しい。

かと思えば、横から嵐山に奪われて一口食べられた。
あちらも林檎のシャーベットがあるのに。
行儀が悪いのではなく、ただ先程の事で怒っているだけのお仕置きか。


「待たせて悪かったんね。」
「それより立ち読みとかやめろよ、みっともない。」

そこを突かれてしまうと梅丸も痛い。
買わずに済ませてしまうのは、店員にも雑誌にも申し訳ないとは思う。
実のところ前はきちんと購読していたのだ。
しかし数年も経てば連載陣も変わり、もう好きな作品は一つ二つだけ。

子供は漫画を読んで育つもの。
嵐山もそんな経験は無いかと訊ねてみれば。

「マナー悪いから立ち読みするくらいなら買えって教育方針だったよ、うちは。」
「あぁ、言いそうだんべねぇ。」
「そもそも少年誌は買わないよ。下ネタと水着グラビアでうんざりするし。」
「ユウって育ちが良いんね、やっぱ。」

アイスを奪われた後で言うのも何だが、別に嫌味ではない。
家や言動で分かる通り、嵐山はお坊ちゃん育ちだ。
加えて感性が乙女なのであまり下品な物は自分から避ける。
グラビアに関しては、同性愛者だからと云うよりも他人に興味が無いのが理由。


かと云って、嵐山も漫画を全く知らない訳ではない。
部屋には少年漫画のコミックが人並みに。
いずれも王道のヒーロー物ばかりだったか、趣味は何となく分かる。

家族共有の書斎にも大御所の作品集が揃っていたので、親も読むのだろう。
嵐山家は両親が弁護士。
法律関係の本とギャグ漫画が肩を並べているのは何だか可笑しみがある。
勿論、名作と呼ばれたシリアスな物もあれど。

「ホラーも幾つか読んだよ、公君が貸してきたから。」
「まぁ、出所はそこしかねぇか……ユウ、漫画は怖いの大丈夫だったん?」
「別に。むしろうちの叔父さんに似てるキャラ居て笑えたし。」
「何なんソレ、気になる。」

嵐山の従兄、公晴とは高校入学前から面識があった。
何も隠さず“恋人”として紹介される為。
人を寄せ付けない嵐山にとってそこまで信用している相手は珍しい。
幼い頃から兄弟のようでもあり、友達でもあった。

きっと二人にしか分からない思い出話も沢山あるのだろう。
梅丸が他人と交友関係を築いてきた事と同じように。


「そんじゃ俺も何か貸そうか?ユウの好きそうなん何冊かあるし。」
「ん、それは嬉しいけど……急に何だよ。」
「いや、俺ら普通に友達みてぇな事すっ飛ばしてきたから。」
「あぁ……」

そこから先は少しだけ無言が続く。

出逢った頃こそ子供だったが、何をして遊んでいたか思い出せなかった。
否、まともに友達だった時間なんて最初から無かったかもしれない。
お互い執着ばかりが先走って。

こうして共に過ごすようになったのも激情を晒し合った後だ。
漫画の貸し借りや他の友達とする事なんて、何だか今更。


「……僕は友達じゃ嫌だけど。」
「そうだんべねぇ。」

小さく袖を引かれて、呟かれる。
嵐山にしては素直に。
からかって笑うなんて出来ず、梅丸も同意を口にした。

甘い汗を掻き出すアイスを咥えながら初夏の道をだらだら歩く。
袖を摘まむ手が離れたら、握り返そうと密かに決めて。



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2017.06.24